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もう、ひとふんばり。 [ラフに語る、つれづれ記]

 今日は、休みでした。


 書けない、書けない、と言いながら、ホントに書いてない。


 時間がない。暇をつくろうか、と思いながら今日に至る。


 もう、どっちにしても盆休みですね。



 ああ、なんかこう、スカッとしたいですね。


 アイスクリームかスイカが食べたいですね。


 刺身を食べながら、飲みたいですね。もう、明日仕事なので今日はもう飲めません。


 もう二年ぐらいセックスしていません。


 スカッとしませんね。


 昨夜は、家計簿をつけていました。(司法書士に渡すため)


 昨夜は、原稿を数行だけ書きました。


 今日は、昼夜逆転で寝ていました。


 寝るときは、ズボンもステテコも穿かずに寝ています。


 パンツとシャツに腹巻きだけです。


 下半身がヒートしているのです。(笑)



 さて、明日も醤油倉です。


 おやすみなさい。

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『あいつのおかげで』ーーー6 [自作原稿抜粋]

 山下が一番、精神的に弱い男だ。彼なら自殺することもあるかも知れない。だが奴とは今電

話で話したばかりだし、第一、馘になっても面接を受けつづけるほど人生に前向きだ。

 おれは非常識を承知で古川のケイタイへつないでみた。

 留守番センターへは替わらずに呼び出し音が聞こえつづけた。十八回目に古川が出た。

〈何や、こんな早うから。佐伯〉

 ケイタイに起こされたようで、古川の声は機嫌の悪さを含んで金属的だった。

「いや、一寸、気になること、有ってな」

〈何が気になんの?〉

 五時四十分だ。

 おれはそのままを問いにした。

「落ち込んでないか。元気か」

〈何を、どう、落ち込むの?〉

「否、せやったらそいでエエ」

〈何や、それ。朝から変な電話してくんな、もう〉

「済まん済まん。……車は順調やな?」

〈ああ、車はもうじき出来る。ホナな!ーー〉

 急に切れた。

 怒らない方が変だろう。しかし、今のやりとりでは古川が本当に精神的に落ち込んでいないか

どうかは見抜けない。

 五人の内の一人が自殺以外、例えば事故で死ぬのかも知れない。だが、そうなるとこちらに

は兆候は掴みようがない。久米島さんか今泉さんか。ひょっとしておれか。

 おれはもう一度、本條の原稿を確認する。

 ラーメン屋にアルバイトに行っている主人公のケイタイに訃報が届く。最悪の場合、おれ以外

のメンバーの内のひとりが、同じように、しかも匿かにラーメン屋のバイトに行っているとなる

と、訃報の主はおれであってもおかしくない。

 すっかり二度寝どころではなくなってしまったおれは、ポロシャツとジーパンに着替え、財布を

ジーパンのポケットに押し込んで散歩に出た。

 外はもう明るかった。

 車は殆ど走っていない、空気は冷たくも温かくもなかったがむわっとしていた。この駅前の市

街地も大分区画整備されて、路は太くなった。

 少し歩くとスコラホテルが見えてきた。中江市のなかでおそらく一番の高層建築物だろう。八

階建ての直方体は聳えるという趣きで視界に立ちはだかり、このあたりだけは都会に居るよう

に錯覚させる。

 大むかしはこのスコラホテルのすぐ東の位置に地元商商業ビルが有ったのである。一階が食

品スーパーで二階が地元商店が出店したテナントで、三階が大衆食堂とゲームセンターだっ

た。

 そのビルも今は跡形もない。

 その件のビルの三階の食堂で、おれはラーメンを茹でていた。もう三十年くらい昔のことだ。

 ホテルの玄関に位置した停留所に黄色いバスがはいってきて乗降口を開き、アイドリング音

を響かせた。

 半外の待合所の隣のスペースのベンチに数人が座っているが、バスに乗ろうとはしない。発

車まで間があるのだろう。

