So-net無料ブログ作成
検索選択

2017/08/04、つれづれ。 [近況…]

 新宅の弟の車が故障。


 代車が都合つかない、ということだった。


 そこで、僕と母の兼用の車を貸すことになった。


 修理期間は、一週間ほどらしい。


 作業所通所、バイクで行くか。


 来週、月曜と火曜は天気がわるいみたいだ。


 送迎に来てもらうかな。


 それとも、休むかな。


 送迎に迎えに来てもらっても、また朝寝坊していたらどうなるのだろうか。


 水木は降らないようだ。


 食事会は、木曜日。



 そして、お盆です。


 お疲れ様でした。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

『あいつのおかげで』ーーー8 [自作原稿抜粋]

────────────────
 山雨乃兎 近著

 『あいつのおかげで』8
────────────────

 休みは木曜日だった。おれたち四人は喫茶店で会った。

「古川は亡くなったけど、ラーメン屋台は当初の計画どおり、やろうと思う」

 最初に今泉さんが言った。

「車はどうなっとんのやろ。おれ、古川に預けたままや。別に急がへんけど」

 と、久米島さんが誰にということなく漠然と呟く。

「ああ、それは大丈夫や。おれが古川の母親に訊いて改造マニアの奴のとこ行ってきた。

予定どおり進んどる。ただ、古川の軽ワゴンの分を古川には請求でけんなってもたけど

な」

「その軽を買いとらなしゃあないですね」

 と、おれが挟んだ。

「まあ、そういう事や。資本金からでも、どうにでもなるわ」と、今泉さん。

「山下君、しんどそうやけど大丈夫か」

 おれは横に座った山下に言った。

 背中をまるめて目がすわってしまって呼吸の音もさせない。

「ワイのう、仕事でくたくたなんや」

 弱い息で山下はおれに答えた。

 今泉さんがケントを一本轡えながら、

「縫製工場て、そないエラいんか」

 とおれに訊く。

 今泉さんは山下とも個別に連絡をとったのだろう。話しの流れからすると、山下はまた

別の縫製工場に入社したようだ。

「今泉さん、そらエラいですわ。裁断まえの生地は大きいて一人では扱いにくいし、せや

から肩凝るし、製品運ぶのも大変ですよ。服にしろ何にしろ嵩が有りますから部門によっ

ては格闘ですわ。その上、生地の埃が痒かったり段ボールが痒かったりするから…」

「ああ、ワイも今、かゆうてたまらん」

 と、山下君が応える。

「佐伯、よう知っとんの。お前、経験者こ。食堂の厨房とどっちがエラい?」

 久米島さんがそう訊く。

「食堂もえらいけど、縫製工場なんか一日中おんなじ事ばっかりやるから根が疲れます

わ。そういう意味で社交的な仕事ほど楽でそういう店員とか営業とか性に合わんいう奴

ほどしんどい思いしますね。世の中、そうなっとるね」

「山下、今日は決める話し合いでもないから、しんどかったら帰ってええぞ」

 と、今泉さんが促す。

「ああ、今日は帰りィ。それと、その仕事辞め、悪いことは言わんから」

 とおれは付け足した。

「辞め言われても、ワイ喰うていかれへんがい」と、山下君。

「おれも辞めた方がええと思うわ。今の君見とったら悲惨やもん。今金がのうても餓死す

るほどではないねやろ? 身体の方が大事やど。ラーメンがどないなるかは判らんけど、

一生する仕事ではないわ。身体めんでまうぞ」

 と、久米島さんもおれの言葉に補足した。

 山下君はふらふらの足どりで帰っていった。

「そこの社長が、『すぐには辞めさせへん』とか言うてきたらおれに電話くれ。おれが話し

つけたるから」

 と、今泉さんが山下に、帰りがけに言った。

 三人は一旦、顔を見合わせた。

