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『寒い夜』 [自作原稿抜粋]

   寒い夜

 【本編には、残酷なシーンがあります。よって18歳以上の読者を対象としています。】

 本当に、こんな事を実行に移すのに価値など有るのだろうか。否、充分に価値は有るのだ。

 私と私の家族、親戚に甚大な悪い影響を与える事になるとしても、私は、これを実行しなけれ

ばならない。

 私は、自分のブログに、新しい記事ーーー『ツァラトゥストラはこう言った』を読んだ感想ー

ーーを打ち込んだ。

 公開保存に設定し、アクセスランキングのサイトへping更新もした。

 私は、ジーンズと開襟シャツとセーターという姿に着替え、薄茶色のZippoのオーバーを羽織

って、財布と小銭入れと車の鍵のついたキーホルダーを胴のポケットに入れた。

 セブンスターを喫って、Torysのポケット瓶から中の液体を喉に少し流し込んだ。

 ポケット瓶を胸ポケットに収って台所へ行く。

 音を剰りたてないようにして流し台のキャビネットの袖からステンレスの包丁を抜きとる。

 その刃をB6サイズのノートカバーにはさみこみ、留め部分を綴じる。

 それを右の内ポケットに差し込み、玄関を開けて家を出る。

 がさっと衣ずれの音がする。

 母は、私が夜出て行くことにも、怒らなくなった。

 母は、多分、私が何をしに出て行くのかを知っているだろう。

 音の殆どしない裏革生地のスニーカーを履いて駐車場までの坂を降りる。

 今日、奴の住所は調べてきたのだ。

 西上勤。

 私は、今から、奴に復讐をしに行くのだ。

 今の私は、四十三歳。体は病気がちで、フリーターをしている。五年続いた仕事もあったが、

殆どの仕事は永続きしなかった。学歴は高卒だ。勉強はよく出来たのだが、小学校五年生のとき

から全く出来なくなった。それまでの私は、末は博士か大臣かと、近所や学校でさわがれる神童

だった。成績は、体育も含めて、五段階評価で全て5だった。

 西上にいじめられるまでは。

 私は、四年生の終わり頃から身長が伸びない時期に入った。

 そこへ、クラス替えがあった。

 五年B組になった。

 五年B組というのは、品の悪い男が十人くらいかたまっているクラスだった。

 私は、五十音順で決まった初めの席順で、西上の隣の席になった。

 西上は、理由もなく私の耳たぶを引っぱった。ちぎれる位の強さで、四六時中、私の耳たぶを

引っぱった。

 また、私が手を挙げて発表の為に席を立ったとたん、私は、吉澤という男から野次られつづけ

た。

 高木は、休み時間に私の腕を背中で上向きにねじり、肩をキメてきた。

 吉澤は、「お前に、昔、なぐられたから、お前をなぐる」と、渡り廊下に私を呼び出したりし

た。

 私は、曲がった事が嫌いだったので、仮に私が吉澤を過去になぐっていたとしても、それは、

吉澤が何か、他人に悪い事をしているのを見て、制裁を加えたことだと思う。

 前の学年から一緒に五年B組にうつってきた男子も、真面目で腕力のない子はいじめられる側

となって、男の半分と女の子全ては、暗い表情に変わってしまった。

「あんたがしっかりせんからや」

 と、女の子に言われたりしたが、私の体格では、いじめる男に立ち向かう事は無理だった。

 本の朗読の上手な女の子は、朗読中に、毎回茶化されていた。そして、彼女は転校していった。

 私は、家では、成績が急に落ちた事を母に、「何故、がんばらないんや」と責められたが、い

じめられている事を親に相談するのは恥と考えて、相談しなかった。

 発表が出来ない。

 それどころか、七~八人の男子が騒いで授業中、教師の声も聞こえない。

 西上にずっと耳たぶを引っぱられ、高木に肩をキメられつづける。

 私は、野球で剛速球が投げられたのだが、コントロールが左下にずれるようになり、スピード

も出なくなった。

 思えば、その当時から、私には、今の殺意が有ったのかも知れない。

 登校拒否になった男子も居たが、私は、何故か、学校を休むという選択肢は、無いものと思い

込んでいて、通いつづけた。

 二年間辛抱すれば、新しい環境に入れる。体格も、いつかは挽回できる筈だ。なぜなら、私の

父は長身だもの。そう思って、二年間登校しつづけた。卒業式が終わった後、ホームルームみた

いな時間が有って、同窓会の幹事を決めておこうという事になった。

 西上が、強く私を推した。

 私は、受けた。

 手間のかかる事は私に任せて、見かけは、私に華を持たせたような格好にしたのだろう。

 中学へ入ってすぐ、六年B組の同窓会が有った。

 私は、適当にへらへら笑って話しを合わせた。

 もう、こんなクラスの連中とは、一生会わない。私は、堅くそう心に決めた。

 社会人になった時、同窓会の招集の為のアプローチをしてくれ、という電話がかかってきた、

その時こそ、私は、はっきりと、こう言うだろう。

