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『続・ウルトラセブン』 [自作原稿抜粋]

 以前に掲載した『続・ウルトラセブン』を再びアップロードしておきます。

 【ファンフィクションです。ブログ上だけの発表です。オリジナルの設定とは多少異なります。】

 

   『続・ウルトラセブン』(フィクションです)

 2006年、12月25日。

 ウルトラセブンが還ってきた。

 M78星雲に戻っていたウルトラセブンは、再び地球を襲う宇宙人の出現を予感して、地球に戻ってきた。

 ウルトラ警備隊は、33年前に、実質上解散していた。

 宇宙人の侵略の危機を、一応脱したからだった。

 諸星ダンと名乗っていた男性は、三十数年前に雪山で遭難し、命を落としたのだが、そ

の身体にウルトラセブンはのりうつって、諸星ダンと名乗っていた訳だ。

 彼は、セブンに命のエネルギーを受け、ウルトラセブンとして活躍していた当時の記憶

を失くし、元来の自分の記憶も思い出せない日々を送った。

 セブンが宇宙へ去った後、彼は、長野県の或る山の麓に、ジーンズにロングコートで、ト

レッキングシューズを履いて横たわっていた。

 真冬でなかったのが救いだったが、自分が誰なのか、何をして生活を送っていたのかも

思い出せなかった。

 所持金で東京まで出て、住民登録をし直し、木村悟という名で、一時的に国から生活保

護を受け、その後、就職技能センターで商業簿記やコンピューターソフトの使い方の修練

を積んで、大塚にある広告会社で、営業兼総務の仕事に就いた。

 彼には、自分がウルトラセブンで在ったという記憶はなかった。

 自分の本当の名前も思い出せなかった。

 ウルトラ警備隊は、解散して、もし、宇宙人の襲撃があったときには、自衛隊が出動す

ることになっていた。

 隊長は、数年前に逝去し、古橋隊員は、九州の実家に戻って、家業である酒屋を継い

だ。曽我隊員は、T大学の研究室に誘われ、レーザービーム砲や、次世代航空機の開発

に邁進している。

 そして、アンヌ隊員は、警備隊解散後、一年ほど、飲食店のウェイトレスをしながら東京

暮らしをしているとき、休日に渋谷の街でいわゆるナンパされ、その青年、四方田秀夫と

恋仲となり、結婚して杉並区に住んでいる。夫の四方田は、大手プロバイダを運営するス

ギヤマグループの本社(東京)に役員として勤務している。諸星ダンとの記憶は、よき思

い出として遠くなりつつあった。

 今では、ひとり息子も独立して埼玉に住み、池袋の出版社に勤めている。

 そして、かつての諸星ダン隊員、現在の木村悟が、ウルトラ・アイを道で拾うことにな

る。

 それが、かつて、自分が変身する時に装着していたアイテムであることを思い出さない

ままに……。

 諸星ダン、つまり今の木村悟の本当の名前は薩摩次郎と言い、二十二歳のとき、大学

の友人同士で雪山にスキーに行き断崖から落下してショック死してしまう。その薩摩の体

にウルトラセブンはのりうつって諸星ダンと名乗り、あの活躍ーーーウルトラ警備隊の隊

員として、さらに変身したウルトラセブンとしてーーーが有った訳だが…。

 九州の薩摩家では、雪山で行方不明になった息子のことを、両親は遺体を見ないまま

に亡くなったと気持ちの整理をつけるしかなかった。

 ときどきTvで放映される時代劇を見ると、息子にそっくりな顔の俳優が悪役として出演

していることがあった。

 母の奈緒美は、そんなとき、「ああ、あの子が生きていれば、丁度この人と同じくらいの

壮年の紳士になっていただろうな」と、心の内で呟くのであった。

 同じ事を、四方田アンヌも思うのであった。

 2006年12月11日。

 M78星雲では宇宙治安監督会議が開かれていた。

 ゾフィーとウルトラセブンの遺伝子を持つウルトラ社会の代表者からなる宇宙安寧委員

会の面々が顔をそろえていた。

 (地球の)巷でささやかれているTVドラマ化したウルトラ兄弟の活躍というのは、全てが

現実という訳ではなく、地球で活躍したのは、ウルトラマンとウルトラセブンのみだった。

 勿論、彼らにも父・母は居るが、喧伝されているような角を持った存在ではない。

 ゾフィーの遺伝子を持つのがゾフィーと外見上そっくりのタイプとウルトラマン・タイプ。

 セブンの遺伝子を持つのは、セブンと外見が全く同じ宇宙人だ。 つまり、見かけ上は、

三種類の体型・風貌のウルトラ兄弟の集まりの社会なのだ。

 そして、ウルトラマン・タイプだけが地球上では三分間しか生存できない。

 M78星雲のウルトラの星の電波観測所では、昨日、バルタン星人同士の無線電波に

よる会話を傍受した。

 バルタン星人は、三種類の彼らの言語をもっている。

 彼らは、地球のあらゆる国の言語を習得していて、三十数年まえの地球侵略のときに

は、自ら言葉を翻訳して意志を伝えたりもしてきた。

 バルタン星人の言語がそのまま判るのは、ウルトラマンとウルトラセブンだけだった。

 そして、セブンの方は、前回の戦いのときに記憶した言語をウルトラの星に戻って体調

の回復につとめながら、統計言語学的に類推を重ねる作業をし、一頁八百字にして千六

百頁にも及ぶバルタン言語体系という辞書を完成させたのだった。

 したがってウルトラセブンは、バルタン星人の三種類の言語全てを理解することができ

たのだ。

 バルタン星人には見習うべき処が有った。

 侵略という行為を除いては。

 バルタン星は、環境汚染によって壊滅したが、それまでに築き上げた彼らの文明は実

に高度なものだった。

 特に、絵画、彫刻、文学、音楽などの優れた作品が溢れ、衣食住の為の製造する仕事

に従事している者のなかのただ一人でさえ、芸術創作を行わない者はなかった。

 又、意志をテレパシーでやりとりする術(すべ)、及び、その能力のコントロール。念動

力、分身を増やす能力に於いても、そのコントロール力まで一人ひとりが身につけるに至

っていた。

 ーーー我々、末裔だけで地球を乗っ取らなくてはならない。

 ーーー先人がしくじったような、あのような結果にはしてはならない。

 ーーーアンドロメダ星雲のこの星では、我々はもう生存の限界に来ている。

 ーーー地球人が浮かれているときにしよう。

 ーーー神の子イエスの誕生を祝う日だ。

 ーーーセブンに気づかれてはならない!

