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職歴、地元へ戻ってから。 [自作原稿抜粋]

 新しい動画をアップロードしました。



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電撃大賞の選評 [自作原稿抜粋]

DSC06543.JPG


                            第24回電撃小説大賞
                          3次選考 選評シート

作品名:キャバレー・ウエスト・ムーン


 この作品は 2次選考 を通過しました。 2次選考通過作は 応募総数5,088作品中216作品 です。
評価その1 項目 A B+ B B- C 総合B+ コメント
オリジナリティー ○B+
ストーリー ○B
設定 ○B+
キャラクター ○B
文章力 ○B+

評価その2 項目 A B+ B B- C 総合B+ コメント
オリジナリティー ○B+
ストーリー ○B+
設定 ○B+
キャラクター ○B+
文章力 ○B


舞台、登場人物、それぞれに個性が感じられ、また回りくどくも、淡白 にも捉えられる文体やテンポについても、読み進めるにつれ独特の 音楽っぽさが感じられるようになり、とても印象に残りました。 ストーリーの骨格を成すキャバレーを舞台にした各出来事1つ1つは 際立っているものの、一方で全体の流れにおける関連性が見えにく いため、終盤の展開がやや唐突に思えます。登場人物の独白が何 シーンかありますが、主義主張の出方が唐突すぎると読者が不意を 突かれてしまい悪目立ちしてしまうかもしれません。 世界観と文章表現が持つ力は特筆するべき点だと考えますので、何 か1つ軸となる要素があるとより魅力的な作品になるのではないで しょうか。


バーテンダーの目線でキャバレーのステージと、ステージバンドのメンツ やホステスの人間関係を描いた作品。自然なセリフ回しと簡潔な状況描 写が特徴で、流れるようにお店の様子や演奏を表現している(音楽は専門 外なので内容の真偽は不明ですが。ちょっと音楽用語がくどいかなという 部分はあります)。物語はダラダラとした日常があるだけと表現することも できるが、キャラがいきいきと動いていてセリフのひとつひとつに迫力があ る。また、ヤクザの抗争の舞台になったり、くすぶっていたキャラが輝くエ ピソードがあったりと、変化をつけているのもいい。エピソードは長々とひ きずることはなく、簡潔に未練なく終わって次のエピソードが始まってい る。歯切れの良さが音楽を思わせるのも本作の魅力になっている。ただ、 書いてから時間がたっているのか、阪神大震災の話題がちょこちょこでる ほか、同じ説明をエピソードが変わるごとに繰り返す部分があったのが少々気になる。



※各項目のA~Cの評価は、第3次選考 における選考基準のものです。

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三十三年図書館 [自作原稿抜粋]

 投稿中ですので、掲載を控えます。

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『中江警察』8 [自作原稿抜粋]

