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『やきもち』4 [自作原稿抜粋]

 明日は、出勤日だが、おれだけ無理を聞いてもらって休みだ。
 醤油倉はツンと鼻を刺す醤油の匂いそのものが充満している。
「あの、私、コレ、わかれへんわ。ちょっと手伝うて下さい」
 長靴には履きかえた神尾さんが、前掛けがずり落ちそうになるのを抑えて、横向きに立ったまま言った。紐の終点に結び目があって、紐が端まで来ているので、一度脱がせて紐の位置のバランスをとってから着せてやって結んでやった。自身でも直すことは出来たのかもしれない。近くに来て世話を焼いてほしい。それが女心というものだろう。
 おれは、一瞬、本能の欲求がよぎって腹や胸を揉みたくなった。否、揉みそうになったが、ぐっと堪えた。
 生真面目な娘なので、触ってしまっては大ごとになる。
 森脇香純さんは、この醤油倉のカス処分の仕事で、雑談が出来るのが嬉しいのだそうだ。
 六十代の細身で長身の西さんと合計四人で、布についたカスを払った。
 年度替わりだから新しいドラマが沢山はじまるから、とか、ステップハウスのスタッフと通所者の年齢を、それぞれ知っている人のを教え合うなどという雑談だった。
 帰りの車中。
 ワンボックスを運転する香純さん。
「こないだ、岩崎宏美が来とったらしいわ」
「ええ? どこにいなァ」
 と西さん。
「市民会館によ」
「岩崎宏美は、もう歳やろ」
 とおれ。
「いーや、若かったでェ。……せやけどあれやな、前の席は皆、ファンクラブの人が抑えてまうねんなァ」
 ステップハウスに近づいてきた。
 おれは、亡き妻のことを語り、新婚旅行が人生で一番の幸せなときだったから、もう一度誰かと結婚して琵琶湖に行きたい、と言った。
「えーー? アタシら全然、楽しィなかったァ」
「喧嘩したんか」
「した」
「海外やった? 英語も喋れんのかーー、いうて旦那さんに怒ったんやろ?」
「そう、アメリカでなァ。ホテルのフロントなんか全然通じへん。そいで、旅行中ずっと、コンビニで買うたもん部屋で食べとったわァ。近くに海岸あんのに、それも行かず。全然オモシローなかったわァ。ハワイにしとったらよかった」
「ハワイも英語か」と西さん。
「ハワイは、日本語通じんでェ」
 と二人して言った。

 医療用ベッドに拘束されて、夏子さんに局部をいじくられる夢をみた。
 ああ、おれは、深層意識ですら夏子さんに惚れているのだ。八重子さんにも惚れている。
 手淫のとき、八重子さんと性交しているのを想像しながら果てる。おれの想念の影響か、最近八重子さんは乳が大きくなり、前までとは違う服を着てその胸の大きいのを隠すようになった。
 連休も終わろうとしている。
 原稿は、大して書けなかった。
 こんなことをしていても、一向に変化はない。
 仕事を辞めないと。
 しかし、そうすると月々のものが足りない。
 煙草をやめれば、法テラスの支払いがあってもやっていける。
 がんじがらめだ。働いているのに、一般の人の四分の一しか金がはいってこない。その上に、小説を書く体力も削がれる。
 マトモに働いて自費出版か、仕事を辞めて新人賞投稿か。
 性欲が強い。
 芳美との不倫があったので、長い時間をかけてセックスするのが当たりまえになっている。なのに、今相手がいない。仕方なくライブチャットで待機しているパフォーマーにテレパシーを送って、一緒に絶頂を味わうという方法をしているが、最近は、どの女も応じない。時間がかかって生活が乱れる。
 射精と煙草がない生活など考えられない。
 障害年金も、厚生年金に切りかえれば多額になるのに、医者は動いてくれない。
 統合失調症を発病したのは、実に三十二のときで、それ以前に精神科に通っていたのは心因反応だったのだから。一度、役所に行ってこようと思う。山中製缶に通っていたときに統合失調症を発病したと認められれば、月々十万ちかい年金を受けることが出来る。
 ゴールデンウィークは、終わった。
 仕事をはじめるときに、宗教的・哲学的疑問が頭をもたげてくる。休みになれば、考える時間が充分にあるのに、そのことを考えなくなる。
 困ったことだ。
 それが強迫傾向だ。
 おれは、プロになるのだ。そう思って、まだ原稿がまったく書けていなかった二十八のとき、文具屋でこの万年筆を買った。七千円は、手痛い出費だった。