「今泉さん、久米島さん、今日泊まっていってないか」

「おれはどっちでもええけど、何か意味あんの」

 と、今泉さん。

「否、おれ、ビール頼みたいから、自分だけやったら悪い思て」

「そういう事こ」と、今泉さん。

「ええけど、ここに車置いといてええのかの」

 と、久米島さん。

「カルチャーセンターの西の駐車場に停めたったらええわ」

「よし、ホナ、車まわしてこ。久米島さんのも回しとこか」

「そうか、頼めるか」

 と久米島さんは言って今泉さんにキーを渡した。

 おれはビールの中ジョッキを三杯註文した。

「ラーメン屋行っきょんねんて?」

「はい」

「どんな感触どい。洋食屋と全然ちゃうこ?」

 そう言ってから久米島さんは震える右手で洋モクに火を点ける。

「タイムスケジュールを考える事がないですね。一品目とビールだけですから。モカタウン

(昔、久米島さんと一緒に仕事をした洋食屋)やったら、何かを創りながら別の何かを創る

という感じで四重五重に同時進行でしょ。それも飲みモンが先かとかで全部タイミングを

変えなアカン。アレがないんですわ。いくら混んできてもてんてこ舞いしても、ラーメン創っ

てビールの栓抜くだけ」

「そうか、地獄やったもんの、モカタウン。また、メニューが多かったもんのー。今思い出し

たらようあんなややこしい事しとったもんや」

「よう怒られましたわ。マスターにも、久米島さんにも…」

「オーブンに火ィ入れんと十五分待っとったり、グラタンやのにドリア創ってもたりのー」

「あれだけは忘れられませんわ。若いアルバイトがクラッシュ創りよって手首刺してもう

て…」

「おう、あの日はメタメタやったな。氷のバケット、血だらけ。救急車呼んでよ。何ちゅう奴

やったかいのー」

「丸山です」

「そうそう、丸山」

 ビールが運ばれてきた。

 久米島さんも、今泉さんが来るまで待つつもりのようだ。

 おれは、三分の一残ったコップの水を飲んでセブンスターを一息喫った。

「マスターどうしとってでしょう」

「あの店は未だやっとんで。昔ほど流行ってへんけど」

「あの店が特に、という訳ではないでしょう」

「そやの、アカンの。最近どっこもアカンわ」

 窓からは噴水が見える。水は出ていない。空の明度がかなり落ちてきた。

「何で、あの時分は、皆喫茶店、行ったんでしょうか。おれも独りでもサテンはいってボーッ

としてましたし、それが面ろかったんです。何でか判らんけど」

「ニューミュージックいうのが流行って、安全地帯みたいなんが流行って、バイクブームが

あって、その前にディスコブームか。それからフュージョンとかジャズのブームになったな」

「本條が店で叩いたのも、その時分」

「そうそう、その後お前がモカタウンに来たんやがい。勤めさして下さい言うて。……本條

とは腐れ縁や言うてヨッたの」

「おれも、あんなとこで本條に会うとは思てませんでした」

「嘘みたいやのお。後から考えたらバブルの時期やった訳やけど、おれら、別に時給が高

かった訳でもないし、せやけど面ろかった」

「エリちゃん、どないしてるでしょう」

「あれは細川と結婚して、今九州やがい」

「モテる男、細川さんか。保険外交員であれだけ二枚目やったらね」

「本條も必ず女がおったど。アイツ七年も上の女に熱入れて。そいで失恋してドラムもが

たがたになっとったがい」

「繊細やからね、本條は」

「本條か……」

 引き戸についたカウベルが鳴って今泉さんが戻ってきた。

 乾杯した。

「しんみりしとってやなァ。昔話しか」

 と、今泉さん。

「ああ、僕と久米島さんは昔、洋食屋で一緒やったんで、思い出話しですよ」

「いやぁ、それで本條のこと思い出してしもてね」と、久米島さん。