 ーーー大丈夫、セブンには、この我々の第三言語は理解できない!

 12月12日、火曜日。

 四方田夫妻は、久しぶりの夫の休日という事もあって、杉並区の邸宅でのんびりと過ご

していた。

 夫・秀夫が役員を務めるスギヤマグループの主要会社である大手プロバイダ運営会

社、Zサービスは、一昨日、サービスの一つであるブログのサーバーに短時間にアクセス

が集中したため、全てのZサービス用のサーバーがダウンし、サービス中断という事態に

至った。それというのも、中堅アイドルグループのビーダックの一番の美男子である内藤

竜也が、突然の離婚会見を開いたからであった。内藤竜也は、Zサービスのブログペー

ジをつくっていて、老若男女が、そのページへアクセスした為と考えられる。

 しかし、今回以前にも、Zサービスのサーバーは時々ダウンしていて、この際、サーバー

の大幅なスペック改善の検討が、会議された。

 その結果、早急に、大手システム会社・サーキュリーのハードを採用しようという事にな

り、四方田秀夫は、昨日、サーキュリー東京拠点へ出向き、担当者と会って、システム導

入を依頼し、契約書を交わしてきたところだった。

 役員の四方田は、スギヤマグループに毎日、就業しつづけるという仕事のやり方ではな

く、大きな折衝などの時に、動いていればよいと、会長の杉山から指示されている。

 アンヌは、五十八歳になっていた。そろそろ老人といわれる年代に入りつつあったが、

年齢の割には肌に艶が有り、理知的で意志的な美貌は、四十代にしか見えない程だっ

た。

 夫の秀夫は、六十一歳で、仕事自体にやりがいを感じており、役員には自主退職以外

に定年による解雇もないので、仕事をつづけている。退職金と実質同じである特別ボー

ナスの受給を去年受けた。役員職には、五十一歳のときから就いている。

 埼玉に住む一人息子弾斗(だんと)は、今年三十歳だが未だ独身である。

 今日、午前中は、夫の車で大型スーパーまで行き、二人で買い物をし、シティホテルの

レストランで昼食を摂った。

 午後は、二人でブランデーをたしなみながら、夫の好きなクラシックを聴いた。

 夕が近づき、傾いだ柔らかい日差しのなかで、シベリウスの『フィンランディア』が佳境に

入り、金管の勇ましい旋律が居間に響きわたった。

 ーーーフォフォフォフォ・フォフォフォフォ

 くつろいでいる秀夫は、同じく百合がそっと開いているように微笑んでいた妻・アンヌの

表情が一瞬曇ったように感じた。

「どうかしたか?」

 ストリングスと金管セクションは、曲のフィニッシュへと煽りつづける。

 ーーーフォフォフォフォ・フォフォフォフォ

「貴方、ちょっと、止めてくださる?」

 秀夫は、妻の要求に応えて、ステレオコンポーネントのボリュームを絞った。

「一体、どうしたんだ?」

「今、聞こえなかった?」

「何が?」

「バルタン星人の声よ!」

 部活動から帰る中・高生の歓談の声が、縦に長い閉めきったアルミサッシのガラスから

すこし聞こえていた。

 しかし、普段の住宅街の物音がしているという事には変わりなかった。

 宇宙人の声など聞こえてはこない。

「バルタン星人は死んだじゃないか。宇宙人もゴース星人が最後だったじゃないか。……

それも、もう、三十八年も昔のことだよ」

「ごめんなさい」

 音楽が鳴っていたから、錯覚したのかもしれない、と、アンヌは思い直した。

(でも、確かに聞こえた。……もし、バルタン星人が来たらどうしたらいいのだろう。……ダ

ンはもう居ないのに……)

