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大衆の悦びを奪うことが、政府のするべきことか!? [自作原稿抜粋]

 一体いつまで煙草を値上げするねん。


 貧困層が煙草を喫っているのである。


 きちんと妻帯して余暇にジムがよいなどしている人たちは、煙草以外にも悦びがあるので煙草は必要ない。


 元々、政府が健康に問題がないとして煙草を売っていたわけである。


 それで、依存症の患者をどんどん作り出しておいて、その層から高額の税金をとるのか?


 今度の値上げで、もう、フィリップモーリスは一箱500円では買えなくなる。


 国会議員は、年収2200万円ももらっていて、大衆のことを考えていない。


 誰が国会議員になっとるねん。


 コネの二世議員か、知名度だけのタレント議員ばかりである。


 月収200万円の一箱500円と、月収8万円の一箱500円と、どんだけ違うねん。


 何でアメリカの風潮に合わせなくてはならないのか。


 自分で自分の国の政策を決められない、ヘッポコジャパンが!

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『やきもち』7(最終章) [自作原稿抜粋]

 栗原さんと支援センターの担当者に断りを入れて、一ヶ月休暇をとった。
 休みにはいった夕方、溜まっていた穴物のアダルトグッズを洗った。
 インターネットで調べてみると、そういう物を引きとってくれる業者があるらしい。洗浄してあることが条件だ。
 目がかすむ。
 今の暮らしでは、古川慎平や今泉勇二に会わなくなったのがよい。
 けれんみの塊で、自分のほうが優れていると事あるごとに主張する古川慎平。健康なのに仕事をせず、雑学の知識をひけらかす今泉勇二。
 今泉と鴻上にからかわれて立腹し、何度私物を毀したことか。
 中江図書館が敷地内禁煙になり、さらに移転したので今泉や鴻上に会うことはなくなった。
 用もないのに一日に六回も電話してくる山下とも、「奢るから飲みに行こうや」としつこく誘い、結局幾らかを負担させられるという金遣いの荒い國分さんとも、作業所に行くようになってつき合いが減った。
 ステップハウスに行きだしたことで、人間関係ががらっと変わった。
 仕事に行きたくないと寝るまえには思うこともあるが、行けば嬉しくてたまらない。
 美人に会えるし、Eくんや千谷さんとの会話も愉しい。何より皆、障害があるのに仕事に意欲的だ。
 今ごろ、八重子さんや夏子さんは、醤油倉の搾り粕処分の仕事で日々くたくただろう。十月は、週に二回行くことになっているらしい。
 身体が熱い。酒を飲むからだろう。
 本を読み、感想を書く。ブログを更新し、酒を飲み、さんざんライブチャットで遊んで気分がよくなってから原稿を書いて一日を終える。この生き方に、一時的にだが戻った。
 しかし、戻ってみると、仕事が恋しい。しんどいことがないと愉しくない。
 あれで最低賃金が保証されていれば、もうそのまま一生働きつづけてもよいとさえ思える。
 けれども、おれは作家なのだ。それは、易学でも示唆されている。 車検が近づいている。
 車は、所有者は正雄名義だが、使っているのは母とおれだ。それも、ステップハウスへ行きかけてからはほとんどおれが使っている。
 国が給付金を出してくれるのが、丁度よいタイミングだったので、それを費用に充てようと思っているが、それだけでは足りない。
 彼岸は、過ぎた。
 有希子、許してくれ。
 墓参りには、行っていない。
 今日も、シャワールームの便器で用を足す。
 元小学校なので、他のトイレは皆せまい。シャワールームのトイレは、男女兼用のトイレだ。
 浦川遥香と栗原さんと窪田さんとおれが使っている。
 浦川遥香は、障害のせいで独り言を人が傍にいるときにも言うのだが、それが大体怒っている感じなので対話しようがない。挨拶だけは、きちんと返してくれる。丸顔で可愛い。彼女は、仕事が終わって送迎車で送ってもらうまでの時間に、十分ほどトイレにこもる。化粧直しをしているのだろう。
 他にも使っている人があるかもしれないが、誰が漏らしたのか便座に便がついていることがあった。
 八重子さんがはいっているのかと思って、「使っとってですか」とドアに赤いサインが出ていたのに尋ねたことがあって、その際、八重子さんは用を足さずに出てきて、「出るわ。私あっちでするからエエで、使うてよ」と返されたのだが、おれも後になってデリカシーのないことをしてしまったと反省した。
 そんな、それぞれの思いがあるからなのか、このところシャワールームのトイレは、おれ以外は使ってないようだ。トイレットペーパーの減り具合でわかる。
 スーパーに缶ビールを買いに行った。
 金がすくないので、十四日までは一日に一缶のビールだけしか買えない。他には、何も買えない。
 缶ビールを前篭に入れて、単車を発進させたら、尻から定期的な振動がつたわった。後輪の空気が抜けていた。
 家まで押して帰るのも面倒なので、チューブに穴が開くことを承知でそのまま走った。
 所持金がすくなく、ケイタイもないのでどうにもならない。
 バイクショップの重田さんに来てもらった。
 原付を積んだ軽トラックの助手席に乗って、一緒に店まで行った。
 展示室のパソコンのまえには、来客があった。重田さんがおれを紹介してくれて、その人と話した。
 出品代行をしてほしいと言われた。ヤフーオークションに、自分で出品できるようになりたいとのことだった。古川慎平のことを知っていたので、奴に難儀させられていることをお互いに話して盛りあがった。
 現状について訊かれたので、自営が休止中で作業所で働いていると打ちあけると、必然的に障害の内容を話さねばならなくなり、テレパシーが出ると話したが相手は信じられないようだった。
 石坂先生が来られて、四人で話すと、重田さんが調律師の小沼さんとも同級生で知りあいだと話された。
 世間は狭いものだ。
 オイル交換もしてもらって五千三百円だった。
「十五日に、払いに来ます」
 とおれは言って家に帰った。
 高校時代の恩師からメールが来ている。
 最初、メールはいたずらだと思っていた。
『コンビニ人間以降の件』というタイトルだったが、なぜ、そのタイトルなのかが分からない。
 ーーーどうして携帯電話を廃止されたのですか。その件について、直接、話し合いを、したいです~ なにかドラマの展開が、知りたいしたです~
 直近のメールは、このような内容だった。
 こちらとしては、特に会いたいという気持ちはない。
 菅沼くんが、一年に一度同窓会、それも小規模にと毎年誘ってくるのだが、それにもうんざりしている。
 留年して編入して通った定時制高校。同級生といっても一年下なのだ。卒業するために屈辱に耐えたのであって、今さら、その当時の面々に会いたいとは思わない。
 酒がない。
 金が底をついた。
 八重子さんが恋しい。

 COBLightという携帯用ライトの点検をしている。
 箱から出し、ホルダーの可動を確認して、電池ボックスの裏蓋を開け絶縁体である紙を引き抜いて、電池を親指で下から押さえスイッチを三回押してみる。強力発光、弱小発光、点滅の順に光れば合格だ。それから一旦、電池二個を外し電池に紙を咬ませて電池ボックスの裏蓋を閉める。それを上下さかさにしてウレタンの穴に挿していく。
 本体カラーは、三色。黒・金・銀だ。
 今までに、ライトが点かないものはなかったが、発光部に汚れのあるものがあった。ホルダーの可動部は、戻りすぎるものもある。それらを避ける。
「室井さんが居らんで、淋しかったやろう」
 二人とも黙していた。
 ややあって、夏子さんが、
「もーう、何か言うとってやでェ、Eさん」
「僕は、淋しくなかったです。夏子さんは? 淋しかったんですか」
 とEくんが返す。
 二人とも、「静かやった」と得心するように言っていた。
 この頃、満くんがおれのことを好いているようだという内容を、Eくんからも関野さんからも聞く。
「水曜日、淋しそうにしてましたよ」
 喫煙所で関野さんがそう言っていた。

                           (了)

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『やきもち』6 [自作原稿抜粋]