 溝掃除だった。
 隣のご主人が、先日亡くなられたので、その娘である彩海さんも出ていた。
 反対の隣の内科医院の娘も出ていた。
 独身の女が二人も出ていたのだから、掃除が終わってからの雑談会に居残るべきだったが、眠いのでやめた。
 自然に仲良くなるのがベストだという意見が、世の中には多いが、おれは、そうは思わない。どちらかが下心を持ってアプローチしてこそ恋愛ははじまる。両人とも普段の暮らしのなかですれちがうことがあるのだから、休日の散歩のときでも、出勤で車に乗るときに目が合ったときでも、何らかの会話をしてくればよいのである。会釈だけではなしに。
 女も、待っているだけではいけない。
 オカマっぽい同級生箱崎が、おれを呼ぶ。
「来ィなァ。大丈夫やで」
 と言って、右の吊り橋のワイヤーケーブルをハンドルで巻いて橋をピンと張らせ対岸から招く。
 左の吊り橋は、安全なことは分かっているのだが、おれは冒険心から右の吊り橋を渡ろうとする。
 端まで来た。
 急にワイヤーが緩む。
 ハンドルが反転する音が大きく響いて、おれは冷たい川へ転落する。
 全身が水に浸かる。
 泳ごうとするが、眠けが邪魔をする。
 ああ、だから、今までにも何度も経験したことじゃないか。箱崎など信用してはいけない。
 十一時二十分になっていた。
 雑談会は、とうに終わっている。
 全身が水に浸かる夢は、恋人からプロポーズされる可能性を示唆しているらしい。これまで経験したことのない、純粋な感動がある、という意味でもあるらしい。
 栗原さんとの話し合いの末、鉄工所行きを再開した。
「ボール盤の位置は、ゆくゆく元に戻す」と以前ステップハウスの理事長である鉄工所の社長の息子さんが言っていたが、最近大きな機械を元のボール盤の位置に導入したのでボール盤は動かせなくなったようだった。
 社長も含めて鉄工所の家族全員が作戦会議をするテーブルが、ボール盤のすぐ近くにある。緊張する。立場の偉い人をまえにして、という意味ではなく、人が狭いスペースにだんごになっているのが統合失調症患者には堪えるのだ。
 果たして、ボール盤にはエアー噴き出し装置があらたに装備されていた。
 西さんが製品から鉄粉を落とす工程をはしょるからだろう。
「こないだ、ドリルが折れてもてな。せやけど、すぐに換えてくれたったわ」
「ええ? ドリルなんかなかなか折れへんでーー。ネジ切りのスピードより速う、ドリル、押し込んみょんのとちゃうか」
 その内容を千谷さんに話したら、
「オッサン、何しょんねん」
 と言っていた。
 ともかく、新しく付いたエアー機構は良くなかった。製品に右から空気を当てるので、製品を持っていなければならない左手の服の袖に鉄粉がはいりこむ。左からなら、右手は上部のハンドルだけを掴んでいるので支障はないのだが。
 近頃、夏子さんは顔をみて挨拶してくれない。
「ブログ、読んでくれましたか」
 室井の本名で検索すれば、自営業のホームページに行き、ブログへも辿りつける、とすすめても、
「私なァ、最近忙しいて見る暇ないねん」
 と素っ気ない。
 だが、これだけ長い時間の間に、二、三度は、そのことを話したのだから、やはりブログはすでに見ているのだろう。
 そこに、夏子さんへの思いが綴られているので、嫌悪感を抱いているのかもしれない。たとえ、架空名称に置きかえて書いていても、困惑があるのかもしれない。
 当分、夏子さんとは距離を置くことにする。
 もう、この職場も、潮時なのかもしれない。同じ人間関係を、一年も超えてするものではない。
 衣笠さんに、パソコンを教えに行った。
 衣笠さんは、森脇香純さんが出来るところまで筒一杯、仕事を頑張る姿勢ではない、とおれに話した。
 そのことによってハイスピードで仕事をしようとしている通所者と温度差が出来てるうえに、全体の製造量も落ちているので八重子さんの機嫌がわるいという内情まで話してくれた。
 おれには、そこまでの観察眼がない。
 衣笠さんと森脇さんとおれとで醤油倉に行ったが、
「舛添なんて、酷いモンやでェ。一ヶ月に七十万もうて、それとは関係ない政治資金で高級車買うとんねやからな。それ税金やでェ。充分飲み食いしたあとに月々十五万ほど避けといて、ホンならその金で車、充分高いのが買えるでェ。公務のたびに高いホテルに泊まったりよ。……大体、天下りいうのんも許せんわ。定年まで働いてすぐ大会社の会長、なんねんでなェ。そんなん、その会社のことどれだけ知っとるっちゅうねん」
 と衣笠さんが長々と、おれに直接怒っているように話す。
 衣笠さんの政治批判は、二十分ぐらいつづいた。
 胸くそわるくなってきた。
 こいつは、古川慎平と同じだ。
 ブログで衣笠さんの意見と反対の意見を表明した。
 三日経って、衣笠さんが暗にこちらを批判する記事を自身のブログに挙げた。
 別に舛添氏が白か黒かなんて問題ではない。問題は、一般の人間同士で会っているときに、感情のこもった政治批判の弁論をながながとすることだ。
 合いの手も入れさせない程、矢継ぎ早に一方的にながながと怒りの感情を込めて批判弁論を展開する。聞いていてしんどい。
 自助努力をしても、もう勝ち組にははいれないと諦めているから、長々と愚痴めいた批判をするのだ。