 青いキルティングのスポーツジャケットを着た学生らしき男二人と、八十代ぐらいに見える腰

の曲がった老婆と、贅肉を適度につけたよく陽に灼けたワイシャツを着て腕に上衣を持った中

年の男は、長いベンチから動かなかった。

 運転手が降りてきてそのベンチ前で立ったまま煙草を喫っている。エンジンは掛かったまま

だ。

 おれはその横を通り、ホテル・ビルの外周をまわってから旧商店街の方へメインストリートを歩

いた。

 途中、何人かの散歩する老人とすれ違った。

「おい、佐伯」

 グレーのRV車が真横に停まって声をかけられた。今泉さんだった。

「えらい早いやないですか」

「そっちこそ、こんな朝っぱらから散歩こ」

 石の古い橋の下には清流が流れている。染工場の廃水も少なくなったから。キキキキキキと

蜩の声も聞こえる。

「一寸、訳有りで朝帰りや」

 浮気相手とホテルにでも泊まった帰りなのかも知れない。おれは咄嗟にそう想像したが今泉

さんには尋ねなかった。

「乗れや。モーニングでも食いに行こう」

 排気量の大きいエンジンのアイドリングノイズが石橋に響いている。

 こんな早くから開けている喫茶店などあるものかと思いながらも、おれは助手席に乗った。

 車内は塵ひとつ落ちていない。ダッシュボードのウレタンラバーは黒く光っている。

「ひょっとして禁煙?」

 おれは気になったことを率直に口にする。

「ああ、嫁はんが嫌がるからな。喫うてもええで。その換わり喫い殻は外にほかしてくれるか」

「それやったら我慢しますわ」

「そうや、我慢も大事やな」

 今泉さんがフロントの摘みを押すと宗教放送が流れた。キリスト教の聖書講話はすぐに終わ

って天気予報になった。

「今日も暑いぞ」

 兵庫県南部は最高気温が三十四度になるという予報を受けて、今泉さんははしゃぐように言

った。

「本條の小説、どないや。書き直しは先でもええけど」

「アイツは力がありますね。そいでもデビューできん人、うようよ居るんでしょうね」

「そうか。ともかくパソコンのデータを早うなんとかせなな」

 今日、誰かが死ぬことが予見されていたという話しは出せなかった。今泉さんが信じる訳がな

い。

 新駅前通りのマクドナルドの駐車場へ入った。こういうことだったのか。

 ラジオで今井美樹の『微笑みのひと』が流れている間、おれたちは車のなかでそれぞれに一

本喫って、七時のNHKニュースが始まると車から出て足許で煙草を踏み消した。公衆道徳に

外れたことはしたくないのだが灰皿がない以上こうするより仕方ない。

 朝マックと呼ばれるメニューを註文して喫煙可の席で食った。

「佐伯、百万浮いとんねんけど、お前の裁量で増やしてみいひんこ」

 ライスのパテに挟まれたロースカツを頬ばりながら今泉さんが言う。

「増やせなかってもええんですか」とおれは言ってすぐに別の疑問が頭に浮いてきたのでつづけ

た。「今泉さん、それ、もしかして久米島さんから預かった金やないでしょうね」

 少し喉に詰まらせたロースカツを今泉さんは間をとってコーラで流し込む。

「お前は莫迦やないな」

「登記の書類、確認さしてくれいうて言われたらどうするんですか。久米島さんに」

「会社畳む時に元の金戻せたらそいでエエやろ。文句は出んやろ」

「……」

「おれの三百で登記はしとる。久米島の二百をおれら二人で割って、やれるだけやったらエエが

い。役得いうもんやがい」

 呆れた。この男は悪だ。

 お前の好きなように使え、と言って今泉はおれの胸許へ百万の束を突きだした。三つに分け

て投資するのが鉄則だ、百万位の金額ではあまり当て嵌めることではないかも知れないが損を

したときにその方が傷手が少ないし、三つの内の何かが倍や三倍になることもある、と今泉は

言う。金の増やし方がどうしても分からなかったらおれに電話してくれ、目星を着けた成長株が

ある、と今泉はさらに言った。

 おれは金をジーパンの前ポケットに詰めた。

「ラーメン屋はどう?」

 殆どのものを食い終わった今泉さんはマックシェイクを吸いこんでから訊く。