「そうやなァ。変わった奴やったなぁ。正義感の塊みたいで、切れ易うて。そいでも意外に

気が細うて、気にしいで」

 今泉さんは空中を見ながら言った。

「そんな、怒りっぽかったですか」とおれ。

「そう、一寸他人にからかわれた云うてはボヤいたり、相手に直接もの凄い勢いで怒った

りなァ…」

「僕らの知ってる本條とは違うなァ…」とおれ。

「まあ考えてみたら、おれらと付き合いよる頃は、本條、小説も書いてなかったし、第一、

健康で働けとったやろ。仕事できんなったら誰でも内向的、なって、爆発しやすうなるんと

ちゃうか」

 と、久米島さんが憶測を語る。

「僕らの知っとったんは、ドラマーでスタンドマン(ガソリンスタンド従業員)の本條いう事

か」

 とおれ。

「おれの出会とった頃は、とてもやないけど仕事できるような快活さはなかったで…。神経

症が酷うて、毎日毎日、夜中に小説書いて、昼は図書館でボーッとしとる。酒も毎日夕方

に飲みよったし、死ぬ前の時期は大分飲んどったんちゃうか。……おい、そらそうとお替

わり頼もか。それと何か摘もう」

 今泉さんがそう言った。

 おれたちは小サイズのステーキと枝豆を頼んでビールを飲んだ。

 BGMがかかっていない。客がおれたちだけなのでマスターはうっかりしている自分に気

づかないのかも知れない。

 遠い声として若者のフォークギターを掻き鳴らす声が聴こえている。網戸にした窓から。

鼻にかかった甘えるような声で、フォルテのところに来るとがなり立てる。本條やおれたち

がやった曲とはまるで違っている。

「そういえば、内藤首相、今日辞めたな」

 今泉さんが言った。

 おれは朝から今までテレビをまったく見てなかったので、何のことか判らず今泉さんに訊

いた。数々の閣僚の不祥事が打撃になって突然辞意を表明したらしい。退き際を間違う

と精神的に追いつめられて急遽辞めるというようなことになる。内藤首相の辞め方はお

れの会社の辞め方みたいだ。誰でも人間ということか。

 来週、改造できた車二台を古川の知り合いのカーマニアの家まで全員でとりに行くと決

まった。

「佐伯、山下から目ェ離すなよ」

 今泉さんが言った。

「アイツ使えんのかなァ」

 と、久米島さんが呟く。

「もう古川が死んで四人になってもたから、二人二人のチームでやるしかない。心配せん

でも山下と久米島さんは組ませへんわ。久米島さん身体悪いのに、あの山下と組んだら

ニッチモサッチモいかんやろ。……それと、佐伯、一遍山下に何か驕ったってくれ。このま

まではアイツ気ィ塞いでもて碌なことにならん。おれらが驕ったってもええねんけど、歳が

一緒の佐伯の方がアイツも肩の力、抜けるやろ」

 おれたちはタクシーを呼んでおれの家まで動いた。

 久米島さんが目聡く原稿を見つけ訊いてくる。

「ああ、それ、本條の小説」

「そうこ、預かっとんのこ」

 と言いながら久米島さんは四、五秒に一枚原稿を捲ってゆく。

 久米島さんは少しにやけた。

「これが、主人公が佐伯のことやったら、ええ事あんがい。佐伯。女の従業員も居っての

こ」

 おれはおもむろに原稿を久米島さんの手からとった。

 原稿はまた加筆されていた。

 主人公は同年代の女の従業員と関係を持つ。仕事上がりにタイムカードを捺している

女に後ろから抱きつく。店長が二階に居ることをはばかって大仰に騒ぎたくないと思った

女は声を殺して出さない。殆ど無言のまま、車を出す。車を運転しようとしていた女を引き

ずり出し自分が運転席に座って車を出す。車を獲られるのではいかと咄嗟に思った女は

助手席に乗る。深夜のモーテルに車を入れた主人公に女は結局躯を開く。

(なんだ、これは。おれに限ってそんなことをする訳がない。天国の本條も悪ふざけが過

ぎるな)