 ーーーフォフォフォフォ・フォフォフォフォ

 12月14日、木曜日。時間は、午後十時を回ったところだった。

 木村悟は、広告枠セッティングプロデューサーである上司の宮沢晋吾に頼まれた仕事

にパソコンを前に取り組んでいた。

 三ヶ月後に全国一斉に封切られる日本映画『アイツにさよなら』のTV用コマーシャル

に、木村が勤めるライブ・エボリューションと他社で大手の雷電社が名乗りを挙げたた

め、十二月二十日に『アイツにさよなら』を創った大栄(映画会社)でコマーシャル本編試

写を含めて、プレゼンテーションで一騎討ちする事になったのだ。 コマーシャルは、下請

けの広告制作会社氷刻堂からもう上がってきている。

 つまり、木村は、今、プレゼンテーション用の台本を書いているのだ。

 文章表現がうまい訳ではない木村には辛い仕事であった。

 それもその筈、木村悟は、本当は六十五歳になっているのだった。 記憶を失くし、あら

ためて住民登録をし直した時に、自分が何歳か見当もつかないので二十歳で登録した。

 だから、免許証も保険証も1948年生まれとなっている。五十八歳という訳だ。

 結婚はしなかった。そういう話しがなかった訳ではないが、不思議に、自分は結婚して

はいけないと、自分の忘れた過去の人生で決まっているような気がして、独身を通したの

であった。

 なかなか文章がまとまらない上に、ワードの画面を長い間見ていて目も疲れた木村は、

ライブ・エボリューションの入っている大塚駅前の丸菱ビルをエレベーターで地上へ降り、

夜食を仕入れるためコンビニまで歩

いた。

 今日の昼間は、誠に困った。

 ビーダックのリーダー小紫久典のCF制作に立ち合った。

 渋谷のTV局で順調に仕事が片づき、後輩の広仲と、次のクライアントに会うまでの時

間調整の為、吉祥寺の喫茶店へ入ったのだが、そこで広仲が「先輩も、これ、どうです

か」と変わった煙草を勧めた。

 凄く陶酔感があった。

 これは、何という銘柄だ?と訊くと、広仲は、顔を寄せてきて自身の唇に指をたてた。

「大麻です……」

 木村は、慌てて灰皿に押しつけて火を切った。

 幸い、店には彼らの他には客はなく、店員も気づいてはいなかった。

 その後、木村は店を出た路上で広仲を厳しく叱りつけたのだった。

 こういう業界では、よくあることだったが、逮捕されては洒落にならない。

 そんなこともあってからか、今日は、大分調子が変だな、と木村は感じていた。

 さっきからセミの鳴き声のような耳鳴りがして止まらない。

 コンビニで豚丼弁当と缶ビールを一本買って外に出た。

 木村は、ぼんやりと二軒となりの高層ビルの二階窓に目をやった。(俺は、相当疲れて

るんだ……)

 二階の窓に人間サイズのセミがしがみついている。

 そのセミには金属のクロムのような色合いの大きなハサミが両手にある。

 一体、どうやって、窓にしがみついているのだろう。

(俺は、やっぱり疲れている……)

 悟は、しばし、立ち止まったまま瞼をこすった。

 セミは消えていた。

 気をとりなおして丸菱ビルへと歩く。

 交差点の信号が赤に変わって歩をゆるめた木村は、ふいに強い力で何者かに後ろから

組みつけられた。

 シュワ・シュワという高周波ノイズが頭痛を誘発する。

 周りを歩いていた人たちは、木村から離れていく。

 交差点を曲がるタクシーの運転手は、こちらに向かって笑っていた。

 二十代くらいのアーミージャケットを着た五、六人の男のグループが木村たちに近づい

てきて二、三メートル離れて観ている。

「撮影っすか!?」

「ウルトラマンですよねー」

 木村は、やっとの事で組みをほどき相手と対峙した。

 セミだ!

 ーーー我々の邪魔はさせない!

 シュワシュワという高周波に混じってセミはそう喋った。

「何のことだ!」

 ーーー今度こそ、我々は、この星を乗っ取るのだ。

 木村は、背を向けて走った。

 弁当は落としてしまったが仕方ない。

 路地へ十メートルほど走ったとき、また、組みつかれた。

 凄い力だ。大人の倍の力は感じる。

 ーーーセブンに変身しろ!

「何の事だ。セブンとは何だ!」

 ーーー早く変身しろ! ウルトラセブン!

「おい! 何や何や!?」

 そう言いながら三十代くらいの酔客が五、六人、バルタン星人に殴りかかった。

 バルタン星人は、一瞬にして八体に分身して、その男の内の一人に赤い光線を浴びせ

た。

 男は、一瞬にして凍ってしまった。

 男の仲間達は、蜘蛛の子を散らすように奇声を吐いて逃げた。

 ーーーフォフォフォフォ・フォフォフォフォ

 八体のバルタン星人が木村を囲んだ。

 ーーーウルトラセブン。邪魔はしないということだな。……安心した。

 その科白の直後に、セミの化け物は消失した。

 木村は、携帯電話を取り出し、救急車を呼んだ。

 12月16日。土曜日。

 四方田弾斗は、埼玉県北本市にある自宅でインターネットを使って資料集めをしてい

た。

 ウルトラマン・シリーズの資料である。

 先月、人気アイドルグループの小紫久典が、社にふいに現れて、ウチの社の部長、

佐々木と共に会談した。

 小紫は、ウルトラ兄弟についての本を出したいと言う。

 弾斗は、それでなくても忙しい編集の仕事に、こんな提案は除外したかったが、その場

に同席した部長の佐々木が、すぐに乗り気になってしまった。

「そりゃもう、喜んで! 小紫さんが本を出されれば十万部は堅いですからね」

 放っておけばいいのだ。

 どうせ、ゴースト・ライターを使うことになる。

 ウチの社(蒼星出版)は、十人居る編集が常に十件以上の現在進行中の仕事を抱えて

いる。

 その殆どが中堅のベテラン作家の原稿だ。

 文学系月刊誌を一冊と、推理およびエンターテインメント系月刊誌も月一で出してい

る。無論、それを纏めた一人ひとりの単行本。その他に、書き下ろし。

 小・中学生向け漫画雑誌(月刊)も刊行していて、その中の『Mrボット君』という作品が

凄い人気で、そのせいで漫画雑誌ブルースターの売れ部数がとてつもない。実のところ、

蒼星出版は、『Mrボット君』で保っているようなものだった。

 漫画部門の編集は、たった二人で、四方田たち他部門の編集は、日々肩身の狭い思

いをしている。

 しかし、ただでさえ忙しいところに、この小紫の話しに乗ってしまうと、又、余分に走り回

らねばならなくなる。

 中堅作家が筆が止まる事など稀だが、小紫の企画を進めるとなると、ゴースト・ライター

に頼らねばならない。

「前から、そういうの、出してみたかったんですよ」

 何が、出してみたかっただ?

