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『折角、太陽を見なかった日に2』ー6 [自作原稿抜粋]

 たまに実家の自室に泊まることもある。
 夜中じゅう騒がしかったバイクだが、最近はあまり空ぶかしを聞かなくなった。おれの部屋に毎夜灯りがついていないのでせがないのだろう。走っている空ぶかしバイクも居るが、前ほど執拗にはふかさなくなった。飽きるのである。バイクなどというものは、二年も乗れば飽きる。トライアルやレースをするのでもなければ、排気量の大きいバイクに乗り換えるという方向にしか行かない。それもひと通り千百シーシーなどにまで乗ってしまうと、車体が重すぎてとり回しが難しいのでやっぱり中型ぐらいが好くなってくる。その頃には大人しいライダーになっている。そうなると、ヤマハのSR-250くらいで好いことになる。
 ホビーな趣味はいつかは飽きる。一方、研鑽を積んでいくタイプの趣味はそう簡単には飽きないが、それでも自分がもう伸びないという地点にまで来るとそれも飽きる。永遠に飽きないのは創作である。
 果たして溝掃除があり健康診断があった。
 この歯科がよいは一年以上つづいている。
 変えた歯科は、なかなか治療終了にならない。永遠に終わらせないのではないかとすら思える。「今日で終わりです」と他の患者が言われているのを見たことがないからだ。
 根管治療だけで一年と四ヶ月になる。
 その治療のあいだに以前被せていた歯がとれたりして、新しい歯をつくってもらっている。今、仮歯の段階だが、本歯が出来てそれを入れてもらってそれでも未だ次の予約をとらせるようなら、その日帰宅後すぐに懇意だった歯科にセカンドオピニオンの予約の電話を入れようと思う。
 久しぶりに帰った実家だったが、弟の正男は風邪で具合わるそうで、先日、代わりに溝掃除に出てくれないかと打診した折も、お前らのような半端者のために大事な休みを返上など出来るか、といったような邪魔臭そうな顔で、「わるいけど、あかんわ」と言ったし、今日も風呂にもはいらず、たまに咳をして二室離れたうえに間に押し入れのスペースまであるおれの自室にまで、何かに怒っている寝言が聞こえてきた。
 正男が実質、室井家ではながらく大黒柱でありつづけたので、その正男がぶっきらぼうだと母もぴりぴりしている。
 やはり四十すぎの男が独身のまま同じ屋根の下だと雰囲気が息づまる。
 もう、そう頻繁にここへ帰ってくるつもりもない。
 女が居ないのは不便なものだ。そして不憫なものだ。
 テレパシーを使ったライブチャットをしたが一人もオルガズムまで往ってくれなかったので、昼の十二時にまでなった。
 そして、そんな風に草臥れているときにも、自分でコーヒーを淹れなければならないことに腹が立つ。
 大体、男というものは自分でコーヒーを淹れるものではない。未成年のうちは母親が淹れ、結婚すると女房が淹れる。会社へ行ってもお茶汲みの女が淹れてくれる。
 佳い歳をして独り身なのが情けない。
 今度、ばんこちゃんをお茶に誘おうと思う。
 もう無職ではないからだ。

 歯科がよいは、もう一年四ヶ月もつづいている。
 元々が根管の膿が鼻腔にまで溜まってしまって頬が腫れてしまった酷い状態だったので、しかも膿を手術で抜きとる方法ではなく抗生物質で化膿を鎮めてその後歯茎から炭酸ガスレーザーを当てる方法をとっているので時間がかかる。それでもかかりすぎだと思う。
 元々の惚れた奥さんが受付をしている歯科に変えようと思っている。
 まえまえからだが屁がマトモに出ない。無理に出そうとすると大きな音がするか便が出てしまうかだ。痔になっているのかもしれない。糞づまりのような感覚が常にあるから頭痛も誘発するのかもしれない。
 久しぶりに泊まった実家では、深夜に自室のすぐ裏の外で何かがごそごそと蠢いていた。変質者が敷地内にはいりこんだのか不気味に思って北の障子を開けて確かめようとしたが立てつけがわるくて開かない。本棚に障子は隠れているので、どう立てつけが悪いのかさえ分からなかった。
 マンションでの暮らしは快適だった。
 毎日ルーティンだ。
 ただゴミが溜まっていくので、厄介だった。
 自炊するときもあるが、インスタント食品や総菜で済ますこともある。その容器やらが溜まっていく。
「俺ら、何も気にせえへん」
 と今泉さんが、自身はゴミをコンビニのゴミ箱に勝手に入れてくるという話を、先日、三十三年図書館の喫煙コーナーでしていたのを思いだす。
 おれもモラルに対して、少し横柄になれればよいのだが。
 六月になろうとしていた。
 天気は相変わらず晴れていてもすこし空中に不純物があるのかすこし暗かった。おれが実家にしろマンションでにしろ気が塞いでカーテンや雨戸を閉めきっていると、その暗さはいっそう顕著だった。
 三十三年図書館はこのところ十二日間の休みである。
 今泉さんや三田くんに会う機会がなかった。
 先回会ったとき、三田くんは仕出し屋のアルバイトを辞めたと話していた。鬱病の状態がよくないらしい。
 近隣の市の他の図書館へ行くか友藤の店へ行くかぐらいしかなかった。外食屋へはいることも出来るのだが、混んでる店へ孤りでは症状のこともあるしはいりづらかった。
 新人賞を受賞した出版社から、月に二本のエッセイを頼まれている。
 小説の方は、佳いのが書けたら読むと担当編集者が言うので、エッセイとは別に、「書き下ろし」という形で進行させている。前回添付メールで送った作品は没になった。
 編集者は、「もっと生活に肉迫したものを」と言うだけで、何が没の原因かは教えてくれなかった。
 書きものでは、あまり景気がいいとは言えない。

 ばんこちゃんはおれから距離を置いていた。
 スーパー中嶋のサービスカウンターに煙草をワンカートン買いにいっても、相変わらず自分が応対しなくて済むようにタイミングを計って他の女子職員を前面に来させていた。
 篠沢鈴子。それがばんこちゃんの名前だ。
 おれはセブンスター・ワンカートンを買い物袋に詰めてからカウンターを右に行き、奥の外側の端から言った。
「篠沢さん、今度お茶でも飲みに行きませんか」
 ばんこちゃんは顔を上げておれの顔を見て、「エエ?」と言ったが、その後かたまってしまった。
 おれは自身の顔の火照りを非常に気にしながらも、すぐ、つぅーっと店を出た。
 多分、他の同僚が囲んで今頃ひやかしているだろう。それと共に、職にも就いてないような男の相手をするべきではない、と後輩に諫められているかもしれない。
 車に乗ってすぐ大きく息を吐いた。
 これで、やるべき事はやったのだ。
 スーパー中嶋では母のカードを今までよく使っていたし、おれの苗字が室井であることは知っているだろう。
 電話帳で引けば、中江市には「室井」は一軒しかない。おれが室井純一か、その名が父親の名だろうくらいの推測はするだろう。しかも、「室井純一」でネット検索をかければ確実におれのブログに辿りつく。
 そこにはメールフォームもある。
 連絡は簡単につけられる。
 今までだって彼女の方から連絡してこようと思えば出来たのである。だが、好意を持ってくれているかはっきりしない、しかも対お客さんとして事務的なことしか話したことがないのに、そこまでのアプローチは気が退けたのかも知れない。
 しかも客から店員へなら常識的だが、店員から客への個人的な電話やメールは常識的でないとも云える。

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