「本格的ですよ。鶏ガラのスープ作りました。昨日」

「ドクダミラーメンか、普通ドクダミと来りゃお茶やけどな」

「薬草ですよね。漢方薬にもなる」

 おれはコーラを吸って煙草をひと息喫った。

「変な名前やなァ、美味しそうやないな」

「せやけど一遍聞いたら忘れん名前ですわ」

「そやな」

 今泉さんのケイタイが鳴ってそれから彼は少しの間、相手と喋った。

 電話が終わると、

「悪いな佐伯、一寸急用。方向反対やから送って行けん」

 と言った。

 料金はおれが払うと譲らない今泉さんに精算してもらって店先で別れた。

 おれは実家の方向へ歩いた。

 道を急ぐ車で道路はごった返している。自転車が何台も路側帯と車の間隙を縫って走る。

人々のそれぞれの顔に焦りが表れている。目的を持った群衆。

 何とタイミングの悪いことか。通勤・通学ラッシュに新駅前の目抜き通りを歩かなくてはならな

いとは。

 ジーパンにポロシャツという格好はおれだけだ。おれはジーパンのポケットからはみ出た札束

を隠すために左手でそこを押さえて歩いた。

   *   *

 キリストは言う。我は世の光であると。我は人にとっての塩であると。茨の冠を被せられ、衆人

の前で十字架にかけられ私はついに息絶えるだろう。しかし、汝、恐れてはならない。全ては予

言の成就される為、嗚呼、私の死によって全ての人々の罪が贖われる為などと、私は生前言っ

ただろうか。神は、人の生贄を以てしか原罪を赦さないとでも言うのだろうか。私の復活の後、

私を拝む者が現れ、私は信仰の対象となった。が、それは私の望んだことではない。私は唯、

父の子で在っただけだ。それは今も同じである。父の教えを受け入れる者は皆、父の子なの

だ。

 神を離れて人は彷徨う。人は皆、自らの頭だけを頼みとして生きるようになった。もはや、この

地上に、真の信仰を見ることは適わなくなった。

 世は荒れ果てた。

 人を救おうと、手を差し延べている者も、盲人に過ぎない。

   *   *

 おれは十二月二十五日生まれだ。その事が何か重大な事と思って、学生時代には読めもし

ない聖書をなぞり読みした事もある。小学生の頃は世紀末預言ブームで、おれも本條も半ば『ノ

ストラダムスの預言』を信じていた。

 その時が来れば、救世主か世を救う団体が現れて地球の終末を救うという二つめの預言も

信じていた。だからこそおれたちの年代は宗教にのめり込んでいったのだった。

 救いから漏れてはいけない等と自身を強迫して。

 本條は六月六日生まれで、それが故にヨハネの黙示録から余計な疑念を自身のパーソナリ

ティーに持ってしまい、救われたいと願った。

 黙示録は幾ら世紀が換わっても、何度でも未来を予言している。しかし空疎なこじつけを持っ

て読むと、黙示録は恐ろしい。

 頭のいい男だった。

 結局、終末は来なかった。

 若い内から宗教にかぶれたおれたちの世代が、今の少子化を創り出したのかも知れない。

 おれはそんな事を考えながら自宅までの道のりを歩いた。

 八時半を過ぎると交通量が落ちた。

 それにしても大きな車が減った。道路を走っている車の六、七割が軽四自動車だ。

 ようやく旧駅まえ辺りまで戻り、さらに自宅へ向かった。ドクダミラーメンの前を通ると、二台分

しかない駐車スペースの一つに白いセルシオが停まっていた。

 部屋に戻るとおれは百万を机の抽斗に収った。

 冷房を入れるとベッドに身体を預けた。

 ふと気づくと薄茶の天井があった。時刻は四時をまわっていた。

 五時十分まえに店に行くと、既に三人の客が来ていた。

 須藤さんからエプロンをもらってかけた。

 昨日のスープ鍋にはもう火がはいっていた。

 麺茹でからトッピングまで須藤さんは説明しながら行った。

 今日は麺を茹でる方はおれがやるから醤油を入れてスープを入れて盛りつけまでお前やって

くれ、と須藤さんは言った。

 チャーシューはおれが載せる、と須藤さんはつけ加えた。

 六時を過ぎるとハツ子さんはてんてこ舞いになった。カウンターを含めて十五席は満杯にな

