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短編小説『三年生の夏休み』 [自作原稿抜粋]

僕は小学校三年生になりました。

 組がえがあったので山下くんというあたらしい友だちができました。

 山下くんはスポーツ少年団にはいっていてサッカーをやっています。

 山下くんは勉強もよくできます。でも国語と社会だけは僕のほうがよくできます。

 山下くんと僕はよく僕の家でテレビゲームをします。

 ポケットモンスターなんかのロールプレイングゲームでは僕がいつも負けます。ロール

プレイングゲームは運もカンケイしてくるんだと思いますが、山下くんのほうが僕より運

がつよいんだと思います。

 でも、レーシングゲームでのたいせんでは僕が勝ちます。

 もうすぐ夏休みです。

 夏休みになったら、僕と山下くんはいっしょにキャンプをしようと言いあっています。

 僕の家のまえに空き地があるので、二人だけでテントをはっていっしょにねるのです。

りょうりは、ちかくの川に魚をつりにいって、あと、カレーもつくるつもりです。

 はやく夏休みにならないかなぁ。

 

 ところが夏休みがちかづいてきたころ、山下くんはきゅうに学校に来なくなりました。

 先生も友だちも、山下くんがなぜ学校にこなくなったのか知っていませんでした。

 お母さんにそのことを言うと、せいしんてきな病気なのかもしれないよ、と言っていま

した。

 せいしんてきな病気というのは心の病気のことを言うのだそうです。

 僕はなんどか、山下くんの家にいってみましたが、げんかんの戸はしまっていて、チャ

イムをおしてもだれも出てきませんでした。

 電話をすると山下くんが出ました。

「ちょっと、ちょうしがわるいだけなんだ」

 と、山下くんは元気な声で言いました。

 キャンプのころにはなおっていると思う、と、山下くんが言ったので僕はうれしくなり

ました。

 

 ところが、それからだいぶたっても、山下くんは学校に出てきませんでした。

 夏休みがはじまるまえの日に、担任の先生は、山下くんがおもい病気にかかっていると

僕らに言いました。

 みんな、さみしそうでした。

 女の子のうち何人かは泣いていました。

 僕は学校のかえりにいそいで山下くんの家にいきました。ふうげつどうでシュークリー

ムをお見まいに買っていきました。

 げんかんのまえまでくると、家の横に山下くんのお母さんがおられました。だれか、さ

ぎょうふくをきた男の人と話しておられました。

 僕は、山下くんのお母さんに、こんにちは、とあいさつしました。山下くんのお母さん

は、うなづくように頭をさげられましたが、ずっと、さぎょうふくの男の人と話していて

こっちには来てくれませんでした。

 しかたがないので、僕は、げんかんのチャイムをおしました。チャイムがなかでひびい

ている音が聞こえました。

 でも、だれも出てきませんでした。

 もういちど、チャイムをおしましたが、やっぱりだれも出てきませんでした。

 すこしはなれた家のよこにおられるお母さんにサエキです、お見まいに来ました、と僕

は大きな声で言いました。

 けれども、お母さんは、ずっと、さぎょうふくをきた男の人と話していて、へんじもし

てくれませんでした。

 しかたがないので僕は自分の家にかえってきました。

 大人なんて、なんて自分かってなんだろう。せっかくお見まいにいったのに、ムシする

なんて。

 僕は、ばんごはんのときに今日あったことを話しました。

「だれでも、自分が病気のときは、ほかの人に自分がちょうしがわるいのを見られたくな

いものなんだよ」

 と、お父さんがビールを飲みながら言いました。

「お見まいは、病気がなおってからわたしたらいいよ」

 と、お父さんは言いました。

 そのあと、お父さんとお母さんはひくい声で話しあっていました。山下くんの病気のこ

とを話しているようでした。

「あくせいリンパしゅ」という言葉が聞こえたので、僕は、お父さんとお母さんに、それ

はどんな病気なの、とききました。

「太、人間の体には血が流れてるよね。それとは、べつに、リンパえき、というのも流れ

ているんだよ。リンパえきは、体のなかでできたろうはいぶつ、つまりアカのようなもの

を体じゅうから集めてきてそうじをしてくれるだいじなものなんだ。そのリンパえきのな

かにわるさをするヘンシンしたリンパえきができて、それがふえていく病気なんだよ」

 と、お父さんは言いました。

「山下くんがよくなるように、神さまにお祈りしなさいね。私たちもお祈りするから」

 と、お母さんは言いました。

 

 僕は、夏休みになって、毎日、ラジオ体操に行って市民プールでおよぎました。

 山下くんがいないので、もう一人のあたらしい友だち本間くんの家に行って、二人で宿

題をやって、トランプをしたりしました。

 本間くんは、勉強はあまりできないけど、たくさんの本を読んでいました。へやにも、

マンガは四、五さつしかなかったけど、大人の人が読むショウセツというしゅるいの本が

たくさんおいてありました。

 本間くんの家にいくと、毎回、まっ赤な顔をしたお父さんに、ひざの上に乗るように言

われて、頭をなでられました。

 僕は、そんなに子供じゃないのに、お父さんに頭をなでられるのはいやでした。本間く

んにそれを見られるのはもっといやでした。 本間くんのお父さんは、何かシンケイの病

気だそうで、お仕事にいっていません。

 毎日、昼まからお酒を飲んでいました。

 本間君のお父さんの息はくさくて、僕は、ながいことお父さんのちかくにいたくはなか

ったです。

 本間くんのお父さんのかわりに、本間くんのお母さんがスーパーのレジがかりのしごと

に、はたらきにいっているらしいです。

 僕は、本間くんのお父さんはなまけものだと思いました。

 家でごはんを食べているときに、僕のお父さんとお母さんに、本間くんのお父さんはな

まけものだと思うし、僕はケイベツする、と言いました。

 そしたら、お父さんがきゅうにおこりだしました。

「いいか、太。人間というのは生きていくだけで大変なんだ。大人には、その人がどんな

人であってもケイベツしてはいけない。年上だということは、人生の先輩だろう。たとえ、

その人が、お金持ちでなくて、仕事もしてなくて、ハデなせいこうさえしてなくても、ね

てるだけの一年でも、先輩は先輩だ。そんな、年上をばかにするような考えかたはいけな

い。……それとな、太。心やシンケイの病気は、外からほかの人が見てもわからないんだ

よ。たとえば、ほねがおれてギプスをしているとか、やせて元気がないとかのショウジョ

ウだったら、まわりの人はみんなドウジョウしてくれるけど、外からわかりにくい病気も

あるんだよ。だから、太も、相手の立場になって考えてみる人間になりなさい」

 そして、お母さんも言いました。

「太、本間くんのお父さん、お酒がのみたくてのんでるんじゃないのかもよ。お外にはた

らきに出られないって、男の人にとってはものすごく、つらいことなのよ。……お酒はね

ェ、気持ちをまぎらわせてくれるのよ。いつか、大人になったら、太にもわかると思うわ」

 

 十一月になって、山下くんが死にました。

 僕は、おそうしきに行きました。

 かんおけのなかの山下くんは、ほっぺたがやせて白い顔をしていました。でも、苦しそ

うじゃなかった。ねむっているみたいでした。

 スポーツ少年団の友だちは、かんおけにサッカーボールをいれていました。

 僕は、夏休みにやるはずだった、二人でつくったキャンプのけいかくを書いたノートを

いれました。

 れいきゅうしゃを見おくるとき、山下君のお母さんは大きな声で泣いてじめんにすわり

こんでいました。

 クラスの女の子たちもしくしく泣いていました。

 僕も、泣かないでいようと思ったけど、なみだがあふれてきて止まらなくなりました。

 人間は、なんで死ぬんだろう。

 だいじなかぞくや友だちに会えなくなるようなことが、なぜおきるのだろう。

 僕のお父さんは、人間は、年がいっていてもわかくても死ぬし、どんな人間もいつかは

死ぬんだ、それが人間のシュクメイなんだ、と言っていました。

 

 二学期のおわりのテストで、僕は、クラスで一番になりました。でも、それは、僕より

勉強のできる山下くんがいなくなってしまったからです。

 だから僕は、あんまり、うれしくありません。


 

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