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新連載、『おれたちの仕事と長い夏』 [自作原稿抜粋]

「あ」でも「あ」。

 三田くんは、無職である。

 今泉さんも、無職である。

 古川くんも、無職である。

 山下くんも、無職である。

 法上くんも、無職である。

 大牟田くんも、無職である。

 おれの周りには、無職の人が多い。

 山下くんは、それでも仕事に就こうとしているし、現にあの事故で片足が曲がらなくなってしまうまでは、セルフガソリン

スタンドの仕事に行っていた。

 今泉さんと古川くんは、怠けているだけなのかもしれない。病気のない無職だ。しかし、何らかの事情があるのだろう。

「怠けたくて怠けている人なんて居ませんよ」と三田くんが言っていた。

 後の人は、皆、精神神経の病気を持っている。

 そして、かく言うおれ、室井純一も病気持ちの無職だ。

 三十三年図書館は、しばらく休みだ。

 本の整理期間らしい。

 となると、他の図書館にいくか、ウォーキングをするか、友藤の店へいくぐらいしか、いくところがない。

 夜、たまにスナックに行く。

 寺山の麓の我が家から、すこし下っていくと『宮殿』という店がある。

 ママさんは、おれの親と同じく七〇代で、おれより一つ二つ上の娘と店をやっている。他に、交替ではいる若い娘が二

人いる。

 さきにタクシーで来ていた三田くんと今泉さんと合流する。

 二人に仕切りなおさせて、三人でビールで乾杯する。

「どないや。書けよってか」

 今泉さんが口火を切る。

「ああ。書いてるでェ。書かれへんなる、いうことはないわ」

「いや、流石に小説家ですわ。僕ら、書け、言われても何をどう書いたらエエのか分かれへんですわ」

 そう三田くんが話を受ける。

 コップ一杯を飲み干すと、今泉さんはすぐに今まで飲んでた水割りにスイッチする。

「もう一本どうや」

 とおれは三田くんに言い、了承したので若いホステスにビールを頼み、それを二人で飲む。

 夕方五時になっていないので他に客はいない。

 店内には、陽の光はまったくはいらない。

「株は、どう?」

 と、おれは今泉さんの方を向いて言う。

「ああ、ボチボチな」

「ひと月、ナンボぐらいになんの」

「まあ、五、六万やな」

「いや、五、六万でもすごいで」

「難しいんでしょ。タイミングが」

 と三田くんが交ざる。

「勘やな。勘」

「勘は分かるけど、元手が要るでしょ。おれには、それがない」

 とおれは答える。

「まあ、その点は、おれは運がよかったっちゅうこっちゃな」

 突きだしのあられを囓る。

「美顔器は、売れよんの」

 三田くんに訊く。

「ああ、あれは形だけですから。何も仕事をしてない、と人に言うより、マルチでもやってたら恰好がつくでしょ」

 三田くんは、そう答える。

 暑くなってきた。

 おれの好きな季節にはいる。

 冷房の冷気が心地よい。

 何か、エエ話はないか、と、よく喋りに行く理髪店の友藤が言う。そのことを思いだしながら、ホステスの入れてくれた水

割りを飲んでいた。

「今泉さん、室井商会に加わってくれへんか」

「ええ? おれ、何も出来ェへんで」

「構へんで。ブログの開設ぐらい出来るやろ」

 若いホステスはにこやかにおれの方を見た。

「室井さん、今日、気分いいんですか」

 と三田くんがおれの腰のあたりを見ながら言った。

 スツールから、尻が一センチ浮きあがっていたからである。

 リツという源氏名の娘が、水割りをつくってくれている。短髪で丸顔で、色が白くて鼻すじはとおっているがのっぺりとし

た顔で目もほそい。大阪の私大の文学部を出たが、半年ほどで東京の出版社を辞め、求人チラシを見てこの店にはいっ

た。大企業でバリバリ働くよりも、地元でゆったり自分の時間も持てる方がいいという考えになったそうで、この中江市の

実家から毎夜店にかよっている。

 ママは、もう七十八だ。

 ママの娘も、店を手伝っている。おれより二つ三つ年上の五十三歳くらいだ。この娘は、昔は町の荒くれ者とつき合った

りして高級車を男に買いあたえられたりして派手に遊んでいて、化粧も濃くケバイ系のイケイケ姉さんだったのだが、今

は羽振りもよくなく見る影もない。

 古川を仲間に加えようかどうしようかと考えながら水割りを飲む。

 どっちにしても、室井商会はこれから忙しくなってくると一人ではまかない切れない。

 難しいブログカスタマイズやホームページ作成を、おれ一人で責任を持って果たせるかどうかあやしい。

 古川や今泉さんが、その方面にあかるいわけではないが、勉強しながらでも参加してくれればおれの肩の荷もかるくな

る。

 おれは何を主軸にやっているのだろうと自責する。

 投稿をして新人賞をとるというのが、当面の第一の目標なのに、もう受賞が半信半疑になって、さらに雑貨屋の久米島

さんに、「ブログ開設の仕事でもいいから、とにかく書くだけやなしに仕事もせんと」と責められてから懊悩したあとに室井

商会という個人商店を起ちあげた。

 でも、まるっきり仕事がない。

 ヤフー・リスティング広告は、一度打ったが、やはり折り込みチラシを撒かないとターゲットになりそうなパソコン初心者

の客はこない。

 チラシだと十二万はかかるので、そこで足踏みしている。

 かと云って、今すぐ大量の仕事の依頼がはいっても、とくにブログカスタマイズは難しいので困ってしまう。

 そういうわけで仲間を探しているのだ。仕事を丸投げできる人でもいい。

 北田というネット接続の初期設定をやっている年上の事業主や、柴川育代という英語教室を自宅でやっていてウェブ

ページ制作もできて北田さんと組んでいる、おれのバスケットボール部時代の先輩の妹もいるが、柴川育代は他人に雇

われたこともないのにやたらプライドが高いので一緒に仕事をしたくないのだ。

 古川慎平は、コンピュータの専門学校卒だし、頼りになるかなとも思うのだが、同じ同級の友藤の話では、ウィニーをつ

かって他人の情報を盗るというようなダーティーなことは出来ても、XHTMLは組めないだろうということだった。

  翌日は、家で書評などを書いていて、その翌日の日曜日に、車で古川の家にいった。

 『おれたちの仕事と長い夏』2

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山雨 乃兎

>makimakiさん
ナイスを有り難うございます。(^。^)
by 山雨 乃兎 (2014-05-08 00:41) 

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