り、店の入り口をはいった所で立って待つ客も二、三人から五、六人になってきた。

「佐伯! 創るの、いいから運べ!」

 おれはカウンターに並んだ伝票を見てラーメンを盆に載せて運んだ。

「水、持ってきてよ」「おい、おれは特盛りやで」「おい! 何で、そっちの客が先なんだ」

 お客さんの不満の声も飛ぶ。

「すいません、こいつ、入ったばっかりなんで…」

 須藤さんがカウンターの奥から客に言い訳する。

 ハツ子さんはレジに運びにと忙しい。彼女はラーメン鉢を直接、手で運ぶ。親指を鉢の縁にか

け、三本の指で底の円を持つ。かなり速い動きだがスープは一滴も零さない。熱くないのだろう

か。

 おれは盆に載せて運ぶが、盆で運んでも一度に四鉢までしか運べない。それに、ステンレス

製の盆の上はつるつるしていて、鉢やコップが滑りそうになる。

 テレビが点いているが誰も注目していない。敬老の日を含んだ連休が到来すると、アナウン

サーが伝えている。

 それにしても中江市の旧駅前のこの店がこれだけ混むというのはどういう事なのだろう。これ

で普通なのだろうか。

 客は背広姿の男たちが殆どだった。

「餃子ないの?」

 三十代前半とみえるワイシャツ姿でネクタイを緩めた面長で肌が黄色くぶつぶつとニキビが

潰れたような凹みを顔中に持つサラリーマンが、大きめの通る声で厨房に言ったが、

「ウチは、ラーメンだけです。すいません」

 と、須藤さんにひとこと言われただけだった。

 次から次へと背広姿の男たちがはいってくるのだが、なるほど、ラーメンだけだと客も長居す

る理由がないので次から次から捌けてゆく。

「佐伯、一寸、なか来てくれ」

 須藤さんに呼ばれて厨房にはいると、

「この五鉢で一旦、休止。そこの水をスープ鍋に八分目、入れる。沸騰したら言え。おれ、二階、

休憩」

 正しい日本語になってないのだが、物事を的確に伝える言い方だった。

 ハツ子さんに運んでもらった。

 二人、三人と新しい客がはいってきた。

「すいません。今、スープ鍋、再加熱中です。ラーメンしばらく待ってもらいます。すいません」

 と、おれは客に言った。

「何分ほど待つの?」

「四十分くらいです。その間、ビールでも如何ですか」

「そうか、じゃ、おれビール」

「おれも」

 おれが大壜を用意していると、ハツ子さんが近寄ってきて、エプロンを外しながら、

「一寸、おつまみ買ってくるから、その間、頼むわね」

 と耳打ちし、裏戸から出ていった。

 小さな音で流れるテレビの棚の横の壁にかかった時計は十時五分を指していた。

 鍋が四十分で沸騰するとは何の根拠もなかった。多分、それ位だろうと思っただけだ。

 客に大壜ビールを二本、それぞれに出しコップも持っていった。

 ラーメンが六百円、大盛りラーメンが七百円、特盛りラーメンが八百円、大壜ビールが七百円

だ。ビールは大壜しかない。スタンダード・サイズのラーメンが六百円とは少し高めの設定値段

だ。

 客は手酌でビールを飲みはじめた。ハツ子さんが居ればお酌をしたりもするのだが、おれの

酌では色気もないだろう。

 おれは火の見えるカウンターのなかで煙草を喫った。客の手前、煙草を喫うのは不道徳なこ

とは重々承知している。思えば十代の頃のような、上司にへりくだる心が薄れてきたものだ。人

間も四十を越せばずうずうしくなる。三十五歳を過ぎた辺りから、職場の上司はおれと同い年

か年下になってきた。仕事を換わってばかりで平なのでそういうことになる。出世したいとか何

かに成りたいとか、おれには元々そういう欲がない。それでも人並みの生活は望んでいた。だ

がそれも、裕美と離婚しそのまま三十五を越した辺りからどうでもよくなった。おれには健康な

身体がある。働いてその日の飯が食えれば充分だ。立身出世も社会的成功も人並みの妻子あ

る家庭も、そんなものはおれの埒外にある。仕事を身勝手な辞め方をしても、尻をまくって他の

土地へ逃げればいい。犯罪をおかさない限り、この世は何をやってもいい処、どのようにも生き