 何の話しや、と今泉さんがおれと久米島さんに寄ってくる。

 何でもないです、と言ったものの肝腎の原稿を今泉さんにとられた。

「佐伯、これ先へ進んどんの。お前が書き足したん?」

「否、書いてません。変なんですよ。本條の原稿」

「超常現象やなァ」と深く考え込むように目を伏せて今泉さんは言ってから、「ハハハ、佐

伯、この話しはどうでもええけど、お前、再婚せんかい」

「おれもそない思うわ。大の男が独りでおんのはええことないぞ。誰でもええから身固めて

しまわんかい。適当な相手おらへんのこ?」

 と、久米島さん。

「やめてよ、久米島さんまで。もう独りで居ろか思いよんのに。第一、今から子ゥつくる思

ただけでうんざりする」

「子ゥ要らんねやったら創らへんたらええねん。それだけや。……第一、六十ぐらいなった

とき独りやったら淋しいぞ。それ半端やない。六十なんか、もう直やで」

 と、今泉さん。

「それに、今から子ゥ創ってもギリギリ何とかなる歳やな。俺らの長男の父兄会でも今赤ち

ゃんの末っ子のおる家も有るでェ」

 おれは照れ隠しに煙草を一本くわえた。

「自分のことは自分でできるし、料理、洗濯、掃除も。……何を今さら結婚なんかーー」

「今はそう考えとるやろ。当然やな。せやけどホンマに自分が淋しいなって女つくろぅ思た

頃には、もう女でけぇへんなってもとるでェ。それは言うとったるわ。六十すぎた人間が女

ひっかけよう思ても誰も相手せん。まあ、自分が男やからちょっと益しやけど、本人が女

でそないなってもたら仕舞いやなァ。寡婦の老人なんか見てみい、憐れなモンやで」

 と、今泉さん。

 おれはオイルライターのぎざぎざの円をまわして焔を吸いこむ。

「抑えられるときに抑えてしもとけ言うことやなァ。たとえ、ちょっと遅れても女握ってもとく

こっちゃ。一緒に歳いってもたら相手も逃げられへんねやから。それにのぉ佐伯、母親が

死んだとき悲惨やど。お前の場合はもう片親しか生きてない。その最後の身内が死んだ

とき既に嫁はん居るから誰ーれも乗り越えらんねん。兄弟が居っても兄弟はライバルにし

か成らんど。そいで金があって健康でも辛いぞ。独りになってまうぞ」

 久米島さんが一気に言った。

 次の朝、おれたちは食パンとコーヒーで朝食を済ませた。

 家のまえで歩いて車まで戻る久米島さんと今泉さんをおれは見送った。

 二人ともこれくらいで一旦帰らない訳には行かないと言っていた。

 十時をまわっていたので歩いてパチンコ屋に行った。千円が十分でなくなっておれは馬

鹿らしくなって店を出た。不確実な賭を時間を食い潰してやって何の意味があるというの

だろう。

 本條には目標があったのか。歩きながらおれはふと、そんなことを考えた。おれには今

や、何かに成りたいという夢はない。何をしながらでも面白おかしく暮らしてゆければそれ

でいいのだ。抱きたいときに金で買ってでもいいから女を抱き、仕事を適当にやって酒を

飲めていれればいいのだ。しかしおれの心のなかでは、それだけでは虚しい、剰りにも建

設的でなさ過ぎるという反問がときどき浮かびあがるのだった。

 旧駅まえ通りまで来て喫茶店に入り、ケイタイから裕美に電話した。

 遠い世界の人間と話しているように裕美の声は遠く聞こえた。お互いに元気だと言いあ

って、また梅田駅ででも会おうとおれが言って、裕美がええけど、と言って。何もおれたち

の関係にアクシデントはなく話しは合うのだけれど、もうおれには彼女に対する情熱はひ

とかけらも残っていないのだと自らの声を聞きながら思った。裕美の方もおれに特別に会

いたいという声の抑揚がまったくなくなっているようにおれには思えた。

「それじゃあ、また」

 と云っておれはケイタイを切った。

 嗚呼、おれはこの数十年、何をしてきたのだろう。四十四歳にもなるのに、専門学校を

卒業した直後と比べて成長したと言えるだろうか。何かに成ろうとして悉く夢は破れ、何

かになろうともしなくなって適当に仕事をしている。職を転々と変えながら虚しさを紛らす

為に酒を飲んで女を抱いている。離婚した上に子供も居ない。これではおれは昔と全然

立ち位置が変わっていないじゃないか。その日暮らしで仕事が有ったら日当を貰う二個四

と同じだ。