 仕事を休んだ。
 冷房の利きが弱く、風呂にはいってなかったので、股がかゆかった。股をかいている内、陰茎が刺激され、手淫をしてしまった。そのせいで身体が疲労したので決めた時間に起きられなかった。
 浅い眠りだった。
 ステップハウスの移転は、着々とすすんでいる。
 衣笠さんと満くんと、千谷さんと西さんとで、先日、廃校になる小学校から移転先の小学校へ、長机を三脚はこんだそうで、相当重くて辛かったことを、衣笠さんはブログに書いていた。
 衣笠さんのブログを、よく見るようになった。
 カーテンレールの別のタイプの商品の組み立て説明を、業者から受けた。
 八重子さんがおれに、説明を聞く場で神経が保つか、と再三念を押してきたが、おれは大丈夫だと答えた。
 新しいタイプは、二本の溝から一本に変わり、心棒がなくて糸が複数垂れさがっているものだった。
 新しいことは、覚えるのに時間がかかる。その場で代表して全行程をやってみたかった。その方が、すぐに覚えられるから。だが、業者が三人も来ている場で一時間を超えての会合は、きついので、自分からは申し出なかった。
 肩幅がなくなった。
 江田貞夫にグレーのクーペで追いかけられ、芳美との仲が世間にバレてしまうのではないかと、常に他人の視線に気を配りしている内に、二段階ほど肩幅が小さくなった。
 もう、昔の肩幅には戻らない。
「貴方は、コメディアンですか」
 おれが英語でコメントしたYouTubeのチック・コリアの音楽動画のそのコメントの返信に、外人から英語で、そうコメントされた。 たしかに、おれのYouTube動画を見れば、そう思うのだろう。腹が膨れてシャツが出ているし、トランペットの演奏もド下手だし。
 酒を、一時的にでも止めるように、医者に言われた。
 夜中に救急車を呼んだのである。右背面の奥が痛かった。
 中江市民病院の救急の医者は、尿管結石だと言ったが、紹介状を書いてもらった先の次の病院では、石は、もう流れ出ているとの事だった。
 たしかに痛みは治まったが、今度は仕事中、身体がだるくて仕方なくなって、肝機能を調べておこうと別の内科に行って血液検査を受けたら、数値がわるく、脂肪肝にもなっているとの事で、『ウルソ』という薬を飲むように言われ、医師との話し合いの末、当分、一日にビール三百五十ミリリットルだけにすることになった。
 酒を飲まないと、時間がゆっくり流れていく。
 さっき手淫はしたが、それもしたくてしょうがない程の性欲は起きていなかった。
 今年は、大殺界なので、大きないい事は起こらないだろう。
 昼間、隣の彩海に出会ったが、お定まりの挨拶をしただけだ。
「暑いなァ」
 雑貨屋の尾崎に、殺されかける夢をみたが、あの件があった後で、あれがあったわけだから、お互いに深読みしてしまうと、お互いに相手に対して嫌悪を持っているとも言えるので、当然の夢だろう。
 そこは、はっきりさせないでいいことは、はっきりさせなくていいのだ。

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『やきもち』3 [自作原稿抜粋]

「くっさ」
 そう言っておれの横を満くんが通りぬけていった。
「ああいうの、腹立ちますね。シバいたろか思いますわ。臭いねやったら外出てくんな、ですよね」
 片岡くんがそう言う。
 午前の休憩時間。おれは、始業ぎりぎりまで煙草を喫った。
 知的障害者の満くんは、ときどきおれに挑発的なことを言う。
 内心では、おれにかまってほしいのだろう。だが、人とのコミュニケーションをどうやったらとれるのかが分からないのだろう。
 片岡くんは、今日、缶コーヒーを七本も飲んだ。
「ちょっと今、発作が出そうです。急に人殴ってまうかもです」
 傷害事件を起こしたこともあるそうだ。
 若いうちは、けれんみがある。
 拳立て伏せをやって身体をきたえている。
 他人に、自分を大きく見せたい。
 夏子さんは、今日休みだった。