 墓参りに行った。
 山に登るだけでへとへとだった。
 なかなか全部には点かない線香だった。母に代わってもらった。母は、二本のマッチを点いている線香から着火し、すべての線香に火を点けた。
「連休中に、小説書くよるで、応援したってよ」
 母は、墓の有希子に向かってそう言った。
 翌日、母の部屋の外側に、ムカデ避けの薬を撒いてやった。母は、一度大きなムカデが自室で出たので、最近は東の部屋では寝なくなっていた。
「絶対に、大丈夫か」
 と母は言った。
 山の日に、義母と有希子の弟が、その子をつれて墓参りに来ていたようだ。
 おれは、そのとき寝ていた。
 義弟は、ゴルフ場のコース管理などで、草刈り機をつかって日中に雑草を刈ったり芝をととのえたりする仕事をしているそうで、母によると随分日に灼けていたらしい。
「オリンピックの選手ほどの筋肉やったわ」
 母は、つづけて、「エエ男やわ」を連発していた。
 金のない盆だ。
 オークション出品をして、先日落札があった。
 ヤフーオークションで初めて落札した品が、石川吾郎の『少女のコンソート』という版画だった。
 それがまた、ばんこちゃんにすごく似ていた。
 それを手にしたとき、再婚相手に必ず同じような器量よしが来ることの象徴だとさえ思った。
 実際には、そんな話はなかった。
 入金は、十五日以降になる。
 金策のための苦肉の策だったが、意味がなかった。年金支給日も十五日である。
 今から考えると、手放さなければよかったとも思うが、これも運命だろう。二〇一〇年二月三日に入手している。オークションも実に、六年目だ。
 國分さんから、「今から行くわ」と電話があって、待っていたのだが、三十分後にふたたび電話があり、「やっぱり行きとうのうなったから行けェへんわ」ということだった。
 この男のことは信用していない。
 ドタキャンが多すぎる。
 最近では、腹も立たない。
 まあ、それも本人の性格という訳ではなくて、統合失調症という病気のせいだろう。約束の時間が近づいてきたら、余分な緊張が増してくるのだろう。
 そう言えば、先日、おれが寝すごして國分さんとの約束をすっぽかしたことがあった。今回のことは、その仕返しなのだろうか。
 そうならば、それでいいが、五回に四回はドタキャンする國分さんが、さらにドタキャンを増やすと出会う機会がなくなってしまうが。本人がそれでいいならいいが、人一倍寂しがり屋なくせに困るのは自分だろう。
 インターネット回線が断線した。
 理由が分からない。
 翌日は、睡眠不足だったので、仕事を休んだ。三時頃まで寝つけず、寝ると夢ばかりみた。
 八重子さんに説明するのは、後ろめたかったが、どういう理由にしろ連絡さえ入れていれば休んでもいいだろう。醤油倉行きで衣笠さんに迷惑がかかっただろう。カーテンレールが多ければ、Eくんに迷惑がかかっただろう。仕方ない。
 正午過ぎに、コラボの契約をしているプロバイダに連絡をとった。
 モデムを電話しながら確認したが、ランプの状態から光回線が来ていない、とのことだった。
 修理に来てくれるらしいが、今すぐではない。明後日となった。
 インターネットがないと、楽しみが半減する。
 酒を飲んで、本を読むことにした。

 おれだけ休みの水曜日、千谷さんが朝礼中に怒って帰ってしまったらしい。
 二日後に来た千谷さんに事情を聞くと、新人の安村さんが自分たちの指示を無視するらしい。それどころか口も利かないそうだ。
「海にある灯台ちゃうか」
 千谷さんは、そう皮肉る。
 安村さんは、四大卒で、それを鼻にかけていると言うのだ。
 たしかに、安村さんは、おれにもまったく口を利かない。いや、一度だけ話したことがあった。
 喫煙所で、
「安村さんは、大卒らしいですねェ。どこの大学ですか」
「私立や。金さえあったら行ける、二流やでェ」
「学部は、何ですか。文学とか、哲学とかですか」
「一応、経済やけど」
「凄いじゃないですか」
 安村さんは、頭をかいた。
 話は、そこまでだった。
 早稲田の政治経済学部でも出たのかもしれない、と後で思った。
「ワシらとは、口も利きたいないねやろ」
 窪田さんは、そう言う。
「社会へ出たら、学歴なんか関係あれへん。仕事が出来るかどうかや」
 千谷さんは、そう言う。
 返事をしない安村さんに激怒したのだろう。
 そこまで深くかかわらねばいいだけのことと、おれは思う。
 千谷さんは、知的障害者の弘中くんが、ずっと臑毛をピンセットで抜いていてぜんぜん仕事をしないことを、
「仕事せんでも、金あたんのか」
 と言うが、それは、自分がストイックに全力で仕事をするからそう思うのだろう。
 B型作業所、就労支援施設なのである。本気で目一杯競争して仕事をしたいのなら、一般の仕事に行くべきだ。
 おれは、千谷さんが何故B型作業所でしか働けないのかは分からない。
 誰にも事情があるのだろう。
 千谷さんも窪田さんも、自分が大卒でないことへの劣等感があるのだろう。
 もっと他のことを主軸にしたらいいのに、とおれは思う。
 常人には書けない「小説」というものを書いて、二作商業出版している。おれは、それで大卒を超えていると自負している。だから、大卒が鼻で笑ってきても腹は立たない。
 山中製缶の社長に、言われたことがある。
 ーーー普段の人付き合いで、魂の深い処までは使わないことだよ。
 ーーー心の上層部だけで、素早く処理する。
 衣笠さんも、スタッフに仕事の出来る奴と思われようとして、必死にスピードを上げて仕事をしている。
 こんなB型作業所で評価されたところで、一日千円じゃないか。目一杯出勤して皆勤手当もとって、単価の高い施設外労働も多くこなしても、せいぜい月二万数千円である。
 生来、おれは怠け者である。根を詰めて頑張っても、その分、同じだけ遊興するし普通の人ほど忍耐がつづかない。
 醤油倉行きだった。
 森脇香純が、家で掃除するのによい箒を探していると言った。
 室井商会で用意してやろうとかいう話になった。
 家に帰って、仕入れサイトやオークションで森脇が言っていた価格に収まるのを探した。
 ひととおり探したので、森脇に連絡をとろうと栗原さんに森脇の電話番号を聞くことにして、栗原さんのケイタイにかけたのだが、それが間違いだった。
「カタログとか資料とか用意出来ェへんのかなァ」
 栗原さんは、そう言ってきた。
 個人情報保護の観点から番号が教えられないのであれば、そう言えばいいのである。
 結局、オークションのページをプリントアウトしたものを用意することにしたが、気分がわるい。
 司法書士に法テラスの手続きを急かす電話をした。
 まあ、今の風潮は、三十年前とは違うのだ。女性が保護されるようになったのだ。
 金曜日は、仕事中、額の疵が痛かった。
 あとから分かったことだが、台風が接近しているので気圧が変化して古傷が疼いていた、ということだ。
 栗原さんに事情を話して早退した。
 だが、こんなときに限って、親が米を精米しておくようにと米袋がワゴンRの後部座席に載っている。
 重い米だった。
 いつもは、三十キロを二袋に分けるのだが、今回は一纏めだ。
 七分づきで精米した。
 酒の量販店に寄って、さきにウイスキーのどでかいペットボトルを買って積み込んでいる。
 米つきのあと、さらにスーパーに寄って缶ビールと酒のアテを買った。バニラバーも買った。
 単車を使って米を車から運んだ。
 気晴らしに単車で出た。
 友藤の店に寄った。
 話している間に、店の電話が鳴った。
 今までどおり、山下が一日に六回ほど用もないのに電話してくるそうだ。
 客が多かったので、早々に引き揚げた。
 重田さんのバイクショップに行った。
 一段ひくい車庫で、車の整備をしておられた。
 ご自分の車のことだが、二千回転から上り坂だとノッキングして加速が鈍いそうで、ディーラーに行かれたらしいがギアボックスの劣化だと言われたそうで、それから個人的にネットなどを見てまわってプラグのせいだと分かって今交換されているところだった。
「アイスコーヒー要るか」
「はい。もらいます」
 車検用の整備が終わって上階に一緒に上がった。
 老後の生活資金の話になった。
 年金二種類と保険に加入されているらしい。
「障害は、治っても治った言わんときんか。その年金とバイトで生きていったらエエねん」
 おれの方は、障害年金しかない。障害が治って老齢年金に切り替わると、国民年金の掛け期間が短いので年金は僅かしか出ない。
 森脇さんに、箒を売った。
 その翌日、仕事を休んだ。
 ステレオタイマーのFMの音が四十分鳴っているのに起きられないのである。母が起こしに来たのは、八時五分だった。それでようやく起きあがったが、コーヒーを沸かしているうちに八時十五分になり、飯を食いおわって服も着てない状態で八時半となった。
 作業所は、移転して遠くなっているので八時五十分には出発しないと間に合わないのだ。
 点けっぱなしのクーラーのせいで身体は怠かったし、額の疵の具合もよくなかったので、それを理由に休むことにした。
 大金を稼ぐのはいいことだが、有名になるのはいいことだろうか。
 昨日から、それを悩んでいる。
 有名になれば、過去の行いなども週刊誌に書きたてられてしまうだろう。
 普通に生きれれば、それが一番いいことだと言う人もいる。
 だが、おれは、いつも、常に何者かに成りたかった。一般の人を見下す優越感に、早く浸りたかった。自分を特別な存在だと思いたかったし、すでに、特別な存在だと思っていた。だから、ドラムもトロンボーンも人一倍練習して上手くなった。
 嗚呼、我が栄光のときよ。
 吹奏楽部の全員をまとめ、下級生の入学式に楽団の指揮までしていたとは。
 ただ、今からでも職業作家にはなれる。
 どんなに辛い体験をしても、却ってそれが真珠の核となる。
 安村さんは、挨拶を返さない。
 それは、それでいいと思う。
 別に腹は立たない。
 千谷さんやらは、それが腹が立つらしいが、ここで深い関係を持っても仕方ない。おれは、自分以外は、皆、自分より馬鹿だと思っている。自分と対等なのは、世に出ている一流の人だけである。そう思っているから腹は立たない。誰でも、そう思いこんでいいのである。
 移転まえのステップハウスに、帰りに寄ることがある。ここが、おれと栗原さんの出会いの場であり、お互いに、家族の愛のようなものを育んだところなのだ、と当時を思いだして余韻に浸る。そんなことが出来るのは、車で通勤している者に限られる。
 そんなことをするのは、おれだけだ。