 歩いていって家電量販店にはいった。パソコンのブースに行った。ノート型が目に留まっ

た。

 本條の原稿の書き直しのために、否、未来のおれのためにこのノート型を買おう、と自

身に向けて思った。

 値札を見ると十八万円だった。

 畜生、今のおれには先行投資もできないのか。

 クレジットカードは一度パンクさせてしまった。今のように職を変わってばかりいる状態

では新しくカードを創ることもできない。

 昼はとっくに過ぎていたがおれは中江市で昔から評判のラーメン屋にはいった。

 食いながら思った。

 そういえば最近ニュース番組のコマーシャル・ドキュメントでこの辺りのラーメン店を採り

あげていた。播州地方は機織り工場に勤める女工たちで溢れていた。その女たちの口に

合うようにと、スープを甘くしたと聞いた。

 考えてみれば可笑しなもんだ。醤油ラーメンが甘かったらお菓子を食っているようなもの

なのに。否、それで食後、口なおしをしなくても済むというのはどういう訳だろう。スープに

砂糖がはいっていると聞いたこともある。

 水を飲んで店を出た。

 川沿いに母校の中学の辺りまで来た。中学を掠めて西に少し歩くとバッティングセンタ

ーができていた。

 洋文字ばかりで日本語ではバッティングセンターとは書いてない。しかもアルファベット

でもバッティングセンターとは書いてない看板なのだが、EXCITE!とかのロゴがあって看

板の上はネットになっているのでバッティングセンターだろう。路地をはいって入り口の上

の看板に野球選手がヒットを打った瞬間の全身像の絵があったのでほっとした。

 一セット三百円。三セット分からチケットは売っていた。

 おれは割安料金の十セット・チケットを二千円で買った。

 要はプリペイドカードだった。

 百五十キロのスピードのブースにはいった。

 おれは無心にバットを振った。

 時にチップになり、時にファウルになった。

 二十球が終わり、もう一度カードを食わせてバッティングをつづけた。

 ライト方向に流れるヒットがつづいた。おれは足を踏んばりなおして脇を閉めやや斜め

上からミートにタイミングを合わせた。

 打球はレフトへライナーで飛び網に刺さった。

 おれは軟球を叩きつづけた。

 それで何が変わる訳でもなかった。

 タクシーを呼んだ。家まで歩いて帰る胆力が残っていなかった。

 自室のベッドに横たえると寝入ってしまった。

 綿ズボンに穿きかえポロシャツを替えて店まで歩いた。

 客は少なかった。

 煙草は仕事中喫ってもいいのかおれは須藤さんに訊いた。全く客が居ないとき且つ仕

事の手を止めない範囲ならいいと、須藤さんは言った。厨房の奥のL字に隠れるところに

須藤さんは二十リットルの上面が開いたペール缶を持ってきて、「換気扇の下で喫って、

これに水張っといてほかせ。後は毎日、喫い殻を処理して缶を洗え」と言った。本人はと

いうと客が居ても煙草を轡えている。火を切る時は厨房の一郭のセメント塗装がない土

間の部分に落として靴底で踏んでいる。

 ハツ子さんは客が居ないとテレビを観ている。今日も一昨日も一時間に四人ほどの客

だ。こんなで二人のバイト料が払えるのだろうか。出前に出ることもないな。少なくともお

れが働きだしてから須藤さんかハツ子さんがオカモチを持って出たことはない。

 そんなことを考えているとカウンターの端の黒電話が鳴った。

 ハツ子さんは応対を了えて受話器を置くと、

「社長とこ、いつもの。特盛り二つ」

 とカウンター越しに須藤さんに言った。

「あいよ」

 と須藤さんが応え、おれが粉のついた麺を三人分、大鍋に入れる。ここのところ、おれ

が麺を茹でて須藤さんが醤油を鉢に入れてスープを入れ、そこにおれが茹であがった麺

を入れ、須藤さんがトッピングするという形になっていた。特盛りはスタンダードの一・五

倍の麺。だから特盛り二人前だと三人分の麺を茹でて平笊で麺をほぐしながら目分量で

等分にとり分ける。おれは大昔の平笊の感覚が蘇ってきて調子よかった。「お前、経験者

やな」と、一昨日も須藤さんに褒められた。右手を@マークの外縁を描くように空中で斜

めに左回転させる。フライパンで炒飯をひっくり返すのに似ている。麺の落下を利用して