 七時になったので、フロントの交代要員に会った。

 写真を見せる。

「ああ、この方なら泊まっていらっしゃいます。405号室です」

「チェックアウトしてませんよね?」

「ええ、まだです」

「一緒に、来てもらえますか」

 合い鍵を持ったフロントマンと宮下との三人で405号に向かう。

 念のためと思ったのだろう。宮下はエレベータに乗らずに一階の奥へと走っていった。

非常階段から挟むつもりなのだ。

 405のドアノブには、ドント・ディスターブの札がかかっていた。

 フロントマンが鍵を開ける。

 本條を先頭に踏み込む。

 ベッドのシーツはよれて、夜着がしわくちゃに放置されていた。

 テレビの横のナイトテーブルの上には飲みかけのビールの缶と液体ののこったコップが

あった。

 宮下がユニットバスを、本條がクローゼットを確認する。

「畜生、遅かったかー」

 宮下が嘆言を吐く。

 もう捜すのは無理に思えた。

 本條と宮下は、中江署へと引きあげた。

 宮下が持ってかえった指紋と、スコラマンションの屋上のドアノブから検出した指紋が

一致した。

 桜井刑事部長が、写真つきで内藤智之の指名手配を全国にかけた。京都府警には捜査協

力を依頼した。

 内藤が見つかるまでは、本條と宮下は他の事件の捜査にあたった。

 松村愛刑事が、本條と宮下にお茶を出してくれる。

 全国的に、女子にお茶汲みをさせない風潮になって、中江署でもそれに倣ったのだが、

松村は、気が向いたときだけだが自らお茶を出す役をやる。

 本條が宮下に目くばせする。

 スーツの下のワイシャツがはちきれんばかりの胸で、松村は宮下のデスクに向きあって、

今、お茶を置いているところだ。

「ま、松村さん。今晩、食事でも一緒にどうです?」

「えっ?」

 桜井刑事部長が、端のデスクで咳払いをする。

「いえ、。何でもないです」

(せっかくなのに、よう言わんか。押しの弱いやっちゃなァ)

 本條は、心中でひとりごちた。

 スナックのホステスが、何者かに殺された事件。幼女が連れ去られ、いたずらされたあ

と殺された事件。中江組のナンバー2が居酒屋で拳銃で撃たれて殺された事件。

 捜査進行中の事件は、いくつもあった。

 中江組の幹部が殺された事件については、捜査四課と合同で捜査している。

 暴力団抗争が減っていたので、この事件を機に捜査四課は息を吹きかえして盛りあがっ

ている。

 年が変わり、二月にもなった。

 内藤智之が京都で捕まり、中江署へ護送された。

 山下刑事と本條が、交替で取り調べをすることになった。

 山下は、まず犯行を自供させた。

「お前が、黒岩哲男を突き落としたんだな」

「はあ? 何のことでしょう」

「ふざけるな! 証拠は上がっている。スコラマンションの屋上のドアノブから、お前の

指紋。さらに、黒岩の遺書にも、黒岩の指紋がなくて、お前の指紋だけが出た。目撃者も

いる」

 山下は、つばを飲みこんでつづける。

「お前が、やったんだな!?」

「はい。私が殺しました。でも、あれはーー」

「よし、分かった。どうやってスコラマンションにはいったのか、黒岩をどうやって呼び

出したのか、そこから順を追って話せ」

【未完のため、ここで打ち切りです】


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『中江警察』7 [自作原稿抜粋]

 内藤智之は、ホテルの一室でバカルディーというラム酒を飲んでいた。

 何で、あんな愚かなことをしたのだろう、と後悔からこのところ毎日酒浸りになってい

た。

(おれは、悪くないのだ)

 内藤は自身に言いきかせる。

 ーーーアンタ、浮気してるだろう。証拠の写真を持っている。奥さんにバレたくなかっ

たら、今すぐ、そのマンションの屋上に来い。

 我ながら、よく思いついた嘘だなと内藤は回想する。

 いや、しかし、おれは脅迫されたのだ。おれは加害者だが、本当に悪いのはアイツなの

だ。

 たしか殺人教唆という罪がある。だから、おれの罪はそんなに重くならないだろう。

 いや、第一、金はある。

 もう地元にもどらなきゃいいだけだ。

 内藤は自身を納得させる。

(ああ、どうせなら、女と飲みたい)

