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『第一回、東京家出の記』ーーー5 [自作原稿抜粋]

 次の朝、例の喫茶店に行った。

 だが、まだ早かった。

 一度、店を出、散歩し、(出来るだけ東京の各所も見ておこうと思って)二時間位時間を潰したが、結局、喫茶店に戻るしかなかった。

 大阪からミュージシャンになる為に家出してきている同年代の男と会わねばならない。

 昼は、牛丼を食べて、少し散歩して、喫茶店に戻った。

「注文は、後でするから」

 と言って、僕は喫茶店の席に座り続けた。

 午前中に一度、喫茶店でコーヒーを注文していた僕は、三時過ぎから入ったときには、何も注文せず、ひたすら件の彼を待った。

 彼が来て和んだ。初めて会うことになった訳だが、「君もプロを目指して出て来たのか」と労いを受け、和んだ。M君もH君もエレキギター担当だった。

 マスターが、僕らの席に来て言った。

「お前なぁ、昨日、ウチの子に何も挨拶しなかったそうじゃないか。それに、今日、長々と待つ時でも、注文くらいしろよ。待合室じゃないんだから」

 と、そんな意味の説教を三十分くらい受けた。

 昨日、M君のことについてウエイトレスに訊いたのも、充分にお礼を言っているつもりだった。だが、もっとはっきりした態度が伴わないと、お礼を言ったことにはならないらしい。東京では。

 自分の田舎の喫茶店なら、注文せずに相方を待つのに、長い時間かかっても何も文句を言われない。

 そうなのか、俺が間違っていたのか、と自戒した。

 大阪からミュージシャンを目指して上京したM君と、地元が関東で『もんたよしのり』のバックの演奏の仕事をたまにやってる(一寸、思いだそうとしたが正確ではない。『もんた&ブラザーズ』のライブの時に前座をやっていたのかも知れない。前座と、プロのバックバンドでは大違いだが……、思い出せない)H君に、僕の現在の状況を説明して相談した。

「お前、二十万しかないのか。それなら、蕎麦屋のおか持ちしかないな」

 と、H君。

「ミュージシャンを目指してる、とか、そんな余分な事言わなくていいんだよ。とにかく、おか持ちが一番手っ取り早いから」

 僕は、アパート暮らしをするのに、礼金敷金が要るのを全く知らなかった。ひと月の家賃が高くとも、五万、六万くらい有れば、すぐにもやっていけると自分では思っていた。

 その晩は、三人で初顔合わせの乾杯を、その喫茶店でやって、俺はその晩、M君のアパートに泊めてもらった。

 眠る段になって、M君は、「おい、そんな睡眠薬(持病の不眠症の為に医者から処方されたもの)なんかやめろよ。そんなのは中毒みたいなモンだから、飲まなきゃ飲まないでやっていけるよ」

 と、言って、俺の服薬を禁止した。

 眠れないまま、俺は東京の二泊目の夜を過ごした。

 方向音痴の俺には、東京のどこに泊まったのか記憶がない。何せ、喫茶店から大分歩いて、渋谷の駅に行って、山手線と地下鉄を乗り継いだ所だった。

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