 ーーー右の頬を打たれたら、左の頬を向けよ。
 ーーー一切、誓ってはならない。
 新約のイエスの言葉を思いだし、それの真意について考えだすと考え事の世界に埋没してしまった。聖書の解釈は、インターネットの集合知でも、「これだ」という答えには出くわさない。
 仕事中にも考え事が出てきて、辛い一日だった。思えば、この手のことで、若い頃はうんざりする程悩んだものだった。
 仕事終わりのとき、香純さんがドアのところに前向きに立っていて、人がだんごになっていたのでなかなか玄関に出られなかった。
 気づいた香純さんが、おれとは反対側の観音開きのドアを押したので、二人して同時に出る格好になった。
「結婚式みたいやな」
「結婚? あかんでェ、私結婚しとんねんでェ。離婚したら結婚しよ。色々コブがついとるけどな」
「マダム・キラー」
 と言って八重子さんが笑う。
「そんな、やっかいなこと、出来るかいな」
 と、おれは返した。
 花見の時季が終わろうとしている。
 火曜日だけ来ている、本多晴美と仕事をした。
 E2と呼ばれる電線のソケットを箱にひとまとめにする仕事を、晴美はしていた。
 仕事をしながら、皆、雑談をした。
 kat-tunなどというグループのメンバーが減ったなどという話で、女子たちは盛りあがっていたが、TVを見ないおれには、さっぱり分からなかった。
 おれが小説を書いているという話を出し、晴美が、「どんなん書いてるの」と聞いてきた。
 晴美は、内田康夫の小説が好きだと言った。
 代表作が、『浅見光彦シリーズ』らしいと聞いたので、
「あの水谷豊がやったやつか」
 と訊くと、
「水谷豊は、アカンわ。男前やないもん。浅見光彦は、男前いう設定になっとんねんで」
 じゃあ、おれは男前か、と訊きたかったが、はっきり言われるのが怖いのでやめた。
 向精神薬のせいで、額がすっきりしていない。何かと悩んでいるように見える表情だ。はっきりした目鼻立ちだが、眼鏡をかけているので、美人なのかどうか、よく分からない。胸は充分にふくらんでいて、尻が大きいのでジーパンが似合う。衣笠さんの幼馴染みらしい。衣笠さんによると、彼女は四十代後半くらいで、おれの伴侶としては丁度いい年格好だ。
 作業所は、移転するかもしれない。
 オークションでツェッペリン社の腕時計を買ったが、風防に大きな疵があった。写真では気付かなかった。九時十一分に時刻が合わせてあり、秒針が十秒を指していて、疵を上手く隠してしまっていた。商品ランクが3.5と書いてありランク4でも風防に多少傷があると説明してあるので返品できない。
 西村京太郎と山村美紗は、親密な間柄だったそうだ。
 ミステリーを書かないといけない。新人賞が獲りやすいのは、ミステリーかホラーだそうだ。
 金箔が施してある万年筆を買った。
 有希子との新婚旅行を思いだしている。
 佐川美術館の売店に、これと似た金箔装飾の万年筆があったと記憶している。外国製の本体で、PILOTのものに比べると、ずっしりと重い。
 夢のなかで、おれは、名のある作家になっていた。タクシーを貸しきって自宅から半径四十五キロを周遊するのだった。気分転換と取材のために。

 作業所を早退きした。
 頭が痛かったのである。
 キリストの言葉の矛盾については、自分がキリストだったらどういう言動をとるか、という考え方によってすべて納得できたので、今は、そのことについては深くは悩んでいない。
 オークションで買ったツェッペリンの中古の腕時計。写真では判りづらい傷が、風防に大きくついていたので、商品状態ランクでは説明がしてあるので返品できないので、セリウムを買ってその水溶液で擦って傷を消した。
 金箔装飾を施した万年筆は、書き味がよくなかった。
 その後、楽天でシェーバーを注文した。
 そして、PILOTの逆輸入の万年筆も買った。書き味はよくなかった。
 このところ、毎日額の疵が痛くなる。
 ゴールデンウィークが近づいている。
 平日を一日休んで、五連休を創ることにした。
 原稿を書きたいからだ。
 休みにはいった。
 ながながと手淫に時間をかけた。
 ライブチャットの待機画面の女たちは、だれ一人、素直に相互オナニーに応じようとはしなかった。
 酒もはいらなくなって、エコーがひどく不味かった。
 今ごろ、一人で、スピーカーの遮音材の箱入れを、八重子さんはしているのだろう。
 八重子さんが可愛そうに思ったが、本当の親切とは、自己実現を達成して人を安心させてやることの方だ。
 國分さんが、「若尾文子と山本富士子のDVDを買ってくれないか」と電話してきた。
 買う余力がないので、オークション出品代行をしてやると伝えた。
 ネット検索してみれば、若尾の配偶者は黒川紀章であることが分かった。國分さんは、平生から建築のことをよく話題にするので、若尾文子に興味を持ったということか。
 國分さんとおれとは、丁度十年ちがう。
 先日、おれの部屋へ来て、こちらへ来る道中で大便を漏らしたと言っていた。そのままおれの布団のうえに座ったから、今でも部屋がうんこ臭い。
 大学時代から可笑しくなったらしい。その当時の人間関係が原因らしい。
 國分さんは、ご両親が相次いで亡くなられてから遺産がはいり、豪遊するようになった。
 童貞だった期間も長いが、一気に女遊びへの欲も出た。
 若いころに一、二年仕事をしていただけで、三十数年無職だそうだ。
 他人からの思考流入があるそうで、働けないのは仕方のないことだ。
「隣のオバちゃんが、こっちに色々言うとるんや。何や、それが僕にだけ聞こえるんや」
 人と人との自我の境界がなくなる。それが統合失調症だ。
 原稿書きが捗らない。
 ケイタイを解約したのは、間違いだったのか。
 夏子さんとでも、八重子さんとでも、直電ができたのではないか。
「一遍、お茶でも飲みに行きませんか」
「お茶飲むだけですか」
 邂逅の折、夏子さんとは、そんな会話があった。まだ、夏子さんが既婚だとも知っていない段階だったが、彼女は、お茶ぐらいは飲んでもいいだろうと思ったということだ。
 プレイボーイなら、もう、とっくにものにしているだろう。
 しかし、もう二度と、不倫をする気はない。が、しかし、不倫をしないと、ストーリーに展開がない。
 現代小説で、ストーリーに面白さを持たせようとしたら恋愛を描くのが一番てっとりばやい。
 有希子は、風呂に浸かって溺死した。おれの目のまえで。
 イオンのBARREALを飲んでいる。
 作業所では、通所者の一人が粗相をしてしまうという事件があった。前日に飲んだビールで腹を下したらしい。
 夏子さんも八重子さんも他のスタッフも、わきまえている。弱者の心を傷つけないよう、人の多いところではその話はしない。
 ステップハウスに通う通所者のなかにも、人それぞれ色んな歴史がある。社会へ一度も出たことのない者もあれば、一般就労を三十年もしていた者もある。
 発達障害や知的障害は、幼い頃からだが、鬱病や統合失調症は、三十代や四十代から罹る。その他には、身体障害だが、これも先天的なものと後天的なものがある。
 スタッフが、障害者を見下したような言動に出たことを見たことがない。
 栗原八重子さんと古塩つぐみさんが正職員で、夏子さんと森脇香純さんが、パート職員だ。
 管理者の栗原八重子さん以外、障害者の世話をするための資格は持っていないだろうと思われる。それなのに、一番あとにパートではいった香純さんさえ、弱者を見下す言動がまるでない。
「室井さん、色々あってねやなァ。私ら、なーんもあれへん」
 貴女のことが知りたいので、昔のことを話してよ、と八重子さんに言ったときの答えだった。
 高校時代に、毎日、社会人の男の人に校門で待ち伏せされ、付き合ってくれと頼まれたそうだ。その直後、一級上の先輩から、「あんなオッサンと付き合うより、オレと付き合え」と言われてその男とねんごろになったらしい。旦那とは、まったく別の恋愛時期だが、恋愛も、それくらいしかない、と語っていた。謙遜かもしれないが。
 事情がある者同士が、相手には深く踏みこまずに一緒に仕事をしている。
 千谷さんは、酒や女や借金があった。
 衣笠さんには、重い失恋があったそうだ。
 Eくんにも事情があるらしい。
 明日は、出勤日だが、おれだけ無理を聞いてもらって休みだ。