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『やきもち』5 [自作原稿抜粋]

 ホテルに泊まっている。
 先日、悪い夢をみた。
 自分の墓に遭遇するという夢だった。
 精神病院に入院していて、その閉鎖病棟からパンツとシャツだけの姿で脱走する。
 実家についてみると、家はなくなり更地にされ、自室のあった場所に墓が建っていたのだ。
「世紀の天才、ここに眠る」
 と墓石には書かれていた。
 墓石を動かすと、本来お骨が収まっている場所に、池状にされてウイスキーが溜まっていた。
 親子、甥、親族、すべてが死に絶えていた。
 これからどうして生きていこうかと悩むおれだった。
 ホテルに泊まっている。
 金に余裕がないのに、ホテルに泊まっている。
 夏子さんは今日、八重子さんからおれの様子を聞いたらしく、充分に目をみて挨拶してくれた。
 可愛いものである。
 相手からも、そう思われているかもしれない。
 今日、Eくんが職安のようなところに行くのだと話していた。
 一般就労を含め、勤まる可能性があるかどうかをテストで明らかにしてもらうらしい。
 Eくんは、まだ若い。三十二歳だ。
 そういう動きに出るのも当たりまえだろう。
 おれは、B型作業所で働きながら小説家を目指す。
 知人が誰もいなくなった世間で、自分の将来を考える。
 死んだ情景。
 書かないと、まえへ進まない。
 七月も十日になった。
 国会議員をえらぶ選挙があるのだが、誰に入れたらいいのか分からない。アベノミクスは、大前提として働ける人にだけ効果があるので、おれとしては、もっと障害年金を上げてほしいが、そういう欲求を持っているおれも、どうかしている。政治には治安の維持だけを求めるべきで、自分の経済の問題は自分で何とかするのが筋というものだろう。たとえ病気でも、それでもやれる仕事を作って自分で這いあがらなければ嘘だ。
 そういう考えから小説家を目指したのだ。たとえ、その職業作家になれなくても、それでも何とかして自分の口を糊するぐらいはしなくては、情けない。
 先日、本多晴美と話した。
 実弟や実妹が妬ましいのだと言っていた。
 二人とも結婚して別所帯を構えている。自分だけが独身のまま実家に残り、母親の面倒を看ている。しかも自分だけが精神病に罹っている。なのに、弟や妹は、一切実家に援助しない。そのことに腹が立つのだと。
 また別の場面では、お茶のみ友達の老年の女性に、今会ったばかりの他人に対して、「この人は、病気なんです」と明かされてしまった、と話していた。
 晴美は、その日、鬱憤の塊だった。
 おれは、自分の弟が妬ましいとは思わない。
 いつか挽回できると信じて小説を書いているからだ。
 しかし、精神障害者で、働けないほどの障害がある場合、国はもっと多くの年金を支給すべきだ。
 誰も、自分だけは正しいと思っている。
 誰も、自分はそこそこやれていると思いこんでいる。
 頭がいたい。四六時中、頭がいたい。
 夜中に腹がいたくなって救急車を呼んでから、おれの体調は冴えない。
 中江市民病院の救急外来の医者は、尿管結石だろうと診断したのだが、その後に行った二カ所の泌尿器科では、石は小さすぎて問題ではなく、痛みのあった右側の尿管には最初からまったく石はなかったと言う。
 痛みは治ったのだが、その後仕事中に、なんとも身体がだるくなって早退し、別の内科で肝機能を調べてもらったら悪いと言う。
 ただ、朗報としては、C型肝炎ウィルスが消えていた。
 十数年まえにインターフェロン療法をやってウィルスが一旦消えたのに、その後再燃していた。どういう道理でウィルスが消えたのだろう。考えられることは、数年まえにクラミジアに罹ったときに抗生物質を飲んだので、その作用だろうと思う。
 肝機能改善のために、『ウルソ』という薬を飲みはじめた。それが最近のことである。
 今は、仕事を休んでいる。
 今日、眠気で仕事にならず、早退してきた。
 昨夜なかなか寝つけず、寝ると悪い夢を三本もみた。そのうちの一つは、プロレスラーとして試合に出てほしいと、プロレスラーに打診される夢だった。
 腰の肋骨突起を二本も折ってしまっているので、試合になど出たら身体が毀れてしまう、と言って断るのだが、太い腕のレスラーに肩をたたかれ、三ヶ月時間があるから筋肉をつければよい、と半ば強引に誘われるのだった。
 職業作家になりたいのである。
 それは、他人より楽をしたいからであり、考想伝播を抱えていては、他のどんな仕事もできないからである。治りたいとは思うが、治ったところで、もう、この歳では普通の幸せを望むには遅すぎる。
 神の意志と合致している場合、祈ったことは時間がかかっても実現する。C型肝炎も、治るように祈ったことがあったのかもしれない。
 Googleで「小説家」と検索すると、おれのブログやおれのGoogleプラスのプロフィールページが一頁目に出てくるようになった。
 作家だと見なされるようになった。
 商業出版の小説を、二作出したという功績は大きい。
 知りあいの重田さんに、「たとえ障害があっても仕事しいよ」と言われたとき、こちらの症状もみたことがないのによくそこまで言うものだ、と立腹したが、その立腹がない限り、『室井商会』も起ちあげていなかったし、室井商会名義だからこそ借金ができたのだし、借金していないと二作目を出版もできていなかっただろう。
 苫米地教授の言うごとく、高いコンフォートゾーンでいたら低いコンフォートゾーンでいるよりも目標に近づく。
 プロの作家なんだ、と自身で思いこむことで、少なくとも誰がみても「小説家」と呼ばれるようになった。
 仕事を休んだだけで罪悪感を感じている。まるで、親や先生の評価を気にする子供のような部分がおれにはある。八重子さんにしかられたくないのである。
 しかし、本当のおれは別にいる。大人になってしまえば、法律を犯さないかぎり何をやってもよいのだ、と本当のおれは主張する。 休みだ。
 無断欠勤ではないのだから、本当の理由が羽根をのばしたかったことだとしても、遠慮する必要はない。事実、おれは疲れている。仕事中に眠かったりしんどかったりする。仕事をしていては、書けないということも休んだ理由だ。
 東京の鬼頭も、よく仕事をサボっていた。そうでないと長編など書けないのだろう。
 ばんこちゃんは、涼しい顔になった。
 嗚呼、おれは、ばんこちゃんと所帯を持ちたいと、あの時期は本気で考えていたのだが、アプローチが遅かった。当時、無職で病気もちの投稿生活者という肩書きでは、こちらから付きあって下さいとも言える筈がない。
 休みは、すぐに終わる。
 図書館にだけは行ってきた。
 佐藤という新米らしい女子職員は、とろんとした目でおれを見ていた。
「九冊になります」
 と佐藤は言った。
 限界冊数までは借りないで、また後日、平日にぷらっと訪れる口実にしておくのだ。
 背のひくい女は、身長の高いおれに惚れる。作業所でいえば、古塩つぐみや森脇香純だ。
 それにしても、司法書士増山の行動は遅い。去年九月に必要な書類をすべて作成して渡したのに、今は七月末だ。まだ、法テラス制度の申請をしたとも言ってこない。毎月まいつき、家計簿と給料明細をわたしている。
 これでは、執筆のために仕事を辞めるということが、いつになっても出来ない。
 市の福祉課から、封書がおくられてきた。
 内容を読むと、中江市福祉年金というのが支給されるらしい。月末とのことだった。助かる。
 仕事に行きたくない。八重子さんや夏子さんと談笑できるとしても、絵に描いた餅である目一杯出勤したところで二万六千円。おまけに、小説を書く体力も時間も奪われる。免責が下りるところまで持ってこないと、仕事を辞めることもできない。

