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『第一回、東京家出の記』ーーー6 [自作原稿抜粋]

 次の朝になって、俺は、面接に動く、とM君に伝えた。

「そうか、頑張れよ」

 俺が、彼のアパートを出かけると、M君は、

「楽器、置いて行けよ。動き回るのに邪魔だろう」

 と言った。

 俺は、彼の助言には従わなかった。

「いいや、大丈夫だ」

 そう言って俺は、トランペットと荷物を持って彼のアパートを出た。

 東京では、生きていくだけで大変である。

 M君のことは、俺は、剰り信用していなかった。何しろ出会ったばっかりだし。

 東京で一番大事なのは、経済力だろう。

 彼が、俺の楽器を高値で誰かに勝手に売るかも知れない。楽器を預かったことさえ、知らないと言ってなかった事にするかもしれない。

 大都会では、一万円を拾っただけでも価値は有るのだ。誰もが他人であり、拾った金をくすねる等は当たり前だろう。

 寮のあるところばかりを選んで電話をかけて動いた。

 俺は、どこか忘れたが、喫茶店で履歴書を書いて、東京からは少し離れた都市のプラスチック製品の製造をやってる会社に、まず面接に行った。

 しかし、俺は元来馬鹿だった。面接してくれている社長に、「本当は、ドラムのプロになりたいので、その間のつなぎの意味で就職出来ればいいんです」などと、言ってしまった。

「惜しいなぁ、君のような真面目な子なら、本気で技術を習得してくれる気で来てくれるのなら、今すぐにでも即決するのになぁ」

 と言われて、結局、そこは不採用だった。

 次は、東京都内の有線放送の会社、現在のユーセンと同じ会社か、フランチャイズ展開の支店だったと思うが、面接に行った。

 ここでも、俺は、馬鹿なことに、「本当になりたいのは、ドラムのプロなんです」と言ってしまった。

 面接官は、

「アンタねぇ、そんなドラムなんかで食えますか? よく、軽音楽で夢を追う人、多いんだよね。特に、アンタのような年代には。それに、ドラムなんか、音程がないから簡単だから誰でもその気になっちゃうんだよね」

 とか言われて、結局、そこも不採用だった。

 俺は、その日、時間的にもう面接に動けなくなった。

 とりあえず、M君のアパートに今夜も厄介になろうと思った。

 電車に何度も乗ったが、M君の家に辿り着けなかった。

 地理に疎い俺は、M君の住所を聞いていなかったので、彼の家を探すことができなくなった。

 電話番号は聞いていたが、何度かけても、M君は出なかった。

 杉並あたりか、新宿の静かなところ辺りか、とにかく都心ではあるが淋しいところを右往左往して、その晩は、住宅地の公園などで、ベンチに横になって過ごした。

 何度も同じところを通るので、他人のその地所の人は、「変な奴が居るなぁ」という目で俺を見ていた。

 ホテルにでも泊まりたかったのだが、金の管理の安全性の意味から俺は、所持金の殆どを銀行に預けてしまっていた。

 そして、銀行は、丁度、土曜日でATMさえ閉まってしまっているのだった。

 ホントに馬鹿だった。

 重いトランペットのケースとショルダーバッグを抱えて、俺は、東京の中心で眠るところさえなく、ただ、歩くしかなかった。

 

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