「私は、あなたがたを知らない!!」

「あなたがたと私と、何のかかわりが有るのか!?」

 と。

 私の人生は、私自身が何度も再努力を積み重ねて、軌道修正をして今が有るのだが、結局は、

今は、病弱のフリーターだ。それも無職と言った方が当たっているだろう。

 結婚はしたが、妻はすぐ亡くなった。

 私には、今も、未来も、もはや、失うものはない。

 西上に人生を狂わされていなかったとしたら、私は、国立大学を主席で出て、大学院も出て、

博士か教授に成っていたことだろう。 何という身分の落差だ。

 今の私は、体格では西上を軽く超えている。殺してやる。

 奴は、身長百六十センチのちんちくりんだ。

 そんな事など、忘れてしまえばいい。流してしまえばいい。奴と切り離れて、自分の道を行け

ばいい。

 その道が、この現状だ。

 妻も子も居ない。無職だ。

 教授に成れていた人間が、癈人だ。

 弟たちに迷惑がかかるだろう。

 その子にも迷惑がかかるだろう。

 しかし、私は、西上に迷惑をかけられたのだ。とんでもない迷惑なのだ。

 飲酒運転をしている。

 ポケット瓶のウィスキーを飲みながら、私は、車を運転している。

 そんなことはどうでもいい。

 殺してやる。

 絶対に殺してやる。

 私は、西上の家の前の路に車を停めた。

 エンジンを切り、キーを抜く。

 呼び鈴を押す。

 深夜の二時十分だ。

 ここまでなら引き返す事が出来る。

 ここまでなら引き返す事が出来る。

 私の常識の心がずっと問いかけてくる。

 二回目の呼び鈴を鳴らす。

 僅かに、チャイムの音が漏れている。

 確実に家の中ではチャイムが大きく鳴っているだろう。

 呼び鈴を連打する。

「だれや!? こんな夜中に!!」

 そう奴の声が響いて、二階の窓に明かりがつく。

 私は、呼び鈴を連打する。

「やかましいのーーー!? だえどい!?」

 と言いながら、どたどたと音を立てて奴が階段を降りてくる。

 引き戸の鍵のネジを回す音がする。

 奴のボサボサの髪のシルエットが目の前のすりガラスに浮かんでいる。

 ついに、戸が開く。

「誰?」

 と、奴は、寝起きの力のない声で私を見上げる。

「西上君。…中山や」

 私は、西上の股間を蹴り、ひるんだ西上の顔をなぐる。

 ここで、一旦、攻撃の手をゆるめてはならない。

 私は、西上の胸ぐらをつかみ、玄関の戸のガラスに、ゆさぶって奴の頭部をぶつける。

 ぐだっと脱力して、西上が体半分の高さに落ちて玄関の戸にもたれかかる。

 口上を言ってやりたいが、それをやると、こいつは反撃に出る。そんな事は、分かりすぎる程、

分かっている。

 私は、右足の裏を西上の喉に叩き込んだ。

 ジャンパーのファスナーを開き、左手で包丁を出し、ノートカバーから抜いて右手に持ち替え、

奴のパジャマを腹のつぎ目からめくってもたれかかるようにみぞおちに差し込んだ。

「わあーー!! いーーたーーー!!」

 人間とは、こんな無様な声を出すものなのか。

 私は、包丁を抜いた。

 消火栓の事故のように、血が放射状に噴き出す。

 こんな事は、計算済みだ。

 私は、犯罪をおかしているのだ。

 まだ致命傷ではない。

 こいつは、仕返しをしない男ではない。慈悲深い神とは対極に在るくずだ。

 殺さなければならない。

 私は、心臓に向けて刃を水平にして押し出す。

 びんっというバネのはじけるような音がして、刃先がこぼれた。 肋骨に当たったか。

 西上は、涙をためて、体をふるわせている。

 恐怖だけではない。

 大量に失血して、悪寒を感じているのだろう。

 私は、今度はずっと左側の胸から差し込み、心臓の有る辺りへと刃でえぐっていく。

 前にも増して、大量の噴き出しが起こる。

 西上の顔が人形のように変わった。

「おい! 何や何や」

「おい! 何しとるんや!?」

 と、人が集まってくる。

 向かいの窓から三十代くらいの主婦が、

「人殺しーーー!!」

 と、大声を挙げた。

 ケイタイのボタン音がする。

 私が車に戻ろうと歩くと、

「おい! どこ行くんや!?」

 と、男が私の両肩を抑えかける。

 こんな事も、想定内だ。

 私は、持っていた包丁で、男の左脇腹を刺した。

 うう、と呻く男。

 そうだろう。どんなに為政者ぶっても、刺された痛みをこらえてまでは、力を出せない。それ

が人間の特徴だ。

 動きかけた私の左袖を男がまたしてもつかむ。

 そんなに、ヒーローに成りたいのか。

 私は、もう一回、男の腹の真ん中に包丁を刺した。

「おまえ…」

 と言いながら、男は、まだ、私にしがみつこうとする。

 私は、向き直り、男の左首の動脈を切った。

 返り血を浴びてどろどろになったまま、私は、車に乗り発車した。

 逮捕より前に、高木も殺さなければならない。


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