 千谷さんは、背中を向けてコードを巻いている。
 衣笠さんがその横で、立ってたくってコードを切っている。
「僕、また尾上市まで煙草買いに行くねん」
「そんなしんどいこと止めとき、第一、ガソリン代かて高うつくでェ」
 と衣笠さんが受ける。
「否、ガソリン代は親の金やから」
「そんな、親に出してもうて、エエなァ」
「いつまでも親に頼っとったらアカンでェ。自分の力で生活でけェんなるでェ。家に食費、ナンボ入れよる?」
 と千谷さんが言った。
 一気に、カチンときた。
 親に頼るところは、自分でも改善したいと思っているところだ。
 障害があるから、こんなところで働いて、少ない収入だから仕方なく親に頼っているのに。しかも障害が顕著になるまえは、月々四~六万を家に入れていたのだ。
 お盆休みにはいった。
 突入まえの最終日は醤油倉行きだった。半日で終わらせるため、多人数で行った。
「柔らかい、尻しとってやなァ」
 西さんの尻におれの尻が当たったときの西さんの科白だ。
 おれは、昨夜、自身が女になってKRを運転している夢をみたのだけれど、偶然の符合だ。
 醤油の絞り粕の板状のものは、途中からごく薄いものばかりとなって麻から外しにくくなった。
 十時五十分頃応援に来た衣笠さんに代わってもらった。
「なんや、今日のは。全然とれんわ。くそーー」
 衣笠さんは、麻からめくるのを止めて、布ごとごしごしとこすりだした。
「せやって、この方法しかないでェ」
 その不充分にしか粕のとれてない布を、「はい、これな」と言いながら森脇さんに投げつける。
 その度に、おれの目に扇風機にあおられた粕がはいる。
 みんな時間がないので必死に手を動かしていたが、西さんは仕事と関係ない雑談を喋っていてゆっくりしていたし、神尾さんは性分からか完璧を目指すので遅かった。
 盆休みがはじまった。
 衣笠さんが、最終日に来ると言っていた。
 鼠とムカデと沢ガニが出るのでしびれを切らしてアパートへ引っ越した衣笠さんだが、まだ電話もインターネットも繋がっていないので、家に居てもすることがないそうだ。
 ステップハウスは、移転が決まっているが、なかなか実行には移されない。廃校となった、旧い小学校が移転先だ。

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『やきもち』4 [自作原稿抜粋]

 明日は、出勤日だが、おれだけ無理を聞いてもらって休みだ。
 醤油倉はツンと鼻を刺す醤油の匂いそのものが充満している。
「あの、私、コレ、わかれへんわ。ちょっと手伝うて下さい」
 長靴には履きかえた神尾さんが、前掛けがずり落ちそうになるのを抑えて、横向きに立ったまま言った。紐の終点に結び目があって、紐が端まで来ているので、一度脱がせて紐の位置のバランスをとってから着せてやって結んでやった。自身でも直すことは出来たのかもしれない。近くに来て世話を焼いてほしい。それが女心というものだろう。
 おれは、一瞬、本能の欲求がよぎって腹や胸を揉みたくなった。否、揉みそうになったが、ぐっと堪えた。
 生真面目な娘なので、触ってしまっては大ごとになる。
 森脇香純さんは、この醤油倉のカス処分の仕事で、雑談が出来るのが嬉しいのだそうだ。
 六十代の細身で長身の西さんと合計四人で、布についたカスを払った。
 年度替わりだから新しいドラマが沢山はじまるから、とか、ステップハウスのスタッフと通所者の年齢を、それぞれ知っている人のを教え合うなどという雑談だった。
 帰りの車中。
 ワンボックスを運転する香純さん。
「こないだ、岩崎宏美が来とったらしいわ」
「ええ? どこにいなァ」
 と西さん。
「市民会館によ」
「岩崎宏美は、もう歳やろ」
 とおれ。
「いーや、若かったでェ。……せやけどあれやな、前の席は皆、ファンクラブの人が抑えてまうねんなァ」
 ステップハウスに近づいてきた。
 おれは、亡き妻のことを語り、新婚旅行が人生で一番の幸せなときだったから、もう一度誰かと結婚して琵琶湖に行きたい、と言った。
「えーー? アタシら全然、楽しィなかったァ」
「喧嘩したんか」
「した」
「海外やった? 英語も喋れんのかーー、いうて旦那さんに怒ったんやろ?」
「そう、アメリカでなァ。ホテルのフロントなんか全然通じへん。そいで、旅行中ずっと、コンビニで買うたもん部屋で食べとったわァ。近くに海岸あんのに、それも行かず。全然オモシローなかったわァ。ハワイにしとったらよかった」
「ハワイも英語か」と西さん。
「ハワイは、日本語通じんでェ」
 と二人して言った。

 医療用ベッドに拘束されて、夏子さんに局部をいじくられる夢をみた。
 ああ、おれは、深層意識ですら夏子さんに惚れているのだ。八重子さんにも惚れている。
 手淫のとき、八重子さんと性交しているのを想像しながら果てる。おれの想念の影響か、最近八重子さんは乳が大きくなり、前までとは違う服を着てその胸の大きいのを隠すようになった。
 連休も終わろうとしている。
 原稿は、大して書けなかった。
 こんなことをしていても、一向に変化はない。
 仕事を辞めないと。
 しかし、そうすると月々のものが足りない。
 煙草をやめれば、法テラスの支払いがあってもやっていける。
 がんじがらめだ。働いているのに、一般の人の四分の一しか金がはいってこない。その上に、小説を書く体力も削がれる。
 マトモに働いて自費出版か、仕事を辞めて新人賞投稿か。
 性欲が強い。
 芳美との不倫があったので、長い時間をかけてセックスするのが当たりまえになっている。なのに、今相手がいない。仕方なくライブチャットで待機しているパフォーマーにテレパシーを送って、一緒に絶頂を味わうという方法をしているが、最近は、どの女も応じない。時間がかかって生活が乱れる。
 射精と煙草がない生活など考えられない。
 障害年金も、厚生年金に切りかえれば多額になるのに、医者は動いてくれない。
 統合失調症を発病したのは、実に三十二のときで、それ以前に精神科に通っていたのは心因反応だったのだから。一度、役所に行ってこようと思う。山中製缶に通っていたときに統合失調症を発病したと認められれば、月々十万ちかい年金を受けることが出来る。
 ゴールデンウィークは、終わった。
 仕事をはじめるときに、宗教的・哲学的疑問が頭をもたげてくる。休みになれば、考える時間が充分にあるのに、そのことを考えなくなる。
 困ったことだ。
 それが強迫傾向だ。
 おれは、プロになるのだ。そう思って、まだ原稿がまったく書けていなかった二十八のとき、文具屋でこの万年筆を買った。七千円は、手痛い出費だった。