られるのだ。

 そこまで考えたところでおれは煙草を棄てた。

 ーーーしまった。

 シンクに投げつけようとした喫い殻は最悪にも麺を茹でる鍋に入ってしまった。

 弱火で保温してあるぬるい湯の上部に浮いた煙草を慌てて箸で掴む。一回目は掴みそこね

た。

 ガラス戸を開けてハツ子さんが店にはいってくる。

「おーい、もう沸騰したか」

 と、二階から須藤さんが大きな声を挙げる。

「はーい、もう一寸です」

 と言ってから鍋を見ると、いつの間にやらぐらぐらと煮立っている。

 ハツ子さんはするめイカや乾き物を小皿に盛り合わせている。

「佐伯君、ビールもう一本」

 おれは返事どころではない。

 二回目も失敗したので横にあった平笊で喫い殻を掬った。

「佐伯君、ビール」

「わかった、わかった。今出すから…」

 喫い殻をシンクの生ゴミ受けに落としこんで平笊を水で洗って万事休す。

 ハツ子さんがカウンターを挟んだおれの前に立っておれの手許を覗き込んでいる。

「どしたの、それ」

「否、何でもない」

 おれは胸を撫でおろした。

 スープ鍋の方だったら申告しない訳にはいかなかっただろう。幸い煙草は根元まで喫ってい

たのでニコチンの流出も少ない筈だ。

「店長! スープ沸きました」

「ホーイ。茹で鍋の火力あげてくれる」

「はーい」

「今、降りるわ」

 おれは冷蔵庫から大壜を出してハツ子さんに渡した。

 彼女は、何か変ねとでも言いたげな表情で首を少し傾げながらビールを持っていった。

 強火を入れてから麺茹ででは忙しくなり結局それから二十人ほどの客を捌いた。

「今日は終わり。片づけと仕込みは明日、昼、おれやっとく。二人ともご苦労さん」

 須藤さんがそう言った頃にはもう十二時になっていた。

 ハツ子さんはエプロンを畳んで支度部屋に放り込むと電磁キーの電波を飛ばした。

 表に有ったセルシオのハザードが点滅した。

 夫の車なのだろうか。まさかハツ子さんがセルシオを運転するとは思わなかったので、おれは

面食らっていた。どこに住んでいるのかぐらい尋ねようと、仕事中内心おもっていたのだが言葉

が出なかった。

 ぼんやりと、離れていくテールランプを追ったナンバープレートの数字は、8933だった。

 支度部屋。カウンターの左手奥にあるその部屋は、実に殺風景だ。東の壁の上部に横に長

い採光窓がついている。窓は磨りガラスでおそらく昼間でもそんなに陽を採り込まないだろう。

その窓と直角の辺が長い長方形の四畳たたみ部屋だ。入ってすぐ右に茶箪笥があってその上

にタイムレコーダーが置いてある。それだけだ。

 おれもエプロンを畳んでハツ子さんのエプロンの上に置いた。ハツ子さんのエプロンは腰から

下の前掛けだが、おれのエプロンは胸まであって首と腰に紐がある。

 須藤さんは居ない。多分、二階に上がっているのだろう。おれは片づけとして何をしていいか

分からなかった。片づけはしなくてもいいという意味のことを須藤さんは言ったが、まさかこのま

ま帰る訳にもいかない。

 背を伸ばしてテレビを切って玄関に施錠し、窓の閉まってるのを確認してから電気を消し勝手

口から出た。

 徒歩で数分というのが有り難い。

 ギシギシギシと秋の虫が鳴いていた。

 スコラホテルを見上げると沢山の部屋に灯りがついていた。何か企業の研修でもあったのだ

ろう。しかし、こんな田舎町で研修とは…。

 ケイタイがジーンズのポケットで震動した。

 着信窓を見ると今泉さんだった。

 仄暗いなかで通話ボタンを押す。

「はい、佐伯です」

〈佐伯…、古川が死んだ〉

「えっもしもーーー」

〈古川が死んだ。自殺した〉

 ギシギシと鳴く虫の声が三重になっておれの耳の奥で騒ぐ。八階建てのスコラホテルの客室

の灯りがオレンジと白でX型のストライプを偶然にも創っている。その棟がおれの視界のなかで

聳え立ちながらぐらぐらと揺れる。

〈佐伯、聞いてる?〉

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