麺をほぐし一個の玉にする。ザルであんころ餅を作っているような感覚だ。

 もう一寸で頃合いだと思っていたら須藤さんが、「もうええから揚げて」と言ってきた。あ

と一分ほど茹でないと不充分なのに何を可笑しなことを言うのだろうとおれは内心思った

がここで反論してもそのやりとりだけで余計茹で時間的にややこしいことになると思ったお

れは言われるままにした。

 ラーメンが出来上がると、オカモチに割り箸と鉢を入れ、「ちょっくら行ってくる」と言って

須藤さんは店の玄関から出ていった。

「出前ないんか思てました」

「有るには有るけど、一軒だけやで。店長の友達なんや」

「どこですか」

「スコラホテルの向かいのビルのテナントの会社。そこの社長」

「自転車ですか」

「否、歩いて」

「歩いてって、歩いたら片道十分はかかるでしょ」

「それどころか、今から一時間ほど帰ってきィひんわ」

 おれは何をしていればいいのか分からなかった。ラーメンを創る稽古がしたいが麺もス

ープも商品だ。それに、もし今、急に客がはいってきたらどう対処すればいいのだろう。ハ

ツ子さんも創るほうはやらないし。

 とりあえずおれは雑巾で窓の桟を拭いた。

「こんなに暇で大丈夫なんか、とか思てるでしょ」

 テーブル席に座ってテレビを見ながらおれの方は見ずにハツ子さんは言う。

「ああ、ホンマ、それは思います」

「店長、道楽でやっとるから、退職金と持ち家売った金で、ちょっとずつ、それを崩しながら

やっとるのよ。厚生年金も二十万ほど月々はいりよるしね」

「須藤さん、大きな会社、行ってはったんですか」

「西都重工よ」

「へえ、そうですか」

 西都重工といえば二部上場の一流機械メーカーだ。

「退職して神戸からこっちの実家に引き揚げてきたのが一昨年。親も亡くなって兄弟も居

ないから実家を売った訳」

「奥さんは」

「勤め人のときに亡くなってる。五年まえ」

「へーえ」

「それでも、この店もいつ、急に辞めるって言うか分からへんよ。毎月赤字では、やる気も

なくなるやろしね」

 中江市は灯の消えたような町だ。店の外にも飲み屋街を練り歩くサラリーマンの喧噪さ

え聞こえない。

「ハツ子さんは結婚しないんですか」

「えー、何で私の話しになる訳。……私はもうお婆ちゃんよ」

「卯年?」

「いーや、私は寅」

 巧くひっかかったな。

「四十五ですか。僕と一つ違いですね」

「違うわよ、私」

 顔を赤らめて狼狽しているのかおれと目を合わせないでエプロンの一枚下のズボンの

ポケットから煙草とライターをとり出す。手が少し震えている。

「四十五でなかったら五十七?」

「いや違う」

「そんなら三十三ですか。ハツ子ちゃん」

「もう……」

 ハツ子さんのケイタイが鳴って、彼女は何回か相槌を打って切った。

「もう今日は閉めてだって。社長と飲みに行くんだって」

 ハツ子さんは暖簾を収い椅子をテーブルに逆さに上げていった。

 おれはゴミ袋を括って勝手口ちかくに置き、新しいゴミ袋をセットし、コンロの火を切っ

た。

「元栓も閉めといて、ガス」

「了解」

 控え室のまえのタイムレコーダーのまえでハツ子さんはエプロンを外し、立ったままそ

れを折り畳んでいた。おれもエプロンを外してタイムカードを捺そうと彼女の後ろに立った

とき、ハツ子さんの髪から甘い匂いがした。そのときおれは既視感のようなものに囚われ

喉元が熱くなった。おれとおれからは離れていたおれが急激に合流した。おれは彼女に

組みついた。後ろから抱きつき両胸を揉んだ。

 ハツ子さんは騒がなかった。

 唇を離した後、気まずい沈黙があり、おれはタイムカードを捺して彼女につづいて外に

出た。彼女が電波で施錠を外してドアに手をかけた処をおれは彼女を押しのけて運転席

に座り、エンジンのスタートボタンを押した。

 彼女はすぐ助手席のドアから乗ってきた。もしも同乗しないならこの車は一旦エンジンを

切った時点で再始動不可能になる。ハツ子さんには選択の余地は有ったのだ。

 おれたちは隣の市のモーテルで睦みあった。

 カッコウの啼く山麓の部屋で朝を迎えた。

にほんブログ村 小説ブログへ

nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート