So-net無料ブログ作成

短編小説『由香は知ってるもん』 [自作原稿抜粋]

 中江市の中心で市街からは離れたお寺のある山のふもとに、変な人が住んでるらしいん

です。

 

「おはよう」

 今日も友子と合流する。

 朝の空気は大好き!

 何といっても新鮮だもん。

 朝練で友子と一緒にユーホーを吹く。

 そういえば、あの変な人も昔ブラバンで、この学校で始めはユーホーを吹いてたらしい。

 ひょっとして、この古い楽器、あの人が吹いてた楽器なんだろうか。

 めちゃくちゃ古いんです。

 メタルポリッシュで磨いたら三日ほどは光ってるけど、四日目にはまた黒くなる。

 カビなのかなァ。

 管のグリスだけじゃなくてすっぱいような変な臭いがするの。

「由香、遅くなってるよ。また、あの人のこと考えてたでしょ」

「違うよ。私は別に」

「やめときなよ。三十年も違うんだよ」

 変な人というのは小説家らしいんだ。

 だけどネットでは有名で本も出してるけど五年経っても次のが出ないし、正直どうやっ

て食べてるんだろうとは思う。

 変な人は、ときどきブログですごく怒ってるんだ。でも変な人の言ってることは一度も

間違ってないし、ちょっと言いすぎのときもあるけど私はいいと思う。

 変な人は背が高くて、いつも大体カブに乗ってるの。フルフェイスのヘルメットでね。

 ブログの写真は貧乏作家みたいなやつなんだ。実際はもっとすっきりした男前なのに、

どうしてもっといい写真つかわなかったんだろう。ホント勿体ない。

『悪夢』っていう本出してて、私もアマゾンから買ったんだけど、難しい漢字がいっぱい

並んでたから私には読めなかった。

 

 一時限目は生徒総会だった。

 不良っぽい先輩が生徒会長してて、何かあらかじめ台本があるみたいに進んでいった。

「議長一任!」とか、申し合わせたように声がかかってね。

 まあ、つき合いだからこういうのも仕方ないね。

 二時限目からは体育祭の練習だった。

 ブラバンだけ得なんだ。

 だって行進曲とかファンファーレの練習でぜんぜん運動しなくていいんだもん。

 友子にピース。

 でもね。ユーホーは歩きながら吹くの結構重いんだ。

 あっ、西村先輩が私のこと見た!

 超ウレー!

 西村先輩は部長じゃないけど、りりしくて体育会系なんだ。

 楽器はトランペットで、体育祭では棒もってブラバンの先頭を歩くの。

 でもね、誰にも言わないけど、私西村先輩より変な人の方が好き。

 アタシ、コンビニで見たんだ。

 夕方で二つのレジとも人が三人ほど並んでたんだけど、中年の小母さんが気の弱そうな

若い男の人のまえにすっと割りこんで、先にレジを済まそうとしたとき、二つ後ろに居た

変な人が怒鳴ったの。

「お前、何、割り込んみょんのどい!? ルールぐらい護れよ!」

 凄く恐い声だった。

 大きな声じゃないけど、お腹から出ている声。

 小母さん、きっと変な人を睨んだけど、すぐにぼそぼそ言って目を伏せて後ろに並びな

おした。

 私、変な人には半信半疑だったけど、それで一遍にファンになっちゃった。

 多分ね、あの変な人が中江市で一番男前じゃないかと思うんだ。

 みんな痩せがまんしてそれを認めたがらないけど。

 だって唐沢くんみたいなんだもん。

 そういえば、ユーホーは三台あるけどどのユーホーが変な人が吹いてたユーホーなんだ

ろう。

 友子の?

 私の?

 それとも倉庫に納ってあるやつ?

 友子のだったら、それは絶対いやー。って、アタシ何考えてるんだろ。

 給食が済んだら、みんな下校なんだ。テント設営係は残るけどねェ。

 

 変な人のブログは文章が読んでて楽しいの。

 書評やコラムで難しいことも言うけど、思わず噴きだしてしまう日記記事もあるの。本

になってない小説も笑える面白いのもあるし、それに、エッチなやつもある。多分変な人

は上手なんだと思う。

 それだけ文章が書ける人だから、私よけい尊敬しちゃう。

 でもね、先生やお父さんたちは、「エキセントリックな人だからかかわっちゃいけない」

って言うんだ。

 エキセントリックっていうのが、どういう意味なのか私わからないんだけど。辞書も引

いたけど。今イチ。

 

 友子とカラオケ行くことにした。

 変な人は歌が上手いんだ。

 だってアタシ、動画みて泣いたもん。

 多分ね、変な人には切ない恋が一杯あったんだよ。

 アタシだけが褒めてるんじゃないよ。

 変な人の歌が上手いのはウチの母さんも認めてる。勿論、友子もね。

 いつもの道の先にカラオケあるから友子の後ろを自転車で走ってたら、いつものタイミ

ングで変な人のカブとすれちがった。

 ああっ、アタシを見た!

 でもね、決して友子も私も、変な人の目のまえでひそひそ話しはしないの。

 だって変な人がこっちを意識しだしたら、こっちを見てくれなくなるかも知れないじゃ

ん。

 学校では「不審な人には話しかけないように」って言われてるの。

 だから、みんな、変な人には挨拶しない暗黙のルールが出来ちゃった。

 でもね、友子とも一緒じゃなくて独りで下校してるときは別。

 今まで二回、こちらから「こんにちは」って言ったら、きちんと「こんにちは」って返

してくれたよ。

 にっこりして返されたから得した気分だった。

 

 店について主に私はパフュームを歌った。

 友子はザード。

 私たちってあんまり今の歌知らないんだ。だって、いいなァと思うのがないもん。

 岩崎宏美の『聖母たちのララバイ』を歌ってる間じゅう、友子は私の顔見て含み笑いし

ていた。

 実は、変な人もこの曲アップロードしてるんだ。高いところは裏声もつかってるよ。

 二時間も歌ったらくたくたになっちゃった。

 友子とはお店のまえで別れた。

 明日のために帰って寝ようっと。

 走りかけたらかっくんかっくんした。

 やだー。

 パンクだ。

 家まで四キロはあるのに。

 ケイタイは持たされてないしね。

 鉄工所のまえを自転車を押しながら歩いた。

 だーれも他人とはかかわらない世の中だから、こういうとき困るね。

 車に乗ってる人もみんなジロジロ見てるんだけど、だーれも助けてくれない。

 上り坂になってだんだんきつくなってきて、しんどいのもあったから自転車たてたまま

しゃがみこんだ。

 涙が出てきた。

 こんなことで泣くなよ。中二女子。

 自分にそう言ってみるけど、やっぱり涙、止まらないよ。

「どうしたんや?」

 顔を上げるとグレーのバンの車体があった。

 助手席の窓まで体をよじって声を出しているのは、変な人だった。

「私……」

 泣いてたから上手く話せない。

「パンクやろ? この車、自転車載るから後ろに載せ」

「でも……」

「心配せんでエエ。誤解されんように、家までは送っていけへん。途中までだけ送ったる」

 車に乗せてもらった。

 もっと可愛い私を見てほしかったのに、それに、どきどきして何も話せない。

 

 変な人は自転車屋さんに連れていってくれた。

 パンク修理代も持ってくれた。

「また、この分は後で払いに来ますから」

 そう、お店の人に言っていた。

「ありがとうございました」

 蚊の鳴くような声で、私はそれしか言えなかった。

「あの、あの……」

 言いたかった言葉を必死で探した。

「余分なことはエエから。もう暗うなるから早、帰りィ。はよう」

 私は、それでも呆然としてしまってまだ言葉を探していた。

「シャキッとしいよ!」

 変な人はそう言いながら私の背中をポンと叩くと、すぐ車に乗って行ってしまった。

 

 私は嬉しさを噛みしめながらペダルをこいだ。

 私ね、変な人は絶対いい人だと思います。

 きっと、多分。

にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村
新登場【電動スクーターEV-S4】普通免許・原付免許で乗れる電気で走るスクーター/環境に優しいECOバイク/走行時排出ガス、CO2ゼロ、騒音なし 電気スクーター 電気バイク EC

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

nice! 0

コメント 0

トラックバック 0