 溝掃除だった。
 隣のご主人が、先日亡くなられたので、その娘である彩海さんも出ていた。
 反対の隣の内科医院の娘も出ていた。
 独身の女が二人も出ていたのだから、掃除が終わってからの雑談会に居残るべきだったが、眠いのでやめた。
 自然に仲良くなるのがベストだという意見が、世の中には多いが、おれは、そうは思わない。どちらかが下心を持ってアプローチしてこそ恋愛ははじまる。両人とも普段の暮らしのなかですれちがうことがあるのだから、休日の散歩のときでも、出勤で車に乗るときに目が合ったときでも、何らかの会話をしてくればよいのである。会釈だけではなしに。
 女も、待っているだけではいけない。
 オカマっぽい同級生箱崎が、おれを呼ぶ。
「来ィなァ。大丈夫やで」
 と言って、右の吊り橋のワイヤーケーブルをハンドルで巻いて橋をピンと張らせ対岸から招く。
 左の吊り橋は、安全なことは分かっているのだが、おれは冒険心から右の吊り橋を渡ろうとする。
 端まで来た。
 急にワイヤーが緩む。
 ハンドルが反転する音が大きく響いて、おれは冷たい川へ転落する。
 全身が水に浸かる。
 泳ごうとするが、眠けが邪魔をする。
 ああ、だから、今までにも何度も経験したことじゃないか。箱崎など信用してはいけない。
 十一時二十分になっていた。
 雑談会は、とうに終わっている。
 全身が水に浸かる夢は、恋人からプロポーズされる可能性を示唆しているらしい。これまで経験したことのない、純粋な感動がある、という意味でもあるらしい。
 栗原さんとの話し合いの末、鉄工所行きを再開した。
「ボール盤の位置は、ゆくゆく元に戻す」と以前ステップハウスの理事長である鉄工所の社長の息子さんが言っていたが、最近大きな機械を元のボール盤の位置に導入したのでボール盤は動かせなくなったようだった。
 社長も含めて鉄工所の家族全員が作戦会議をするテーブルが、ボール盤のすぐ近くにある。緊張する。立場の偉い人をまえにして、という意味ではなく、人が狭いスペースにだんごになっているのが統合失調症患者には堪えるのだ。
 果たして、ボール盤にはエアー噴き出し装置があらたに装備されていた。
 西さんが製品から鉄粉を落とす工程をはしょるからだろう。
「こないだ、ドリルが折れてもてな。せやけど、すぐに換えてくれたったわ」
「ええ? ドリルなんかなかなか折れへんでーー。ネジ切りのスピードより速う、ドリル、押し込んみょんのとちゃうか」
 その内容を千谷さんに話したら、
「オッサン、何しょんねん」
 と言っていた。
 ともかく、新しく付いたエアー機構は良くなかった。製品に右から空気を当てるので、製品を持っていなければならない左手の服の袖に鉄粉がはいりこむ。左からなら、右手は上部のハンドルだけを掴んでいるので支障はないのだが。
 近頃、夏子さんは顔をみて挨拶してくれない。
「ブログ、読んでくれましたか」
 室井の本名で検索すれば、自営業のホームページに行き、ブログへも辿りつける、とすすめても、
「私なァ、最近忙しいて見る暇ないねん」
 と素っ気ない。
 だが、これだけ長い時間の間に、二、三度は、そのことを話したのだから、やはりブログはすでに見ているのだろう。
 そこに、夏子さんへの思いが綴られているので、嫌悪感を抱いているのかもしれない。たとえ、架空名称に置きかえて書いていても、困惑があるのかもしれない。
 当分、夏子さんとは距離を置くことにする。
 もう、この職場も、潮時なのかもしれない。同じ人間関係を、一年も超えてするものではない。
 衣笠さんに、パソコンを教えに行った。
 衣笠さんは、森脇香純さんが出来るところまで筒一杯、仕事を頑張る姿勢ではない、とおれに話した。
 そのことによってハイスピードで仕事をしようとしている通所者と温度差が出来てるうえに、全体の製造量も落ちているので八重子さんの機嫌がわるいという内情まで話してくれた。
 おれには、そこまでの観察眼がない。
 衣笠さんと森脇さんとおれとで醤油倉に行ったが、
「舛添なんて、酷いモンやでェ。一ヶ月に七十万もうて、それとは関係ない政治資金で高級車買うとんねやからな。それ税金やでェ。充分飲み食いしたあとに月々十五万ほど避けといて、ホンならその金で車、充分高いのが買えるでェ。公務のたびに高いホテルに泊まったりよ。……大体、天下りいうのんも許せんわ。定年まで働いてすぐ大会社の会長、なんねんでなェ。そんなん、その会社のことどれだけ知っとるっちゅうねん」
 と衣笠さんが長々と、おれに直接怒っているように話す。
 衣笠さんの政治批判は、二十分ぐらいつづいた。
 胸くそわるくなってきた。
 こいつは、古川慎平と同じだ。
 ブログで衣笠さんの意見と反対の意見を表明した。
 三日経って、衣笠さんが暗にこちらを批判する記事を自身のブログに挙げた。
 別に舛添氏が白か黒かなんて問題ではない。問題は、一般の人間同士で会っているときに、感情のこもった政治批判の弁論をながながとすることだ。
 合いの手も入れさせない程、矢継ぎ早に一方的にながながと怒りの感情を込めて批判弁論を展開する。聞いていてしんどい。
 自助努力をしても、もう勝ち組にははいれないと諦めているから、長々と愚痴めいた批判をするのだ。

 仕事を休んだ。
 冷房の利きが弱く、風呂にはいってなかったので、股がかゆかった。股をかいている内、陰茎が刺激され、手淫をしてしまった。そのせいで身体が疲労したので決めた時間に起きられなかった。
 浅い眠りだった。
 ステップハウスの移転は、着々とすすんでいる。
 衣笠さんと満くんと、千谷さんと西さんとで、先日、廃校になる小学校から移転先の小学校へ、長机を三脚はこんだそうで、相当重くて辛かったことを、衣笠さんはブログに書いていた。
 衣笠さんのブログを、よく見るようになった。
 カーテンレールの別のタイプの商品の組み立て説明を、業者から受けた。
 八重子さんがおれに、説明を聞く場で神経が保つか、と再三念を押してきたが、おれは大丈夫だと答えた。
 新しいタイプは、二本の溝から一本に変わり、心棒がなくて糸が複数垂れさがっているものだった。
 新しいことは、覚えるのに時間がかかる。その場で代表して全行程をやってみたかった。その方が、すぐに覚えられるから。だが、業者が三人も来ている場で一時間を超えての会合は、きついので、自分からは申し出なかった。
 肩幅がなくなった。
 江田貞夫にグレーのクーペで追いかけられ、芳美との仲が世間にバレてしまうのではないかと、常に他人の視線に気を配りしている内に、二段階ほど肩幅が小さくなった。
 もう、昔の肩幅には戻らない。
「貴方は、コメディアンですか」
 おれが英語でコメントしたYouTubeのチック・コリアの音楽動画のそのコメントの返信に、外人から英語で、そうコメントされた。 たしかに、おれのYouTube動画を見れば、そう思うのだろう。腹が膨れてシャツが出ているし、トランペットの演奏もド下手だし。
 酒を、一時的にでも止めるように、医者に言われた。
 夜中に救急車を呼んだのである。右背面の奥が痛かった。
 中江市民病院の救急の医者は、尿管結石だと言ったが、紹介状を書いてもらった先の次の病院では、石は、もう流れ出ているとの事だった。
 たしかに痛みは治まったが、今度は仕事中、身体がだるくて仕方なくなって、肝機能を調べておこうと別の内科に行って血液検査を受けたら、数値がわるく、脂肪肝にもなっているとの事で、『ウルソ』という薬を飲むように言われ、医師との話し合いの末、当分、一日にビール三百五十ミリリットルだけにすることになった。
 酒を飲まないと、時間がゆっくり流れていく。
 さっき手淫はしたが、それもしたくてしょうがない程の性欲は起きていなかった。
 今年は、大殺界なので、大きないい事は起こらないだろう。
 昼間、隣の彩海に出会ったが、お定まりの挨拶をしただけだ。
「暑いなァ」
 雑貨屋の尾崎に、殺されかける夢をみたが、あの件があった後で、あれがあったわけだから、お互いに深読みしてしまうと、お互いに相手に対して嫌悪を持っているとも言えるので、当然の夢だろう。
 そこは、はっきりさせないでいいことは、はっきりさせなくていいのだ。

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『やきもち』3 [自作原稿抜粋]

「くっさ」
 そう言っておれの横を満くんが通りぬけていった。
「ああいうの、腹立ちますね。シバいたろか思いますわ。臭いねやったら外出てくんな、ですよね」
 片岡くんがそう言う。
 午前の休憩時間。おれは、始業ぎりぎりまで煙草を喫った。
 知的障害者の満くんは、ときどきおれに挑発的なことを言う。
 内心では、おれにかまってほしいのだろう。だが、人とのコミュニケーションをどうやったらとれるのかが分からないのだろう。
 片岡くんは、今日、缶コーヒーを七本も飲んだ。
「ちょっと今、発作が出そうです。急に人殴ってまうかもです」
 傷害事件を起こしたこともあるそうだ。
 若いうちは、けれんみがある。
 拳立て伏せをやって身体をきたえている。
 他人に、自分を大きく見せたい。
 夏子さんは、今日休みだった。