 自分で書けもしないくせに。

 四方田は心中で、そう独りごちた。

 結局、金に目のない部長の佐々木がその話しを受けてしまったのだが、困るのは、ライ

ターへの依頼だった。

 蒼星出版は、ーーーどんな内容でも絶対に書ききるーーーゴースト・ライターを二人抱え

ているのだが、器用な方のライターは、今、或る大家の途中で放っぽり出した長編純文

学のつづきを書くことに専心している。

 それが、毎月百枚を月刊誌に連載していくという仕事だったので、こちらの仕事をさらに

頼むという訳にはいかない。

 どろどろの愛憎劇を特有のくねるような読感の文体で書く大家の作品なので、つづきを

引き受けている事さえ、奇跡という他ない。

 海原俊三という大酒飲みの無頼派だが、彼はもう終わりだろう。

 得体の知れない三十代の女と、朝から焼酎を飲んでいる。

 原稿をとりに行った担当の話しでは、呂律が回らない喋り方で、しかも右手がひどく震え

ていたと聞いた。

 となると、もう一人のゴースト、たしか山雨という名だったが、に頼ばねばならない。

 彼は、一作小説を世に出してはいるのだが、今は、投稿生活に戻ってしまっている。

 仕事は、完璧なのだが、仕事を受けるまでのやりとりが、彼の場合には苦労させられる

のだ。

 神経質で理屈っぽくて、理屈で納得しないとなかなか首を縦に振らない奴だ。

 という訳で、四方田弾斗は、ゴースト・ライター山雨に原稿を頼む為に、予めのウルトラ

マン・シリーズに関しての資料を集めている、という訳だった。

 弾斗は、パソコンチェアの背もたれにもたれかかって大きく伸びをした。

(どうも、ややこしいな……)

 1966~1968年の間にTV放映されたウルトラマンとウルトラセブンだったが、翌1969

年~1970年にかけて実際の宇宙人の襲撃があり、ウルトラセブンが活躍した事件が何

度か有った。だから、プリントアウトされた資料を整理していく上で、どれが現実でどれが

フィクションなのかが選別しにくい場合が多々有ったからだ。

 

 窓の外には白いものが降っていた。

 夕が闇に変わりつつあった。

(それにしても、昨日のあの朝刊のニュースは何なのだろう……) 弾斗は、しばし考え込

んだ。

 大塚駅前で、サラリーマンが巨大なセミに凍らされて亡くなったというのだ。

 12月18日。

 曽我勝彦は、今日も都内のT大学で後進の指導とレーザービーム砲の研究の為、研究

室にこもっていた。

 昼食時に学内食堂に居た曽我に、来訪者があった。

 それは、かつての同胞天城正一であった。

 天城に誘われ、研究室は後輩に任せて天城の車に乗り移動した。

 重要な用件なんだ、と天城は言うのだが、曽我には車がどこへ向かっているのかも皆

目見当がつかなかった。

 夕方になって、やっと目的地に着いた。

 それは、以前の職場、『ウルトラ警備隊基地』だった。

 ゲートの自動扉は、ところどころ錆びていて、さすがにあれからの歳月を思わずにはい

られなかった。

 しかし、司令室に入ると、そんな思いは払拭された。

 全ての機器が新しく、金属の光沢が有り、ネットワークコンピュータのモニターが十数枠

も揃っている。

 あれからパーソナルコンピュータがかなり進歩したこともあるが、圧巻なのは、司令室中

央を占拠している

大型スーパーコンピュータだった。人間十人が並んだほどの体積がある。

 この大きさでは、現在のパーソナルコンピュータの何百倍という演算スピードがあると予

想できる。

 そして、部屋の奥の壁面全体には、縦横二メートルを超す液晶モニターがあった。

「驚いたな、ウルトラ警備隊は解散したというのに」

 曽我が訊く。

「あれから秘密裏に、維持・改善はされてきたんだよ。他のメンバーは知らないだろうが」

 曽我は、天城からレーザービーム導入の為の要請を受けた。

「スペシウム・レーザーを武器として完成させて欲しいんだ。それも早急に」

「いきなりそれを切り出すとは、天城さんは、僕が既にスペシウム・レーザーを開発してい

るのをもうご存知という訳ですね」

 スペシウムは、地球にはない元素だったが、曽我は研究を重ね、超高温真空窯の中で

二つの元素を衝突させることによってスペシウムに極めて近い性質の元素を作り出すこ

とに成功していた。

 天城は、数日前、バルタン星人の会話らしい無線電波を観測したと言った。

 バルタン星人には、スペシウムでないと通用しない。前回のセブンとバルタン星人の戦

いでは、セブンは苦境に陥り、ウルトラマンが応援に来てくれて辛くも危機を脱したのだっ

た。

 木村悟は、後輩、広仲を連れてアポイントを入れておいた出版社二社と毎朝新聞社本

社を回った。

 毎朝とは、映画『アイツにさよなら』の広告枠を、とりあえず来年一月末まで計六回割か

せてもらう約束を交わした。

 三時に、千代田区の毎朝新聞社を出る。広仲とは別れた。

「一度、自分で新規訪問してこい」

 と、木村は広仲を突き放した。

 入社二年目の広仲は、未だ独力で契約をとった事がない。アポイントを得るための電話

さえ、まだ断られてばかりなのだ。

 毎朝との話しの後に、特に予定がなかったので、広仲を泳がせることにしたのだ。

 未だ仕事も碌に出来ないのに、大麻などを喫っている場合ではない。

 木村は、喫茶店に入り、コーヒーを飲みながら三件の契約書をチェックした。

 店を出て、自身も飛びこみ訪問をしようと企業ビルの群立する方向に歩いた。

 アタッシュケースを右手に持ちながら歩いていると右足に何かが当たって路を滑ってい

った。

 硬いものの感触だった。

 五メートルほど歩いて、それを手にとる。

 赤い眼鏡のようだが蔓がない。

(何だ? これは……)