 内藤は、部屋を出て、最上階のラウンジに向かった。

 宮下は、内藤の顔を思いだしながら飲んでいた。

 内藤の弟に、最近の写真を借りた本條さんがカラーコピーを持たせてくれた。思想家を

思わせるような広い額には、うっすらと横皺がはいり、眉の内側のうえにそれが僅かに寄

ったことを示す隆起がある。

 四角い顎と鼻腔が下を向いたまっすぐな鼻梁。頭髪は剛毛だが左右に綺麗にながれてい

る。薬でぼやけているが思慮深い瞳は横にながい台形の白縁眼鏡からまっすぐにこちらを

見ている。

「宮下くん」

 と小声で本條が言って奥の席に目くばせした。

 内藤が、両手に華で飲んでいた。

 本條と宮下は、奥の席へ近づく。

 内藤が目を上げる。

「内藤さんですよね」

 そう言って本條は身分証を見せてから、

「黒岩さんの死について、お訊きしたいことがあるんですが」

 と切りだした。

 内藤の目が泳いでいる。

「ああ、あの自殺した黒岩さんね。……とりあえず、外で話しましょう。お勘定いくら?」

 内藤は支払いを済ませた。

 同時に宮下も勘定を払った。

 店を出たホテルの廊下で話す。

「黒岩さん、自殺じゃないようなんです」

「そうですか。それは何故」

「遺書があったんですが、それには黒岩さんの指紋はまったくついてなくて、別人の指紋

がついてたんです。それに、その遺書、一太郎で書かれたものらしくて。……黒岩さんは

ワードしかお使いにならなかったようですし」

「そいで、僕が容疑者っちゅうことですか。僕が突き落としたとでも?」

「いえ、念のために伺ってるんです。すみませんが指紋をとらせて頂けませんか」

 宮下にはラウンジのなかの内藤が飲んでいたグラスから、今指紋をとってもらっている。

 本條が指紋採取用のフィルムを出しかけた途端に内藤は踵をかえして急ピッチで走りだ

した。

 廊下の端へ走る内藤には追いつけなかった。

 廊下の端は非常階段につながっている。

 指紋を採取した宮下と合流し、フロントに行き、内藤智之という人物が宿泊してないか

を訊いたが、存在しなかった。

 偽名で泊まったのだろう。

 まだホテルの一室に居るだろうが、打つ手がなかった。

「やられましたねェ」

 部屋に戻ってきて第一声、宮下がそう言う。

 本條は、しばしミニバーのビールを出して飲んでいたが、あることを思いだしてそのま

まフロントに向かった。

 宮下も、すぐ後を追う。

「この顔の人、お客に居ませんか」

 内藤の写真を見せる。

「いえ、わかりませんねェ。……ただ、フロントは二組で交替勤務してますので、反対番

の者が知ってるかもしれません」

「交替は、何時です?」

「朝の七時です」

 待つしかなかった。

 それまでに逃げられてしまうのを避けるには、出口を見張ることだが、正面玄関と裏口

と非常階段からの出口も二つあるので、そのすべてを同時に見張ることはできない。

 宮下に裏口を見張らせ、本條は部屋から正面玄関を見下ろす形で見張ることにした。

 動きがあれば、すぐに携帯で連絡をとりあう。

 雨が降りかけた。

 本條は、ビールを飲みつづけた。

 二時半ごろ、一人が正面玄関から出てゆくのが見えた。

 本條は、署から持ってきている双眼鏡をかまえた。

 小柄な背広にコートを羽織った男だった。内藤ではなかった。


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『中江警察』6 [自作原稿抜粋]