 ーーー右の頬を打たれたら、左の頬を向けよ。
 ーーー一切、誓ってはならない。
 新約のイエスの言葉を思いだし、それの真意について考えだすと考え事の世界に埋没してしまった。聖書の解釈は、インターネットの集合知でも、「これだ」という答えには出くわさない。
 仕事中にも考え事が出てきて、辛い一日だった。思えば、この手のことで、若い頃はうんざりする程悩んだものだった。
 仕事終わりのとき、香純さんがドアのところに前向きに立っていて、人がだんごになっていたのでなかなか玄関に出られなかった。
 気づいた香純さんが、おれとは反対側の観音開きのドアを押したので、二人して同時に出る格好になった。
「結婚式みたいやな」
「結婚? あかんでェ、私結婚しとんねんでェ。離婚したら結婚しよ。色々コブがついとるけどな」
「マダム・キラー」
 と言って八重子さんが笑う。
「そんな、やっかいなこと、出来るかいな」
 と、おれは返した。
 花見の時季が終わろうとしている。
 火曜日だけ来ている、本多晴美と仕事をした。
 E2と呼ばれる電線のソケットを箱にひとまとめにする仕事を、晴美はしていた。
 仕事をしながら、皆、雑談をした。
 kat-tunなどというグループのメンバーが減ったなどという話で、女子たちは盛りあがっていたが、TVを見ないおれには、さっぱり分からなかった。
 おれが小説を書いているという話を出し、晴美が、「どんなん書いてるの」と聞いてきた。
 晴美は、内田康夫の小説が好きだと言った。
 代表作が、『浅見光彦シリーズ』らしいと聞いたので、
「あの水谷豊がやったやつか」
 と訊くと、
「水谷豊は、アカンわ。男前やないもん。浅見光彦は、男前いう設定になっとんねんで」
 じゃあ、おれは男前か、と訊きたかったが、はっきり言われるのが怖いのでやめた。
 向精神薬のせいで、額がすっきりしていない。何かと悩んでいるように見える表情だ。はっきりした目鼻立ちだが、眼鏡をかけているので、美人なのかどうか、よく分からない。胸は充分にふくらんでいて、尻が大きいのでジーパンが似合う。衣笠さんの幼馴染みらしい。衣笠さんによると、彼女は四十代後半くらいで、おれの伴侶としては丁度いい年格好だ。
 作業所は、移転するかもしれない。
 オークションでツェッペリン社の腕時計を買ったが、風防に大きな疵があった。写真では気付かなかった。九時十一分に時刻が合わせてあり、秒針が十秒を指していて、疵を上手く隠してしまっていた。商品ランクが3.5と書いてありランク4でも風防に多少傷があると説明してあるので返品できない。
 西村京太郎と山村美紗は、親密な間柄だったそうだ。
 ミステリーを書かないといけない。新人賞が獲りやすいのは、ミステリーかホラーだそうだ。
 金箔が施してある万年筆を買った。
 有希子との新婚旅行を思いだしている。
 佐川美術館の売店に、これと似た金箔装飾の万年筆があったと記憶している。外国製の本体で、PILOTのものに比べると、ずっしりと重い。
 夢のなかで、おれは、名のある作家になっていた。タクシーを貸しきって自宅から半径四十五キロを周遊するのだった。気分転換と取材のために。

 作業所を早退きした。
 頭が痛かったのである。
 キリストの言葉の矛盾については、自分がキリストだったらどういう言動をとるか、という考え方によってすべて納得できたので、今は、そのことについては深くは悩んでいない。
 オークションで買ったツェッペリンの中古の腕時計。写真では判りづらい傷が、風防に大きくついていたので、商品状態ランクでは説明がしてあるので返品できないので、セリウムを買ってその水溶液で擦って傷を消した。
 金箔装飾を施した万年筆は、書き味がよくなかった。
 その後、楽天でシェーバーを注文した。
 そして、PILOTの逆輸入の万年筆も買った。書き味はよくなかった。
 このところ、毎日額の疵が痛くなる。
 ゴールデンウィークが近づいている。
 平日を一日休んで、五連休を創ることにした。
 原稿を書きたいからだ。
 休みにはいった。
 ながながと手淫に時間をかけた。
 ライブチャットの待機画面の女たちは、だれ一人、素直に相互オナニーに応じようとはしなかった。
 酒もはいらなくなって、エコーがひどく不味かった。
 今ごろ、一人で、スピーカーの遮音材の箱入れを、八重子さんはしているのだろう。
 八重子さんが可愛そうに思ったが、本当の親切とは、自己実現を達成して人を安心させてやることの方だ。
 國分さんが、「若尾文子と山本富士子のDVDを買ってくれないか」と電話してきた。
 買う余力がないので、オークション出品代行をしてやると伝えた。
 ネット検索してみれば、若尾の配偶者は黒川紀章であることが分かった。國分さんは、平生から建築のことをよく話題にするので、若尾文子に興味を持ったということか。
 國分さんとおれとは、丁度十年ちがう。
 先日、おれの部屋へ来て、こちらへ来る道中で大便を漏らしたと言っていた。そのままおれの布団のうえに座ったから、今でも部屋がうんこ臭い。
 大学時代から可笑しくなったらしい。その当時の人間関係が原因らしい。
 國分さんは、ご両親が相次いで亡くなられてから遺産がはいり、豪遊するようになった。
 童貞だった期間も長いが、一気に女遊びへの欲も出た。
 若いころに一、二年仕事をしていただけで、三十数年無職だそうだ。
 他人からの思考流入があるそうで、働けないのは仕方のないことだ。
「隣のオバちゃんが、こっちに色々言うとるんや。何や、それが僕にだけ聞こえるんや」
 人と人との自我の境界がなくなる。それが統合失調症だ。
 原稿書きが捗らない。
 ケイタイを解約したのは、間違いだったのか。
 夏子さんとでも、八重子さんとでも、直電ができたのではないか。
「一遍、お茶でも飲みに行きませんか」
「お茶飲むだけですか」
 邂逅の折、夏子さんとは、そんな会話があった。まだ、夏子さんが既婚だとも知っていない段階だったが、彼女は、お茶ぐらいは飲んでもいいだろうと思ったということだ。
 プレイボーイなら、もう、とっくにものにしているだろう。
 しかし、もう二度と、不倫をする気はない。が、しかし、不倫をしないと、ストーリーに展開がない。
 現代小説で、ストーリーに面白さを持たせようとしたら恋愛を描くのが一番てっとりばやい。
 有希子は、風呂に浸かって溺死した。おれの目のまえで。
 イオンのBARREALを飲んでいる。
 作業所では、通所者の一人が粗相をしてしまうという事件があった。前日に飲んだビールで腹を下したらしい。
 夏子さんも八重子さんも他のスタッフも、わきまえている。弱者の心を傷つけないよう、人の多いところではその話はしない。
 ステップハウスに通う通所者のなかにも、人それぞれ色んな歴史がある。社会へ一度も出たことのない者もあれば、一般就労を三十年もしていた者もある。
 発達障害や知的障害は、幼い頃からだが、鬱病や統合失調症は、三十代や四十代から罹る。その他には、身体障害だが、これも先天的なものと後天的なものがある。
 スタッフが、障害者を見下したような言動に出たことを見たことがない。
 栗原八重子さんと古塩つぐみさんが正職員で、夏子さんと森脇香純さんが、パート職員だ。
 管理者の栗原八重子さん以外、障害者の世話をするための資格は持っていないだろうと思われる。それなのに、一番あとにパートではいった香純さんさえ、弱者を見下す言動がまるでない。
「室井さん、色々あってねやなァ。私ら、なーんもあれへん」
 貴女のことが知りたいので、昔のことを話してよ、と八重子さんに言ったときの答えだった。
 高校時代に、毎日、社会人の男の人に校門で待ち伏せされ、付き合ってくれと頼まれたそうだ。その直後、一級上の先輩から、「あんなオッサンと付き合うより、オレと付き合え」と言われてその男とねんごろになったらしい。旦那とは、まったく別の恋愛時期だが、恋愛も、それくらいしかない、と語っていた。謙遜かもしれないが。
 事情がある者同士が、相手には深く踏みこまずに一緒に仕事をしている。
 千谷さんは、酒や女や借金があった。
 衣笠さんには、重い失恋があったそうだ。
 Eくんにも事情があるらしい。
 明日は、出勤日だが、おれだけ無理を聞いてもらって休みだ。

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『やきもち』2 [自作原稿抜粋]