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『やきもち』2 [自作原稿抜粋]

 誠二夫婦が来た。
 誠二は、年相応の老けた顔になっている。
 嫁の可奈子さんは、相変わらず肥っていた。いつまで経っても仕事疲れから解放されないから肥ったままなのだろう。
 甥の二人ともが受験だそうで、今年は大人数で人生ゲームをしていくほどの閑がない。
 上の甥は、東京大学を目指している。
 甥用のお年玉を可奈子さんに渡した。たった二千円ずつだったが、手痛い出費だった。
 初詣は、元日に一人で行ってきた。母は、元日の午前中に正雄と、そして、三日に誠二夫婦と行ったようだったが、おれは同行しなかった。従妹の息子にもお年玉をやらなくてはならなくなるからだ。まあ、そんなことよりも、睡眠が不規則なので叔母の家に長居するとしんどいのだった。
 それにしても、叔母の子である従妹の華は、美人なのである。事情があって出戻ってはいるが、恋愛や結婚の対象として充分である。美しいから。そんなことを思いつつ、日々だけが過ぎてゆくのである。今や、おれも五〇代。華は、四〇代である。
 自身に充分な稼ぎがないから、こちらからは女性にアプローチできたものではない、と考えている。
 統合失調症で『考想伝播』などというやっかいな症状をもっているので一人前には働けない。そう躊躇している間に、女も自分も歳がいく。
 だが、有希子と交際をはじめた時期にも、今と同じ程度の症状はあったのだ。
 有希子を何とかものにしたいと思い、一般就労で必死に頑張った。 一応、四十歳までに一度結婚したという事実を作ったことは、世間に対する引け目をなくした。
 暖かい冬だ。
「室井さん、休憩時間中にトイレに行ってください」
 若い理事長に、そう注意された。
 鉄工所に派遣労働に来ていて、十時四十分になったから、外で煙草を吸った。ボール盤の場所に戻ろうとしたが、すぐ隣の機械へフォークリフトをつかってワイヤーの束を移動させている処だったので、休憩時間がまだ終わりになっていなかったので、外でもう一服吸ったら煙が腸を刺激したらしく急に便意をもよおしたのでそのままトイレに行った。
 人を使う側としては、時間に余裕があるのに就労時間になってからわざとトイレに行ったように見えたのだろう。
 八重子さんにそのことを話すと、急に便意をもよおしたりするのは室井さんの病気だから理事長に説明しておくと言っていた。
 過敏性大腸炎なのである。
 最近は、便を固くする薬を飲んでいるが、この二日ほどは飲んでいなかった。
 西さんは、おれの十年上で六十二歳だ。
 知的障害がある。
 朝刊の配達をやってから、この作業所に毎日出勤している。
「これは、こんなモンは付いてなかったで。昔は」
 玄関の外側の喫煙スペースで、西さんはPeaceの側面のQRコードを指さしながら言う。
 細くて背が高い。おれと同じくらいの身長がある。
 鉄工所では、おれの大便の近さに配慮してかおれのボール盤の位置がトイレに通ずるドアのすぐ横になった。社長や理事長が頻繁に近くに来るので、緊張してテレパシーが出そうになって辛い。それで、八重子さんが配慮してくれて、鉄工所行きは二日に一度となった。
 オークションで落札した天体望遠鏡の話をしていたら、八重子さんや夏子さんと喧嘩になってしまった。望遠鏡で道路を見るのは犯罪か否か、という話になり、夏子さんがおれのそういう動機を「気持ち悪い」とまで酷評した。
 別に、他所の家のなかを見るとかスカートのなかを覗くということではないのだ。
 時代が変わってしまったこともあるが、八重子さんや夏子さんは自分のことをイケてる女子だと思いこんでいる。プライドがある。 その後、八重子さんがコード巻きの仕事の件で、搬入先の会社からセロハンテープの幅の規格がちがうのをウチが使っていたことを指摘されたようで、その件に関して通所者全体に改善を徹底させようとして色々言っていた。
「そう言えば、単線のほうのセロハンテープでは、端に行きあたりすぎると思ってました」
 とおれが言うと、
「どういうこと?」
 と、ガールズ言葉で聞きかえしてくるので、もう一度説明したが、それでも、
「どういうこと?」
 と訊きかえしてきたので、ムッとして口をつぐんだ。
 自分が搬入先から指摘を受けているので、仕事を没にしたくないのでそのことで頭がうわーっとなっているので、部下の言ったことに、理解が及ばないのである。
 その後、