 宮下はシャワーを浴びる。

 シャンプーを汲んで頭につけ、左手で泡立て両手でひとしきり頭皮をかき、右手でシャ

ワーのノズルを持ちすすいでいく。

 十年巡査をやってきた。

 二年まえ念願の昇進試験に合格し、中江署の刑事となった。

 本條も叩きあげだと聞いている。

 そろそろ身を固めたほうがいいんだろうか。そんなことを考えながら今度は身体を洗っ

た。

 浴槽に湯をはり浸かった。

 宮下は或ることに気づいた。

「本條さん、内藤のマンションに行って、指紋とればいいじゃないですか」

 ざっくりとしか拭いていない丸裸のままユニットを出て宮下は言う。

「それは分かってますよ。……でも肝腎は、彼の自供でしょう」

「ああ、そうか。指紋は後でとっても同じですね」

 そうは言ったものの、やはり犯人を特定してから自供、という段取りのほうが、余分な

遠回りをしなくてもいいのではないか、と宮下は思った。

 余程、本條さんには、内藤が犯人という確信があるのだろう、と思った。

「当分、京都に潜伏します」

 風呂あがりの宮下の耳に、本条の電話の声が聞こえた。

「君も、一杯どうです」

 ケイタイを置いた本條は、冷蔵庫から缶ビールを出す。

「僕は、まだいいですよ。五時になってからで」

「宮下くん、結婚は、しないのですか」

「唐突ですねェ」

「人が孤りで居るのは、あまり好ましくありません」

「そりゃあ、分かってるんですけどね。本條さん、誰か紹介してくれませんか」

「宮下くんなら、彼女ぐらい居そうに見えますが」

「それが、からきし駄目なんですよ。女性に声をかけるとか。おれ」

「草食系ですか」

「いえ、草食系ではないです」

「ウチの松村刑事なんか、どうです?」

「いえ」と言って鼻で息を吐いてから、「恐いですよ。彼女はトゲがある。とりつく島な

んてないじゃないですか」

 本條は宮下用に出していた缶のプルタブを立て呷る。

「宮下くん、人間なんて、ひと皮剥けば誰でも同じようなものですよ。案外、彼女もツン

デレかもしれません」

「本條さんは、子供は創られないんですか」

「宮下くん、もう僕は五〇ですよ。美津子も四十三だし、今からでは無理ですよ。昔は不

妊治療にもかよったんですが、結局駄目でした」

「そうだったんですか。すいません。余分なこと訊いちゃって」

「いや、それはいいんです。ともかく子供はさておき、結婚はした方がいいですよ」

 本條は、つまみのミックスナッツをばりぼり食う。

「押したらいいんです。身近な相手のほうが、よく分かってていいでしょう」

「本條さんは、今の奥さんとはどこで知りあわれたんです?」

「文学サークルの学習会です。神戸でありました。妻は、講師として来ていました」

「ええ? 本條さんも小説か何か書かれるんですか」

「ええ、文学ですよ」

「推理物かと思いましたよ」

「推理物は馬鹿げています。誰が殺されて、誰が犯人なのかは、事件の当事者にとって大

事なことですが、第三者にとってはどうでもいいことです」

 服を着た宮下は、腕時計をみた。

「やっと五時になりました」

「宮下くん、どうします。レストランにでも行きますか。それともさきに飲みますか」

 食事はまだいいと宮下が言うので、最上階のラウンジに行った。

「お仕事、何をされてるんですか」

 とホステスが訊いてくる。

「公務員です」

 と本條が答える。

「公務員といっても、色々あるでしょ。学校の先生? それとも」

「市役所です」

「あら、市役所にしちゃあ、時間が早いですねェ。まだ五時になったばかりだし」

「出張なんですよ。僕ら。兵庫から来てます」

 宮下が機転を利かせた。

 何組か客がはいってきた。

 科をつくる女が横についている。余分なしなだれは要らない。本條はそう思う。色気を

ふりまくよりもはきはき話す女のほうがよい。宝塚出身の天海祐希のような女のほうがよ

い。

 酒が、昔ほど飲めなくなった。

 生き甲斐といえば仕事だが、捜査と捕り物をやる使命感や達成感も若い頃に比べれば大

きな喜びではなくなった。

 室井のように生きられたら、どんなにいいことだろうか。

 収入や社会的立場がなくても、毎日作品をつくっていく喜びがある。

「本條さん、すすんでないじゃないですか」

 自分についたホステスと意気投合して興が乗った宮下がそう言う。

「歌でも歌ったらどうです」

 同意して、「歌って、歌って」とホステス二人が促す。

「いや、もう一寸あとで」

 何が歌だ。

 場がにぎやかになるだけで、誰も他人の歌を真剣に聴くという姿勢がない。

 それよりは、男女で話したほうがよい。


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『中江警察』5 [自作原稿抜粋]