 そう思いながらも、木村はそれを双眼にあてがった。

「デゥワッ!」

 自分でも訳が分からないままに、木村はそう叫んでいた。

 次の瞬間、セブンの自意識が木村の脳内に浸入してきた。木村の容姿が頭部から全身

に、銀色のマスクと赤いボディーへと変化していく。

 ウルトラセブンに変身した木村は、宙へ翔び上がった。

 西に向かって両腕を斜め前方に伸ばして空を飛んだ。

 路上に居た人々の一部は吃驚した。

 木村の後ろを歩いていた若いサラリーマンは、その場に尻もちをついていた。

「へっ、変身した!! 変身した!!」

 12月20日の朝、木村悟は、部長室に呼びつけられた。

 広告枠セッティングプロデューサーの宮沢部長と専務の柏木が応接ソファーに腰かけ

ていた。

「木村君、君、昨日の三時からどこへ行っていたんだね?」

 柏木が責め立てるように言う。

「ええ、新規訪問に回ってまして……」

「鞄も持たずにかね」

 専務の柏木は、鋭い。

 言葉に窮していると、宮沢が自身のソファーの後ろからアタッシュケースを抱えてテーブ

ルの上に置いた。

「落とし物として届けられたんだ。今朝。警察から」

 と、呆れた、という表情で宮沢が言った。

「申し訳ございません」

「しっかりしてくれよ。……今日のプレゼン頼むよ」

 と、宮沢が言い。

「以後、気をつけてくれたまえ」

 と、柏木が言った。

 二人からは、それ以上の叱責はなかった。

 ビジネスマンなら、書類や鞄を手元から放してはならない。況して、社外の人間に鞄の

中身を見られるのは、どれだけマイナスな事か、わざわざ諭すまでもないだろうと、二人

は判断したに違いなかった。

 大栄での木村のプレゼンテーションは上手く行き、『アイツにさよなら』のTV用コマーシ

ャルはライブ・エボリューションが奪取した。

 12月21日。

 日本中がクリスマスを迎えるムードのなかであった。

 静岡の街の上空をウルトラセブンは飛んでいた。

 ーーーお母さん! サンタさんだよ! あそこ!

 ーーー何を言ってるの。まだ、クリスマスじゃないでしょ。

 午後四時、四方田アンヌは買い物を終えて杉並の自宅で食料を冷蔵庫に入れていた。

 来客を告げるチャイムの音がキッチンのとなりの居間に響いた。 玄関を開くと、そこに

は懐かしい顔があった。

「ダン! 還ってきたの?」

 三十数年という歳月は、彼の髪を白髪交じりにはしていたが、あのときのままの誠実で

少しニヒルな表情は変わることがなかった。

 アンヌは、思わずその男に抱きついた。

「おいおい、……」

 木村悟は、戸惑いを露わにする

「地球に危機が迫ってるんだ。だから戻ってきたんだよ」

「本当に、ダンなのね」

 アンヌの目から涙が溢れる。

 アンヌが家に招き、木村はアンヌに、自身のこの三十数年の経緯を語った。

 最後の戦いの後、セブンは宇宙へ帰り、自分は、長野の山の麓で記憶をなくして横たわ

っていたこと。その後、住民登録をして今は、一社会人として元気に暮らしていること。そ

して、数日前に、再びウルトラ・アイを手にし、全ての記憶をとり戻したこと。

 そして、バルタン星人がこのクリスマスの二十五日に全人類を滅ぼして、地球を乗っ取

ろうとしていること。

「ウルトラ警備隊は、もうなくなっちゃったから……」

 アンヌが、ぼそっと言った。

「いや、警備隊はまだ健在だよ。僕は、基地に入って現状を見てきた。小さくなってね。天

城さんの荷物に紛れ込んでね」

 それから、木村は、ウルトラセブンとしての現状を語った。

「今は、人工衛生がいくつも地上を撮影してるんで人間の姿に戻るときが難しいんだ。戻

っていく過程を撮影されて、その後、どこへ帰っていくのかまで突き止められてはマズイか

らね。だから、富士の樹海まで飛んで、そこでまず小さくなるんだ。一ミリ位まで。それから

静岡の街まで小さいまま飛んで、駅のトイレに入って一センチ位まで体を大きくして個室

のドアを内側から閉めて、そこで人間の姿に戻るんだよ。どきどき、人間の荷物に紛れて

東京まで戻ってくることも有る。だけど、これは危ないんだ。コップの下敷きにでもなった

脱出不能だからね」

 アンヌは、ダンを前に初めて笑った。

「もう一度だけ、君のところに来る。今日は、帰るよ」

 木村は、そう言って立ち上がった。

 玄関でダンを見送りながら、アンヌは堪えきれずに言葉を発した。

「ダン! あの…、今はどこに住んでるの? それに、今の貴方の名前は……?」

 木村は、アンヌの双眼をまっすぐに見て言った。

「それは、言わないよ。……ただ僕には、セブンとしての使命があるだけだ」

 木村悟は、そう言い残して去っていった。

 雪がちらつく家の前の道路を、ゆっくりと走る車からは、ワムの『ラスト・クリスマス』が聞

こえていた。

 12月22日。金曜日。

 山雨乃兎は、兵庫の自宅で新人賞投稿用の作品を、コンピューターからプリントアウト

していた。

 プリンターから吐き出される紙の音を聞いているのは心地よい。

 しかし、頭を抱える問題も有った。

 蒼星出版から送られてきたウルトラマンシリーズに関しての資料がA4サイズの分厚い

封筒に入って文机の上に置かれている。

 正午を少し回ったところで、左手に据えたTVには、バラエティー番組『笑っていいとも』

が流れている。

 ーーー今日のゲスト、ビーダックのリーダー、小紫久典さんです! タモリが『テレホンシ

ョッキング』のゲストを紹介した。

 発音の聞きとりにくいタモリの声と小紫の飄々とした喋りの会話が始まる。

(昼飯でも創ろうか)

 山雨は、そう思いながらも煙草に火をつけ、喫いながら放送を見る。

 お土産も渡し終わって小紫がひと息つく。

 ーーーどう、元気?

 と、タモリ。

 ーーーあっ、そうだそうだ。タモリさんねェ、今度、僕、本出すんですよ!