「室井さん、大人しいやん? ひょっとしてまだ私らから注意されたことにイガイガ来とってのか」
「もう、その話は、時代の違いと見解の違いいうことで、済んどるやろがい」
 と言いあってから、「どういうこと?」という訊き方のイントネーションが悪いので腹が立つ、という内容で、大喧嘩となった。
 書けないでいるうちに、ホワイトデーが過ぎた。
 徹夜したら心が悪い方向に動く。
 プロの作家にはなれないのかもしれない。いっそ死にたいが。
 祈ったことは必ず実現するという人もいるが、悪い祈りは実現しても、自分を浮上させる祈りは、なかなか実現しない。
 三月の給料日に明細をもらうとき、管理者八重子さんは、「やっぱり毎日出てもらわんと、A型には推されへんねん」と言った。
 通所者の成績を上げ、A型や一般就労へ行った人の数を出し、国に成果をアピールしたいのだろうということが、聞いているおれにも分かった。
 その日、早い晩酌をしているうちに、毎日出勤したい旨を管理者八重子さんに電話で話した。
「栗原さんの喜びが、おれの喜びでもあるわけです。それに、収入も増やしたいし」
 その後、同僚から愚痴を聞かされた。
「三ヶ月も毎日出勤しているが、奨められて見学にいったA型作業所は、寮つきの刑務所のような処。新しくはいってきた新卒の知的障害者たちに、身障者用トイレを荒らされている」
 という、SNSでのメッセージだった。
 ああ、あの、おれに仕事を教えてもらって、「すまん」とか「有り難う」と言う奴のことか。親の歳以上のおれに敬語もつかわない。そんな奴らが居るなら、おれも早いとこ他へ移ったほうがいいなと思った。
 翌日、一般職への面接に行きたいので水曜と金曜には早退させてほしいと八重子さんに言った。
 彼女は一旦納得してくれていたが、すぐあと、「何で、言うことが、そうコロコロ変わるねん」と訊いてきて話し合いとなった。
 結局、八重子さんが喜ぶために成果を出してあげたいと思って気をつかって毎日出勤したいと言っただけで、実の処、まったく原稿が書けなくなっているので焦っているだけだということを八重子さんに話した。
「今のシフトでも、慣れてくれば疲労の度合いも下がって、いずれ原稿も書けるようになるでしょう」
 と、おれは話し、結局、今までどおり、水曜休んでの週四日出勤に収まった。
 八重子さんは、おれが毎日仕事が終わって車で帰るとき、もの凄く元気に両手をふってくれた。立って左右に動きながら、
「室井さーん、バイバーイ!」
 と。
 思いつきにせよ、思い切って他へ就職したいと言いだしたことは、そこに加速が発生しているのだ。だが、その考えを八重子さんは問いただしたわけだ。せっかく走りだそうとしているものを、その頭を抑えたのだ。栗原さんによって、おれはスポイルされているとも言える。
 ただ、一般就労に失敗して他の面接を受けてもどこも通らないようなことになったとき、この作業所にはすぐには戻れないそうだ。
 栗原八重子が、おれにそう言うということは、おれは彼女から不充分な働きしか出来ない状態だと査定されているということだ。
 くやしいが、その通りだ。
 ただ、彼女のまえで、そしてこの作業所で、一度もテレパシーが出たことがないのに、そう判断するのは何故だろう。他のスタッフのうちの一人は、おれのことを、「とても病気持ちには見えない」と言っていたというのに。
 ステップハウスの一階のフロアで二度ほど仕事をした折、「とても、この人口密度では保ちません」と申告したことはあった。派遣で行かされる鉄工所でも、ボール盤の位置が変わってから、すぐ傍を社長や専務が頻繁に行き交うので緊張してテレパシーが出そうになる、と申告したこともあった。
 テレパシーそのものが出たことはないが、そういう申告をしていれば、「まだ、この人は、一般の仕事は無理」という判断になっても当然だろう。
 管理者栗原さんが、どういう思いで就職を止めたのだとしても、彼女がこの作業所におれを括りつけようと思っているのだとしても、そこは、あまり深刻に捉えず、ともかく週三日でもいいから原稿を書こう。
 原稿が書けてないので、すべてが止まっていると罪悪感を持ち、不本意なのだ。
 もっと収入を得て、人間らしい暮らしをしたいと思ってみたり、この作業所も辞めて原稿だけを書いていたいと思ったりで、しばらく、心が揺れていた。
 しかし、この作業所を辞めてしまうと、たちまち月々のものが足りなくなる。
 要は、今のシフトに慣れて、仕事をしながらも原稿を書くことだ。