 桜井刑事部長に呼ばれた。

 桜井刑事部長は、何か言いたいことを我慢している風であったが、結論として黒岩の死

の事件の真相をさらに追ってくれと言った。

 宮下と二人、京都に飛んだ。

「大分、寒いですねェ」

 同志社大学今出川キャンパスの外の道を歩く。

 小型の自動二輪が多い。

 バスが交通の流れのスピードをつくっている。

 緑のバス。オレンジ色のタクシー。

 吐く息が白い。

 晴れているが、空は多少翳みをかぶったようだった。かといって、PM2・5の影響を

受けているということはなさそうだった。

 こちらへ来るまえの朝に、内藤の弟のケイタイへ電話し、内藤智之が学生時代に住んで

いた下宿の住所を聞いてきた。

 三十分ほど今出川キャンパスの周りを歩いたあと、内藤自身バイクで十分かけて通学し

ていたという下宿跡に向かった。

 タクシーを降りるとそこは、モデルハウスが建ちならぶ閑静だが近代的なところだった。

 住所のその場所にも近代的な一軒家が建っていて、しかも当時の大家とは違う名前がア

ルファベットの表札にあった。

 もう下宿はしていないだろう。

「この附近のホテル、当たってみますか」

 と宮下。

「おれも、そう考えてた」

 本條はそう言って、近くに見える派出所のほうに歩きだした。

 警官に身分証を見せて、この附近で一番近いホテルと二番目に近いホテルを訊く。

「そりゃあ、ドーミーインでしょうねェ。二番目は近鉄ですね」

 恰幅のいい巡査から、それらのホテルの住所と電話番号を書いたメモをもらった。

 タクシーでドーミーインに向かった。

「ツインで、今日泊まれないでしょうか」

「申し訳ございません。本日、満室でございまして」

 身分証を見せる。

「実は、或る事件の捜査なんですよ」

 フロントマンが唾を飲みこんでいるのが分かった。

「そういう事なら、分かりました。712号室です」

 と言ってカードキーを出してくれた。

 部屋につく。

「宮下くん、シャワーでも浴びてゆっくりしたらいいよ」

 夕方四時だった。

 本條は冷蔵庫からビールを出して呷った。

 遊んでいるのか仕事をしているのかの境がはっきりしない。本條には同行していてひや

ひやさせられる場面も多いが、結果は必ず出す。宮下は、そういう本條に一目置いていた。

「居るんですかねェ」

「必ず居ますよ。この近くに」

 本條はそう言ってふたたびビールを呷り、カーテン越しに外を見た。

 京都タワーが眼前にあった。


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『中江警察』4 [自作原稿抜粋]