 誠二夫婦が来た。
 誠二は、年相応の老けた顔になっている。
 嫁の可奈子さんは、相変わらず肥っていた。いつまで経っても仕事疲れから解放されないから肥ったままなのだろう。
 甥の二人ともが受験だそうで、今年は大人数で人生ゲームをしていくほどの閑がない。
 上の甥は、東京大学を目指している。
 甥用のお年玉を可奈子さんに渡した。たった二千円ずつだったが、手痛い出費だった。
 初詣は、元日に一人で行ってきた。母は、元日の午前中に正雄と、そして、三日に誠二夫婦と行ったようだったが、おれは同行しなかった。従妹の息子にもお年玉をやらなくてはならなくなるからだ。まあ、そんなことよりも、睡眠が不規則なので叔母の家に長居するとしんどいのだった。
 それにしても、叔母の子である従妹の華は、美人なのである。事情があって出戻ってはいるが、恋愛や結婚の対象として充分である。美しいから。そんなことを思いつつ、日々だけが過ぎてゆくのである。今や、おれも五〇代。華は、四〇代である。
 自身に充分な稼ぎがないから、こちらからは女性にアプローチできたものではない、と考えている。
 統合失調症で『考想伝播』などというやっかいな症状をもっているので一人前には働けない。そう躊躇している間に、女も自分も歳がいく。
 だが、有希子と交際をはじめた時期にも、今と同じ程度の症状はあったのだ。
 有希子を何とかものにしたいと思い、一般就労で必死に頑張った。 一応、四十歳までに一度結婚したという事実を作ったことは、世間に対する引け目をなくした。
 暖かい冬だ。
「室井さん、休憩時間中にトイレに行ってください」
 若い理事長に、そう注意された。
 鉄工所に派遣労働に来ていて、十時四十分になったから、外で煙草を吸った。ボール盤の場所に戻ろうとしたが、すぐ隣の機械へフォークリフトをつかってワイヤーの束を移動させている処だったので、休憩時間がまだ終わりになっていなかったので、外でもう一服吸ったら煙が腸を刺激したらしく急に便意をもよおしたのでそのままトイレに行った。
 人を使う側としては、時間に余裕があるのに就労時間になってからわざとトイレに行ったように見えたのだろう。
 八重子さんにそのことを話すと、急に便意をもよおしたりするのは室井さんの病気だから理事長に説明しておくと言っていた。
 過敏性大腸炎なのである。
 最近は、便を固くする薬を飲んでいるが、この二日ほどは飲んでいなかった。
 西さんは、おれの十年上で六十二歳だ。
 知的障害がある。
 朝刊の配達をやってから、この作業所に毎日出勤している。
「これは、こんなモンは付いてなかったで。昔は」
 玄関の外側の喫煙スペースで、西さんはPeaceの側面のQRコードを指さしながら言う。
 細くて背が高い。おれと同じくらいの身長がある。
 鉄工所では、おれの大便の近さに配慮してかおれのボール盤の位置がトイレに通ずるドアのすぐ横になった。社長や理事長が頻繁に近くに来るので、緊張してテレパシーが出そうになって辛い。それで、八重子さんが配慮してくれて、鉄工所行きは二日に一度となった。
 オークションで落札した天体望遠鏡の話をしていたら、八重子さんや夏子さんと喧嘩になってしまった。望遠鏡で道路を見るのは犯罪か否か、という話になり、夏子さんがおれのそういう動機を「気持ち悪い」とまで酷評した。
 別に、他所の家のなかを見るとかスカートのなかを覗くということではないのだ。
 時代が変わってしまったこともあるが、八重子さんや夏子さんは自分のことをイケてる女子だと思いこんでいる。プライドがある。 その後、八重子さんがコード巻きの仕事の件で、搬入先の会社からセロハンテープの幅の規格がちがうのをウチが使っていたことを指摘されたようで、その件に関して通所者全体に改善を徹底させようとして色々言っていた。
「そう言えば、単線のほうのセロハンテープでは、端に行きあたりすぎると思ってました」
 とおれが言うと、
「どういうこと?」
 と、ガールズ言葉で聞きかえしてくるので、もう一度説明したが、それでも、
「どういうこと?」
 と訊きかえしてきたので、ムッとして口をつぐんだ。
 自分が搬入先から指摘を受けているので、仕事を没にしたくないのでそのことで頭がうわーっとなっているので、部下の言ったことに、理解が及ばないのである。
 その後、
「室井さん、大人しいやん? ひょっとしてまだ私らから注意されたことにイガイガ来とってのか」
「もう、その話は、時代の違いと見解の違いいうことで、済んどるやろがい」
 と言いあってから、「どういうこと?」という訊き方のイントネーションが悪いので腹が立つ、という内容で、大喧嘩となった。
 書けないでいるうちに、ホワイトデーが過ぎた。
 徹夜したら心が悪い方向に動く。
 プロの作家にはなれないのかもしれない。いっそ死にたいが。
 祈ったことは必ず実現するという人もいるが、悪い祈りは実現しても、自分を浮上させる祈りは、なかなか実現しない。
 三月の給料日に明細をもらうとき、管理者八重子さんは、「やっぱり毎日出てもらわんと、A型には推されへんねん」と言った。
 通所者の成績を上げ、A型や一般就労へ行った人の数を出し、国に成果をアピールしたいのだろうということが、聞いているおれにも分かった。
 その日、早い晩酌をしているうちに、毎日出勤したい旨を管理者八重子さんに電話で話した。
「栗原さんの喜びが、おれの喜びでもあるわけです。それに、収入も増やしたいし」
 その後、同僚から愚痴を聞かされた。
「三ヶ月も毎日出勤しているが、奨められて見学にいったA型作業所は、寮つきの刑務所のような処。新しくはいってきた新卒の知的障害者たちに、身障者用トイレを荒らされている」
 という、SNSでのメッセージだった。
 ああ、あの、おれに仕事を教えてもらって、「すまん」とか「有り難う」と言う奴のことか。親の歳以上のおれに敬語もつかわない。そんな奴らが居るなら、おれも早いとこ他へ移ったほうがいいなと思った。
 翌日、一般職への面接に行きたいので水曜と金曜には早退させてほしいと八重子さんに言った。
 彼女は一旦納得してくれていたが、すぐあと、「何で、言うことが、そうコロコロ変わるねん」と訊いてきて話し合いとなった。
 結局、八重子さんが喜ぶために成果を出してあげたいと思って気をつかって毎日出勤したいと言っただけで、実の処、まったく原稿が書けなくなっているので焦っているだけだということを八重子さんに話した。
「今のシフトでも、慣れてくれば疲労の度合いも下がって、いずれ原稿も書けるようになるでしょう」
 と、おれは話し、結局、今までどおり、水曜休んでの週四日出勤に収まった。
 八重子さんは、おれが毎日仕事が終わって車で帰るとき、もの凄く元気に両手をふってくれた。立って左右に動きながら、
「室井さーん、バイバーイ!」
 と。
 思いつきにせよ、思い切って他へ就職したいと言いだしたことは、そこに加速が発生しているのだ。だが、その考えを八重子さんは問いただしたわけだ。せっかく走りだそうとしているものを、その頭を抑えたのだ。栗原さんによって、おれはスポイルされているとも言える。
 ただ、一般就労に失敗して他の面接を受けてもどこも通らないようなことになったとき、この作業所にはすぐには戻れないそうだ。
 栗原八重子が、おれにそう言うということは、おれは彼女から不充分な働きしか出来ない状態だと査定されているということだ。
 くやしいが、その通りだ。
 ただ、彼女のまえで、そしてこの作業所で、一度もテレパシーが出たことがないのに、そう判断するのは何故だろう。他のスタッフのうちの一人は、おれのことを、「とても病気持ちには見えない」と言っていたというのに。
 ステップハウスの一階のフロアで二度ほど仕事をした折、「とても、この人口密度では保ちません」と申告したことはあった。派遣で行かされる鉄工所でも、ボール盤の位置が変わってから、すぐ傍を社長や専務が頻繁に行き交うので緊張してテレパシーが出そうになる、と申告したこともあった。
 テレパシーそのものが出たことはないが、そういう申告をしていれば、「まだ、この人は、一般の仕事は無理」という判断になっても当然だろう。
 管理者栗原さんが、どういう思いで就職を止めたのだとしても、彼女がこの作業所におれを括りつけようと思っているのだとしても、そこは、あまり深刻に捉えず、ともかく週三日でもいいから原稿を書こう。
 原稿が書けてないので、すべてが止まっていると罪悪感を持ち、不本意なのだ。
 もっと収入を得て、人間らしい暮らしをしたいと思ってみたり、この作業所も辞めて原稿だけを書いていたいと思ったりで、しばらく、心が揺れていた。
 しかし、この作業所を辞めてしまうと、たちまち月々のものが足りなくなる。
 要は、今のシフトに慣れて、仕事をしながらも原稿を書くことだ。