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新連載、『やきもち』 [自作原稿抜粋]

 Eくんと夏子さんが親密に話しているのをみるたび、心臓が重くなる。
 夏子さんが持っている好感が、おれよりEくんのほうのが大きいのではないか、と考えてしまう。夏子さんは、韓国女性っぽい超美人だ。既婚で、不倫願望もないと思える夏子さんが、たとえそうであってもおれには悩む必要はない、ということも重々分かっているのに悩んでしまう。ヤキモチなど焼く人間ではなかったのだ。おれは。
 なぜか。それは、おれが、ほとんどの男どもを凌駕してしまうほどの美男子だったからだ。
それが、この二、三年で腹が突きだし、だらしない体型となって、身体ほどではないにしても、顔も幾分ふやけてきてしまったのだ。
 Eくんは、中背で都会的な顔だちだ。ほとんどの人間に、負けなかった男が、衰退して負けはじめている。カーテンレールの組み立て作業でも、作業スピードに倍の開きがある。どんな仕事をやっても、どこの職場でも優秀だったおれが、仕事でも負けている。十一年というブランクがそうさせたのか。老けたのか。認めたくないが、もう冴えない男になりつつあるのを認めざるを得ない。
 自宅自室で、寝ころびながら考えた。考えぬいた末、糸巻きドラムを心棒に通す作業が手間どっているのが、遅い原因の主たるものだと気づいた。さらに考えつづけると、心棒の六角の平たい面を固定してドラムの方も糸がついている面を天頂に向けて指で直接押さえて固定してドラムを挿し込めば、一発ではいる筈だということに気づいた。
 職場で試してみて、大成功だった。これで、Eくんとのスピードの差は埋まってくるだろう。
 何で、横と比較して怒ったり妬んだりするようになったのか。何で身近なスタッフと比べて収入が低いことを不公平だなどと考えるようになったのか。仕事にかまけているからである。投稿とブログだけをやって、将来の目標だけを見据えていたときには、そんな低級な感情は湧かなかった。
 原稿を書かないといけない。
 先日、亡き妻の十三回忌法要だったので、亡き妻の身内が来た。
 義妹は、集合写真を希望した。今思うと、なぜ義妹は写真が撮りたかったのだろう。おれやおれの弟の顔写真がほしかったのだろうか。義妹も、いい歳になる。結婚はまだしていない。
 恵利がおれに好意を持ってくれているのだとしたら、嬉しいことだが、義母も所帯を持つことには諸手を挙げては賛成しないだろう。
 それにだ。おれは今、自分の経済すらままならない状況なのだ。幸せは、いつ訪れるかしれない。不幸もまた、いつ襲われるかしれない。僥倖は、誰にでもある。考想伝播があって一般の仕事が出来ないでいるが、急に結婚が決まれば無理にでも一般就労するかもしれない。
 何だかんだと言ったって、要る物は要る。毎月、金が足りない。破産申請をしているので、クレジットやローンが使えなくなり、金の融通が利かない。だから、毎月、すこしだけ金が足りない。
 芸人を目指している五十六歳のニート男の動画をみた。母親の年金だけで親子で暮らしていて、母親が可哀想だった。おれとの違いは、障害年金をもらっているかどうかが一番大きい。健康なのに働かない人も居るのだな。
 番組は、さんざん主人公の男を笑い物にしていた。他人のことを言えた義理ではない芸能人が、その男にさんざん説教をしていた。何の芸もない、タレントと言われる芸能人に、仕事だの生き方だのを語る資格などない。
 作業所は、今日も愉しかった。
 衣笠さんの言動がおかしいので、それを肴に盛りあがった。
 おもしろいブログを探すが、見つからなかった。自分のブログが、自分のブログだということを差し引いても、一番おもしろい。それは、誰が読んでもはいりこんでゆけるように記事の内容と語り口を考えて書いているからだ。
 隔日出勤で、明日出勤だ。こんな生活で原稿を書けるようになるのだろうか。仕事から帰ったら疲れているので書かない。その翌日は、その翌日が出勤だから、気分が仕事モードにはいっているので書かない。これでは、まったく、まえに進まない。
 雨が降っている。十二月にはいったというのに、そんなに寒くない。
 UCCの大きな壜にはいったインスタントコーヒーが、最近スーパーの売り場にない。ネスレのコーヒーよりUCCのコーヒーの方が旨いのだが、無いので仕方なくネスレのコーヒーを飲んでいる。
 風呂にははいらなかった。風呂にはいるのは、かなり面倒だからだ。
 昨夜は、ライブチャットの待機画面を見ながら陰茎をしごいていたが、テレパシーを感じても誰一人、素直に手淫する娘がいなかったので、無念だが自分だけ射精した。
 夏子さんに送ってもらって鉄工所に行った。
 十二月も半ばというのに、そんなに寒くない。作業所が用意した電気ストーブのスイッチを入れることはなかった。
 理事長は、同級生と話していたようだ。
 ケイタイを耳に当てながら、
「そら、一人、四千円はかかっとるでよォ。ツヨシの分、おれが千円もったみたいなモンや」
 などと話していた。
 経営側だと、時間の融通が利く。その代わり、仕事の拘束時間が長いが。
 國分さんに万年筆を譲ってもらったが、よくなかった。
 細字なのである。
「二千円でエエわ」
 と言われて、うっかり払ってしまった。