 五時すぎに、もう一度室井の家に行った。

 母親は、起きている、と言ったので、「失礼します」と上がりこんだ。

 室井は奥の部屋で、動画ニュースを見ながらビールを飲んでいた。

「アンタら、誰?」

「中江署の者です。黒岩哲男さんが、お亡くなりになったのはご存知ですよねェ」

「エエ? 黒岩さん、死んだん? いや最近見かけへんなァとは思いよったんやけど」

「図書館で、よく、お会いになるんでしたよねェ」

「いや、それが最近、全敷地禁煙になったでしょ。それ以来タムロする場所がないから、

出会うタイミングがなくなって」

「自殺だったんですが……」

「エエ? 自殺? 自殺はしないでしょ。あの、のほほんとした黒岩さんが」

「ええ、それで、他殺の可能性も出てきたんですよ。捜査に協力してもらえますか」

「はい」

「先月、二十九日の夜は、どこに居られました?」

「ずっと家ですが」

「それを証明できる方は」

「家族くらいですが」

「そうですか。……室井さん、指紋とらせてもらっていいですか」

「はい。別に構いませんけど」

「ここに手の平を押しつけてください」

 宮下がそう言って指紋採取用のセロハンを室井のまえの座卓に置く。

 室井が押すと宮下はすぐに接着剤のついたフィルムをパウチした。

「内藤さんとも、よく会われるのですか」

 本條が訊く。

「ああ、でも最近連絡がとれなくて」

 室井という男は、統合失調症のため無職で投稿生活らしいが、意志的な風貌をしていた。

筋のとおらないことは許さない正義感の目の光があった。

「室井さん、我々はこれでおいとましますが、最後に一つ、……黒岩さんが仕事をしてな

かったこと、とくに、貴方や内藤さんのように病気があるわけでもないのに働いていない

ことについては思うところはありますか」

「ああ、それね。腹が立ってましたよ。彼はいつも常人離れした知識をひけらかす。しか

も健康なのに勤労の義務を果たさないで毎日パチンコなんかに行っている。あれは、武士

の風上にも置けない男ですよ」

「許せませんでしたか。殺してしまいたいほど」

「そうですね。法律がなかったら、とっくに殺してるでしょうねェ」

「有り難うございました」

 署にかえった。

 日報を書いているところへ、山下がにじり寄ってきた。

「本条、目撃者が出たよ」

 スコラマンションの屋上で、黒岩ともう一人の男がもみ合っているのを見た住人がいた

らしい。

 もう一人の奴は、男で、もみ合いの後一人で目撃者の脇を抜けて階段のあるドアを開け

て出ていったらしいが、目撃者は暗くて男の顔をはっきりとは見ていない。百七十五セン

チぐらいの中肉中背の男だったそうだ。

「その目撃者が、黒岩の死体の第一発見者ですか」

「いや、そうではない。暗くて黒岩が突き落とされたのも分からなかったらしい。だが、

後から考えると、二人の男がもみ合っていたということは、黒岩は、その男に突き落とさ

れたんだろうなァ」

「目撃者は、どうしてそんな時間に屋上に?」

「洗濯物を干しに、だそうだ」

 目撃者の男は十二時間交替の昼勤と夜勤を一週間ごとに変える工場勤めに行っているら

しい。スコラマンションの屋上は、一応住人の誰がつかってもいい洗濯物干し場になって

いる。その日昼勤のはじまりだった彼は、珍しく午前二時に目覚めたので夜のうちから昼

にかけて干しっぱなしにしておこうと考えた。

「あらら? たしか、雨が降ってましたね」

「そうだ。だから屋上へ出てから干すのを止めてる」

 鑑識課からかえった宮下と合流し、本條と宮下は七時にその日の仕事を上がった。

 二人で推理をすすめる必要があると思ったので、本條は宮下を飲みに誘った。

 バイク通勤の宮下は、署にバイクを置いて、本條の車に乗った。

 別府港の海の見える居酒屋だった。

「室井が黒岩を突き落としたと考えてますか」

「いえ」

「だって、室井は黒岩を殺したいぐらいに思ってたって言ってましたよ」

「それなら、どうして逃げません?」

「そうですよね。たしかに。……いや、完全犯罪の自信があるのかも知れませんよ」

「いえ、ちがいますねェ。山下刑事の話だと、黒岩さんと揉みあってたのは身長百七十五

センチくらいの男だったとか。室井が当てはまりますか」

 宮下は一瞬目を大きくした。

「そうでしたか。いや、室井は大男でしたねェ。百八十五センチはあるんじゃないでしょ

うか」

 本條は、砂肝を食う。

 宮下は、一杯目のビールをぐいと呷ってから煙草に火をつける。

「じゃあ、本條さんは、誰が黒岩を突きおとしたと?」

「内藤です」

「内藤に動機なんて有りますかね」

「わかりません。……ただ、我々は内藤のことを知らなすぎる」

 宮下のケイタイが鳴って宮下がすぐに出た。

 宮下は、二回相づちを打って、「ご苦労さまでした」と言って通話を終えた。

「指紋、室井じゃないそうです」

「やっぱりねェ」

 内藤智之、彼はいま、どこに居るのだろう。

 本條は、宮下を「泊まっていけ」と自宅に誘った。

 妻の美津子は出版社の仕事からかえっていた。

 オードブルを作っていてくれたので、三人でそれを摘みながら酒を飲む。

「室井という男、調べてみたけどそんなに売れてないね。筆名は室井純一というらしい。

受賞作を出したあと、何も出してない」

「そういう人も多いわ。多分、その人、投稿生活に戻っちゃってるわね」

「へーえ、一度プロになっても、そうなっちゃうことってあるんですねェ」

 捜査中の内容は、本来は家族にも話してはならないが、美津子だと心配ない。

「内藤は、どこに居るんですかねェ」

「恐らく、京都でしょうね」

「考えてみれば、三人とも仕事をしてませんね。室井と内藤は精神疾患らしいですが」

「黒岩にも、何かが過去に有ったのでしょうね」

 美津子のつくったシチューを食べ、三人で交替に風呂にはいってから寝た。


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