 そう言いながら、小紫はウルトラマンの写真が装画として使われている赤い地表紙の

四六判ソフトカバーの本を、TOKYU-HANDSのビニール袋から出した。

 ーーーへーえ、小紫君がウルトラマンの本? 君らはウルトラマンしてた頃、まだ生まれ

てないでしょ?

 ーーーええ、でも再放送とか観てますから。それと、タモリさん。ウルトラマンじゃなくてウ

ルトラ兄弟について書くんですよ。全般的に。

 タモリが、サンプル本をパラパラと捲った。

 ーーーおお! これは! ハッハッハッハッまっ白じゃない?

 小紫は、あわてて本を掴もうとする。

 ーーーまだ、書いてないんですよ。

「それは、俺が書くのだ」

 と、山雨乃兎は、TVに向かって喝を入れた。

 ーーーいつ発売?

 ーー来年の六月……を予定してるんです。

 ーーー小紫、本当に書けんのか?

 タモリが、意地悪な質問をする。

 蒸気の噴射がセットの後方で突然起こった。

 ーーー何? 今の……

 タモリが珍しく本番中に動揺を顕わにした。

 ーーーああ、そうだった。タモさん。今日は、バルタン星人さんに来てもらってます。

 小紫がそう言い終えるのと同時に、大きな鋏を顔の両横に保持したセミの化け物が、セ

ットの中央の奥から現れた。

 ーーーフォフォフォフォ・フォフォフォフォ!

 タモリが興味津々といった表情でバルタン星人の傍に寄っていく。

 ーーーいやいやいやいや、久しぶりです。…凄いねェ、本物みたいだねェ、小紫君。っ

て、本物を見たわけないか? こりゃ失敬。

 そう言って、タモリは、客席に向かって照れ笑いをして自分の額を自分の手で叩き、両

手を頭の上に持ってきてお定まりの指揮をする。

 客席で四回、小気味よい手拍子が起こる。

 ーーーけど小紫君。本物っぽいよ。分裂しかかってるよ。

 ーーータモさん。っんな訳ないでしょ。

 バルタン星人の全身の輪郭がぼやけて左右に一体ずつ別の身体が見えている。

 ーーー凄いなァ。最近の着ぐるみは……。

 と、小紫も感心している。

 バルタンは、ステージの前へ進んでいき、小さな口から赤い光を広角に広げて放射し

た。

 鋏を交互に頭上に振り上げ、下半身は屈伸させてダンスのように動き出した。

 ーーーひゃーあーー!!

 観客席で悲鳴があがり、会場全体にどよめきが起こった。

 TVカメラが、一瞬、全身が霜に覆われた少女を映した。

 ーーーおい!! 逃げろ皆! こいつは本物だ!!

 タモリの大声が会場に響く。

 スタッフジャンパーを着た男たちが、カメラに写り込むのを承知で奔走をはじめた。

 ーーー警察! 電話!

 ーー救急もだ!

 ーーーCM行け! 一旦、CM!!