 衣笠さんは、『じいちゃん奮闘記』というブログを作ったのだそうだが、検索をかけてみるとすでに何年もまえからやっている、別人の同タイトルのブログが出てきた。
 衣笠さんには、タイトルを変えるように勧めようと思う。
 年金が支給された。
 しまむらで肌着を買った。

 栗原八重子さんが、営業部長だった。
 その日、営業部は五人全員で外へ出た。部長だけが女だった。
 栗原さんが提案して、急に新規訪問に全員がそれぞれに行くことになった。
 おれは顧客のまえで鞄をまさぐった。
 こんなときにかぎって、おれは名刺を切らしていた。
 輪廻転生のなかでは、栗原さんとこういうつき合いがあったのかもしれない。ありそうな夢だった。

 正月休みをしている。
 自家用車のワックスがけはしたが、自室の掃除は中途半端なままだ。
 内容の濃い、ネガティブな夢をみている。しかし、起きれば忘れてしまう。
 独りで初詣に行ってきた。徹夜あけだったので人ごみが堪えた。おみくじは、大吉だった。
 大晦日の夜に、持ち込みの原稿が、ある大家の目に留まって新作を書くことが条件でデビューできる話になったという夢をみた。その夢のことは、誰にも話していない。
 遊ぶ時間が必ず必要で、仕事に行っていると仕事と遊びだけになって原稿が書けない。仕事をしないでいいように、早くなりたい。原稿書き、ブログ更新、オークション出品、ストアの管理、散歩、動画撮影、ときどき楽器をさわる、それだけで結構忙しいのだ。
 それが、今月からは週四日出勤になる。他のことが殆どできないほど、忙しくなる。
 どうやら、障害者地域活動支援センターのおれの担当の人が、拙著をアマゾンから買ってくれたようで、アマゾンの新品在庫が一冊減っていた。
 出版費用を抑えるため、取次から書店流通をさせるというオプションのない自費出版にしたので、売れ行きは加速しないままだ。金がぎりぎりでも勝負しておくべきだったと今さら悔やむ。
 クレジットカードを作らなければ、自営をはじめなければ、そういう生活がつづいたのだ。しかし、カードローンなどの借金をしていなければ、二作目の自費出版も出来ていなかっただろう。新人賞にかすりもせず二作目も出せずに現在まで来ていたら、相当鬱憤を抱えていたかもしれない。
 これから、『法テラス』という制度をつかって、司法書士に料金を払うことになる。それが、月一万円で、支払い期間二年半だ。その間、どうしても今の仕事を辞めるわけにはいかない。
 義母から、年賀状が来ていた。
「11月に元気な姿にお会いできて嬉しかったです。今年もどうぞよろしく」
 と書いてあった。
 有希子が亡くなった今、有希子のことを思いだすよすがとしては、おれの存在が大きいのだろう。
 人は皆、死んでゆく。
 明後日からは、仕事だ。

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落選 [山雨の動向]

 『第十七回このミステリーがすごい!』大賞、拙作『高森刑事、お疲れ様です。』は、


落選しました。


 これで、またしても、結果を待ってない状態になりました。


 長いなぁーー。

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