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新連載、『やきもち』 [自作原稿抜粋]

 Eくんと夏子さんが親密に話しているのをみるたび、心臓が重くなる。
 夏子さんが持っている好感が、おれよりEくんのほうのが大きいのではないか、と考えてしまう。夏子さんは、韓国女性っぽい超美人だ。既婚で、不倫願望もないと思える夏子さんが、たとえそうであってもおれには悩む必要はない、ということも重々分かっているのに悩んでしまう。ヤキモチなど焼く人間ではなかったのだ。おれは。
 なぜか。それは、おれが、ほとんどの男どもを凌駕してしまうほどの美男子だったからだ。
それが、この二、三年で腹が突きだし、だらしない体型となって、身体ほどではないにしても、顔も幾分ふやけてきてしまったのだ。
 Eくんは、中背で都会的な顔だちだ。ほとんどの人間に、負けなかった男が、衰退して負けはじめている。カーテンレールの組み立て作業でも、作業スピードに倍の開きがある。どんな仕事をやっても、どこの職場でも優秀だったおれが、仕事でも負けている。十一年というブランクがそうさせたのか。老けたのか。認めたくないが、もう冴えない男になりつつあるのを認めざるを得ない。
 自宅自室で、寝ころびながら考えた。考えぬいた末、糸巻きドラムを心棒に通す作業が手間どっているのが、遅い原因の主たるものだと気づいた。さらに考えつづけると、心棒の六角の平たい面を固定してドラムの方も糸がついている面を天頂に向けて指で直接押さえて固定してドラムを挿し込めば、一発ではいる筈だということに気づいた。
 職場で試してみて、大成功だった。これで、Eくんとのスピードの差は埋まってくるだろう。
 何で、横と比較して怒ったり妬んだりするようになったのか。何で身近なスタッフと比べて収入が低いことを不公平だなどと考えるようになったのか。仕事にかまけているからである。投稿とブログだけをやって、将来の目標だけを見据えていたときには、そんな低級な感情は湧かなかった。
 原稿を書かないといけない。
 先日、亡き妻の十三回忌法要だったので、亡き妻の身内が来た。
 義妹は、集合写真を希望した。今思うと、なぜ義妹は写真が撮りたかったのだろう。おれやおれの弟の顔写真がほしかったのだろうか。義妹も、いい歳になる。結婚はまだしていない。
 恵利がおれに好意を持ってくれているのだとしたら、嬉しいことだが、義母も所帯を持つことには諸手を挙げては賛成しないだろう。
 それにだ。おれは今、自分の経済すらままならない状況なのだ。幸せは、いつ訪れるかしれない。不幸もまた、いつ襲われるかしれない。僥倖は、誰にでもある。考想伝播があって一般の仕事が出来ないでいるが、急に結婚が決まれば無理にでも一般就労するかもしれない。
 何だかんだと言ったって、要る物は要る。毎月、金が足りない。破産申請をしているので、クレジットやローンが使えなくなり、金の融通が利かない。だから、毎月、すこしだけ金が足りない。
 芸人を目指している五十六歳のニート男の動画をみた。母親の年金だけで親子で暮らしていて、母親が可哀想だった。おれとの違いは、障害年金をもらっているかどうかが一番大きい。健康なのに働かない人も居るのだな。
 番組は、さんざん主人公の男を笑い物にしていた。他人のことを言えた義理ではない芸能人が、その男にさんざん説教をしていた。何の芸もない、タレントと言われる芸能人に、仕事だの生き方だのを語る資格などない。
 作業所は、今日も愉しかった。
 衣笠さんの言動がおかしいので、それを肴に盛りあがった。
 おもしろいブログを探すが、見つからなかった。自分のブログが、自分のブログだということを差し引いても、一番おもしろい。それは、誰が読んでもはいりこんでゆけるように記事の内容と語り口を考えて書いているからだ。
 隔日出勤で、明日出勤だ。こんな生活で原稿を書けるようになるのだろうか。仕事から帰ったら疲れているので書かない。その翌日は、その翌日が出勤だから、気分が仕事モードにはいっているので書かない。これでは、まったく、まえに進まない。
 雨が降っている。十二月にはいったというのに、そんなに寒くない。
 UCCの大きな壜にはいったインスタントコーヒーが、最近スーパーの売り場にない。ネスレのコーヒーよりUCCのコーヒーの方が旨いのだが、無いので仕方なくネスレのコーヒーを飲んでいる。
 風呂にははいらなかった。風呂にはいるのは、かなり面倒だからだ。
 昨夜は、ライブチャットの待機画面を見ながら陰茎をしごいていたが、テレパシーを感じても誰一人、素直に手淫する娘がいなかったので、無念だが自分だけ射精した。
 夏子さんに送ってもらって鉄工所に行った。
 十二月も半ばというのに、そんなに寒くない。作業所が用意した電気ストーブのスイッチを入れることはなかった。
 理事長は、同級生と話していたようだ。
 ケイタイを耳に当てながら、
「そら、一人、四千円はかかっとるでよォ。ツヨシの分、おれが千円もったみたいなモンや」
 などと話していた。
 経営側だと、時間の融通が利く。その代わり、仕事の拘束時間が長いが。
 國分さんに万年筆を譲ってもらったが、よくなかった。
 細字なのである。
「二千円でエエわ」
 と言われて、うっかり払ってしまった。

 衣笠さんは、『じいちゃん奮闘記』というブログを作ったのだそうだが、検索をかけてみるとすでに何年もまえからやっている、別人の同タイトルのブログが出てきた。
 衣笠さんには、タイトルを変えるように勧めようと思う。
 年金が支給された。
 しまむらで肌着を買った。

 栗原八重子さんが、営業部長だった。
 その日、営業部は五人全員で外へ出た。部長だけが女だった。
 栗原さんが提案して、急に新規訪問に全員がそれぞれに行くことになった。
 おれは顧客のまえで鞄をまさぐった。
 こんなときにかぎって、おれは名刺を切らしていた。
 輪廻転生のなかでは、栗原さんとこういうつき合いがあったのかもしれない。ありそうな夢だった。

 正月休みをしている。
 自家用車のワックスがけはしたが、自室の掃除は中途半端なままだ。
 内容の濃い、ネガティブな夢をみている。しかし、起きれば忘れてしまう。
 独りで初詣に行ってきた。徹夜あけだったので人ごみが堪えた。おみくじは、大吉だった。
 大晦日の夜に、持ち込みの原稿が、ある大家の目に留まって新作を書くことが条件でデビューできる話になったという夢をみた。その夢のことは、誰にも話していない。
 遊ぶ時間が必ず必要で、仕事に行っていると仕事と遊びだけになって原稿が書けない。仕事をしないでいいように、早くなりたい。原稿書き、ブログ更新、オークション出品、ストアの管理、散歩、動画撮影、ときどき楽器をさわる、それだけで結構忙しいのだ。
 それが、今月からは週四日出勤になる。他のことが殆どできないほど、忙しくなる。
 どうやら、障害者地域活動支援センターのおれの担当の人が、拙著をアマゾンから買ってくれたようで、アマゾンの新品在庫が一冊減っていた。
 出版費用を抑えるため、取次から書店流通をさせるというオプションのない自費出版にしたので、売れ行きは加速しないままだ。金がぎりぎりでも勝負しておくべきだったと今さら悔やむ。
 クレジットカードを作らなければ、自営をはじめなければ、そういう生活がつづいたのだ。しかし、カードローンなどの借金をしていなければ、二作目の自費出版も出来ていなかっただろう。新人賞にかすりもせず二作目も出せずに現在まで来ていたら、相当鬱憤を抱えていたかもしれない。
 これから、『法テラス』という制度をつかって、司法書士に料金を払うことになる。それが、月一万円で、支払い期間二年半だ。その間、どうしても今の仕事を辞めるわけにはいかない。
 義母から、年賀状が来ていた。
「11月に元気な姿にお会いできて嬉しかったです。今年もどうぞよろしく」
 と書いてあった。
 有希子が亡くなった今、有希子のことを思いだすよすがとしては、おれの存在が大きいのだろう。
 人は皆、死んでゆく。
 明後日からは、仕事だ。

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