 バルタンは、四体、八体、十六体と分身をみるみる増やしていき、スタジオ・アルタは、

ギャラリーとスタッフと芸能人と宇宙人の混在する異様な雰囲気となった。

 12月23日。土曜日。

 天城正一は、昨日の『笑っていいとも』の放送中の事件を見て心中おだやかではなかっ

た。

 事件を知って、すぐに現場に駆けつけたが、バルタン星人はもう消えていた。

 スペシウム・レーザー砲は曽我によって二十一日には完成していたのだが、バルタン星

人が神出鬼没なので有効に使う場面がない。 ウルトラ警備隊は現在、二十代、三十代

の若い隊員たちで再構成されている。天城は、隊長を務めていた。

 午前十一時。ウルトラ警備隊基地の門のインターホンを押す来客があった。

 警備隊基地の所在は、秘匿にされており、その門も、一般の人が見れば何の変哲もな

い一戸建て住宅の門に過ぎないのだった。しかし、通行は厳重に管理・制限されている。

 部下から、珍客の来訪だと聞かされ、天城がモニターの前に立った。

 地球防衛軍関係者からウルトラ警備隊隊員以外通行を許されていないゲートを天城

は、この珍客には例外として開いた。

 ウルトラセブンだったからである。

 ウルトラセブンは、基地へ通じる廊下を歩きながら、宇宙人特有の電磁気を発して職員

を圧倒しながら、丁寧におじぎをして司令室まで入ってきた。

 隊長の天城の前に来ると、「ヘスッ」と言って胸郭を開き人間の姿に戻り、肘を張ってウ

ルトラ・アイを外した。

「ダン!」

「アマギさん。お久しぶりです。貴方の前でセブンのまま居る事はないと思いまして」

 木村悟は、そう言って右手を差し出した。

 天城と元・諸星ダンは、握手を交わした。

「バルタン星人の狙いは、人類滅亡と、自分たちの移住です。今回は、彼らは、たった四

人です。もう、それだけしか生き残っていなかったんです。それで、……二十五日に東海

第二発電所が狙われます」

「通信を傍受したのか。……バルタン言語が分かるのか」

「ええ、僕には分かります」

「それじゃあ、我々も備えることにしよう」

 12月24日。

 東京は、雪の降らないクリスマス・イヴとなった。

 四方田弾斗は、夕方、港区麻布十番にある海原俊三の邸宅を訪れた。

 海原氏担当の編集者が他の仕事が入ってしまい、四方田に割り振られたのである。

 この一件さえなければ、今日は丸一日オフだったのだが…。

 蒼星出版からお歳暮を持ってご挨拶という訳である。

 応接間に通されて、すぐ海原が赤ら顔で現れた。

 今年も、先生には大変お世話になりまして、これは、弊社からの感謝の気持ちです、と、

四方田は、熨斗(のし)のついた箱をテーブルに置き、相手へ頭を下げて両手で前へ滑ら

せた。

「おう、これはこれは、こちらこそ世話になって、いつも済まないね」

 と海原は言い、続けて、「おい、緑くん! グラスと氷を持ってきてくれ!」と、家の奥に

向けて大声で言った。

 藍色の着物に袴姿である。

 随分、顔がふやけたものだ、と四方田は思ったがそれを口にする訳はない。

「君も、一杯つき合うだろう?」

「ええ、喜んでお付き合いします」

 大家の誘いを断ると、この世界から干されかねない。

「早速、開けさせてもらうよ」

 そう言う前から海原のごつい指は、歳暮の包みを無造作に破りかけていた。

「おう! 毎年、済まんねェ」

 シングルモルト・ウィスキーの山崎のボトル二本である。

 海原はテーブルに一本を置き、テーブルのガラス面の下からナイフを取り出しパッケー

ジを剥がした。

 これは、お世話になっております、と目礼しながら、緑と呼ばれていた女が背の低いグラ

スと氷とチーズの盛られた皿を載せた盆を持って応接室に入ってきた。

 色の白い丸顔の童顔の女だったが三十代後半くらいだろうと四方田には思えた。

 黒いスリムジーンズにクリーム色のセーター。適度な脂肪のついた身体は艶めかしくも

あった。

 海原俊三は、六十三歳。妻は十年前に亡くなっている。

 それから酒が入り、海原は、最近の文壇に対しての批判を繰り広げた。

 書けなくなった貴方に、それを言う資格などない、と、四方田は腹のなかで何度も言っ

た。

 海原の一家言が、一通り終わり、海原自身も酔ってきたため、これでやっと解放される

と思った頃、海原がぽつりと言った。

「四方田君。……君とは長いつき合いだ。……今じゃ君は、僕の担当という訳でもない

が……君に言っても仕方ないか……」

「何でしょう。承っておきますので、仰有ってください」

 海原は、ソファーに深くもたれかかり、グラスを右手に持って、左手の人差し指と中指で

そのふちを静かに二度叩いた。

「何で、35年ものなんだね?……今までは毎年、50年ものだったじゃないか」

 ウィスキーのことだ。

 それは、貴方にそれだけの心づけをする価値がなくなったからだ。というのが結論だ

が、それを言ったら人間関係はお仕舞いだ。

 のらりくらりと海原の追及の矛先をかわしてやっとの事でおいとますることができた。

 時刻は、十時三十分を回っていた。

 大通りでタクシーを拾い、弾斗は東京プリンスホテルに向かった。 フロントで、予約を

入れておいた、と名前を告げると、

「お連れ様がお部屋でお待ちです」

 と言って、フロントマンは内線電話を入れてくれ、部屋番号を教えてくれた。

 部屋に着くと、絹川麗奈が抱きついてきた。

 これから二人だけの夜を愉しむのだ。

 今日は、クリスマス・イブなのだ。

 愛し合うための聖夜なのだ。

 四方田弾斗は目を覚ました。

 オレンジ色のルームランプが弱く室内に色をつけていた。

 覚醒してすぐは、ここがどこかも思い出せなかったが、徐々に記憶が戻った。

 イヴの夜を麗奈と過ごしたのだった。

 思う存分、彼女と睦み、きつい酒を飲んでしまった。

 左隣に、麗奈が眠っている。清楚な髪が頬に貼りついている。

 枕元のデジタルは4:03AMを示している。

 酒のせいで眠りが途切れたらしい。

 女の人の声が聞こえる。何か朗読しているような。

 まさか幻聴だろうか?

 深夜の四時で、ここはホテルの十三階なのだ。

 窓の傍に寄ってカーテンを開けた。

 微かに何か聞こえる。

 この時間は明かりがついていない筈の東京タワーが眼前に赤く聳えていた。

 換気のためにある天井に近い横窓をハンドルを回して少し開けてみた。

 ーーー東京地方、只今、戒厳令が出されております。皆さん、戸外に出ないで下さい。

詳しい情報はTV放送でご確認ください。ーーー東京地方、只今、戒厳令が……

 東京タワーからと思えるアナウンスがしている。

(何の事なのだ? 日本で、戒厳令とは何なんだ……)

 弾斗はハンドルを反対に回して窓を閉め、麗奈の横に再び潜り、ベッドサイドのTVのス

イッチを入れた。

 バルタン星人とウルトラセブンが戦っていた。

 最初は、再放送の特撮ドラマだと思っていたが、次の瞬間、アナウンスと字幕が流れ、

現実だと気づかされた。

 ーーー皆さん。今、放送しておりますのは現実です。ここ、茨城県東海村に、バルタン星

人が出現しています。今、ウルトラセブンが戦っています。えっこちら、茨城県東海村から

衛星中継でお伝えしております。……あっ!

 ウルトラセブンがバルタン星人の赤いレーザーを浴びた。

 セブンは、わずか一秒ほどで動けなくなった。

 バルタンは、レーザーの照射をつづける。

 セブンの身体が霜に覆われていく。

 弾斗は、ベッドサイドに置いていた腕時計の秒針を見つめた。

 赤いレーザーの照射は三十秒もつづいた。

 セブンは、ビームランプの明度を落とし、ファイティングポーズのまま前に倒れた。

 ーーーBooth gate open!  Booth gate open!

 ーーーReady!?

 ーーーAll right!

 ーーーLet`s go!

 天城隊長率いるウルトラ警備隊は、ウルトラホーク1号と3号で出撃した。

 天城は、ダンの言っていた二十五日というのが時刻として何時になるかは分からない

ので、いつでも出撃できるように昨晩から隊員と共に基地に泊まり込んでいた。

 神出鬼没なバルタン星人の出現をレーダーで観測して、すぐにも動きたかったのだが、

曽我がT大から来てレーザービーム砲にスペシウムのさらなる充填をしてくれていた処だ

ったので、バルタン星人の出現から十分遅れの出動となった。

 発進してすぐのウルトラホーク3号に、ホーク1号の天城隊長から無線が入った。

 ーーーセブンが倒れているらしい。3号は、マグネリューム・ガンをとりに基地へ戻ってく

れ。

 四方田弾斗と絹川麗奈は、TV画面に釘づけになっていた。

 ーーーバルタン星人が何か話しています。音声を拾います。

 寝起きのまとまらない髪を手で抑えて、現地のアナウンサーが伝える。

 ーーー地球人の諸君。我々は、今、移住する星を求めている。ようやく辿りついたこの

地球は、住むにふさわしい。我々は、まず、この日本から乗っ取ろうと思っている。この原

子力発電所を今から攻撃する。……

我々は、放射能には或る程度の耐性を持っている。我々の星も過去に放射能汚染で滅

びたからだ。しかし、君たちはどうかな? 放射能に耐えられるかな。……セブンは処刑

する。

 自衛隊のF15戦闘機が三機、バルタンの周りを縦横に飛んで攻撃しているが殆ど歯が

立たない。

 大型兵器を使うのには、民間への被害が懸念されるのだろう。

 ウルトラセブンは、原子力発電所の隣の森に、顔を横向きに、ファイティングポーズのま

ま倒れている。

 ホーク3号は、マグネリューム・ガンを積んで再び発進した。

 現地に到着したホーク1号は、ただちにスペシウムレーザーをスタンバイし、体長50メ

ートルのバルタンの背後から、奴の頭に照準を合わせた。

 ーーーLock on!

「撃て!」

 天城の命令でスペシウムレーザーがα号の先端から発射される。 バルタンは、一時的

に動きをにぶくしたが再び動き出し、ホーク1号に襲いかかる。

 鋏の間から破壊光弾を撃ってくる。

「隊長! 何故、効かないんでしょうか?」

 操縦桿を握る秋月隊員が天城に訊く。

「大型化しているからだろうな……」

 同乗していた研究者の曽我が、天城に代わって答える。

「やれるだけは、やってみよう」

 ホーク1号、バルタンの正面に回り込み残りのスペシウムを奴の左目に向けて発射し

た。

 スペシウムが目標に当たる寸前に、バルタン星人は、突如消えた。

 次の瞬間、二十メートル南に姿を表した。

 瞬間移動したのだ。

 スペシウム・レーザーは、民家を直撃し、火災が起こった。

「しまった!」

 レーザーの発射ボタンを押した丸山隊員が舌打ちをした。

 ホーク3号は、横たわるセブンに低速で接近しながら、マグネリュームエネルギー弾を

計六発、額のビームランプに投射した。

 セブンは復活した。

 原子炉に向かっているバルタン星人の背後につき、空中で左手の手刀を横に、右手の

手刀をその後ろに組んだ。

「ワイドショットの構えと違うぞ」

 戦況を見守るホーク1号の操縦室で、天城正一はそう呟いた。

 セブンの右手からオレンジ色の光線が発射され、バルタン星人に命中し、バルタンは後

ろを振り返りながら倒れ、息をひきとった。

 森から円盤が飛び立った。

 ウルトラセブンは、円盤を追い、またもや空中でスペシウム光線を撃ち、円盤は、空中

で爆発した。

(ありがとう。ウルトラセブン。……ダン!)

 基地へ帰るウルトラホーク1号の機内で隊長の天城は心の中で礼を言った。

 12月26日。火曜日。

 四方田アンヌは、自宅の大掃除をしていた。

 今年ももう終わろうとしている。

 夫との充実した日々がこれからも私には有るのだ、と、そのささやかな幸せを思い、新

しい年を迎える準備に専心していた。

 換気扇の油落としが終わった午後四時、来客を告げるチャイムの音がキッチンの隣の

居間に響いた。

「ダン!」

「もう一度、ここへ来ると言っただろう」

「貴方は、いつも、四時に現れるのね」

 アンヌは、木村を部屋へ誘ったが、木村は応じなかった。

「アンヌ、君にお願いがあるんだよ。……弾斗君に、コレを渡して欲しい」

 木村は、ハンカチにくるんだそれをアンヌの手に握らせた。

「これは……」

「何も言わずに、渡すだけでいい。彼は、その意味を知っているよ。……それじゃあ、アン

ヌ、元気で」

「待って、ダン!」

 アンヌは、慌てて彼の跡を追ったが家の前の路へ出てみるとダンの姿は消え去る大型

バイクのテールランプの点滅として、その微かに赤い光を確認するにとどまった。

 翌、27日。

 アンヌは、息子のケイタイに電話し、池袋駅前の蒼星出版の近くの喫茶店で弾斗と会っ

た。

「母さん、わざわざ会って話すような事があったのかい?」

 弾斗は、キリマンジャロとガテマラのブレンドコーヒーを飲みながら、訝しんだ。

「弾斗……、或る人からこれを預かってきたの」

 そう言って、アンヌは白いハンカチに包まれたままのそれをテーブルの上で押し出し

た。

「ええ?」

 と、弾斗は言って、それからそのハンカチをテーブルの上で上から握ると、急に神妙な

表情に変わり、「わかった」と言った。

 それから、二人は、無言でコーヒーを飲んだ。

 勘定を済ませ、店先で別れる時、アンヌは、弾斗を見上げて一言だけ言った。

「命を大切にするのよ」

 四方田弾斗は、仕事を終え、埼玉の自宅に戻った。

 弾斗には、それが何なのか分かっていた。

 四、五年前からしばしば観る夢にウルトラの星での記憶、有る筈もない記憶が再現され

ていたのだ。

 赤いゴーグル。

 ウルトラ・アイ。

 ユニットバスの鏡の前に立ち弾斗は、それを装着した。

「デュワッ!」

 セブンの自意識が弾斗の脳内に浸入してきた。


 

                      (終わり)





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